道中
「駅を出たら左折……、駅を出たら左折……。」
電車内で呪詛を吐いてしまう。
しょうがないじゃない。
初めてなんだもの。
「ここが芹那さんの……、街……。」
正確には住んでいる場所だろう。
しかし、私にとっては芹那さんがいる街、それ以外の意味を見出せないのだ。
『いや、実は明日夏祭りなんだー。』
『よかったら、一緒に回らない??』
『もちろん、用事がないなら、だけど。』
あんな笑みを浮かべられたら、断れないじゃない。
もちろん、用事はなかった。
「(断る理由もなかったしね……。)」
気分が高揚しているのが自分でもわかった。
大丈夫かな。
笑みがこぼれていないか、トイレの鏡と向かい合う。
「あ~!!」
「可愛すぎかよ……。」
時計の針は昼の1時を指していた。
「確か、ここのバス停で待ち合わせ……、だよね。」
時間も場所もあっている……、まさか。
過去の思い出が責める。
曰く、何を考えているのかわからない。
曰く、内心では他人を見下している。
曰く……。
「ごめんつっきー、遅れちゃった。」
「あ……。」
来てくれた。
忘れていたわけじゃないんだ。
「ごめん、こっちから誘ったのに遅れちゃって。」
「ううん。大丈夫です。それに……。」
息切れしている彼女の手を取る。
「来てくれましたから。」
今日は楽しい日になる、そう、予感した。