ホワイトクロウ始動 5
◇
「ちょっと、ホントにやるの? 昨日の今日だよ?」
「分かってないな、ブラン。昨日の今日だからよいのだ! 興奮が高まっているから成功するのだろう」
「いやいや、昨日まで攻めてきてた連中なんだよ?」
「大丈夫! 死人はリーダー、一人だけだ」
昨日、ダンとダーウィンのタイマン勝負の結果、残りの約百五十人も降伏し、先に離反してきた者を合わせて、ホワイトクロウは約二百五十人と大量の軍用物資を受け入れることになった。
オルデンの兵士も若い者から年配まで幅広くいたが、ほとんどは二十五歳未満。下は私たちより年下の、十二歳の兵士までいるような状態だった。
聞けば、四十歳を超える者のほとんどは幹部か負傷者らしい。オルデン自治同盟の支配地域も、私たちの町と同様に人手に余裕があるわけではない。
若い兵士のほとんどは、私たちと同じように孤児で、兵士になるしか道がなかった者ばかりだった。
「俺も反対だぜ? スパイがいるかもしれねーし、どうなるか保証できねーだろ?」
「ダンはいつから町の大人を信用するようになったんだ? そんなの、オルデンだろうがそうでなかろうが、同じだろう。幸せだと思えば勝手に生活するよ」
「そもそも、なんでエミルはこんなお見合いパーティーみたいなのしたいのよ?」
「それは……」
「エミルさん! 時間です!」
お見合いパーティーに駆り出されたホワイトクロウのスタッフが呼びに来てしまい、話が途中で頓挫してしまった。
残された私はダンと目を合わせ、ため息をついた。
会場は、半壊したまま未だ復興の目処が立っていない町議会場。
外壁の一部は崩れ落ち、建物には戦争の爪痕が残っているが、議場と傍聴席は使える状態だった。
議員席は三百席くらいあり、そこに参加を希望したオルデンの人間約百五十名と町の男女約百五十名が集められている。上階まで続く傍聴席には、家族を含む町の人たちが千人近く詰めかけていた。
元々は町の政治を行う場所だったのだろう。議員席が扇状に並び、正面には立派な議長席が設けられている。壁にはひびが入り、所々に補修の跡が見えるものの、巨大なモニターは今でも使えるらしい。
かつては町の将来を議論していた場所なのだろう。今は将来の伴侶を探す男女で満席になっている。
議題は変わっても、利害の一致が難しいことに変わりはなさそうだ。
よくもまぁ、こんなに集まったものだ。
参加者の中には結婚相手を探す大人だけでなく、仕事や知り合いを見つけたい若い子たちもいた。もはや 婚活、親睦、元敵兵との融和。何でもかんでも一緒くたにした、前代未聞の珍催事である。
議長席はエミルのために空けられ、進行席には私が着かされていた。
目の前には大勢の男女。その向こうの傍聴席にも、こちらを見下ろす人。
昨日まで敵同士だった人間を集めて、私は一体なにをやらされているんだろう。
「ええ、コホン。今回進行を務めさせていただくブラン・モランです。よろしくお願いします」
「「「……………………」」」
うん。みんなシーーーンッとしてるわー。
そりゃそうだよねぇ……ならず者集団と見合い?
むしろ町の人もよく集まってくれたよ。今すぐ隠れたい……
「で、では……主催者のエミルさんから一言」
私は逃げるようにエミルへ進行を渡した。
すると、突然議場の袖からエミルが走ってきて、議長席の上にマイクを片手に飛び乗った!
黒いロングコートが大きく翻り、銀色の装飾が照明を浴びてキラキラと輝く。裾に重ねられた青い透けた布が光を反射し、胸元のホワイトクロウの紋章まで妙に目立っている。
ワインレッドのサングラスを指先で直すと、エミルは会場全体を見渡した。
「良い女と出会いたいかーーーー!」
エミルは男性陣を見渡した。
「女! 優秀な男と出会いたいかーーー!」
今度は女性を見渡した。
あの奇抜な衣装といい、尊大な口上といい、まるで世紀末の歌姫である。
皆も『おー!』とはさすがに言わないが、男性も女性も少し表情を綻ばせ、互いの顔を見渡している。
最初は警戒していたオルデンの兵士たちも、隣に座った町の人たちを気にし始めたようだ。
「おい! そこのオルデン兵の若いの! 君の売りはなんだ!?」
エミルは十五、六歳くらいの男の子を指した。
カメラが男の子に向けられ、巨大なモニターに映し出されると、恥ずかしそうにしている。
「え? お、おれ? こ、こう見えてウチはマッサージ師の家系だったんだ。親が生きてた時は、よく教えられてたんだよ」
「そうか! それなら未来の奥さんも夜はメロメロだな」
「い、いやぁ」
会場が笑いに包まれると、男の子は周囲の男性たちにからかわれている。
本人は耳まで赤くしているが、さっきまでの張り詰めた雰囲気は少し薄れたようだった。
「じゃあ、オルデンのそこの女! あなたの一番の売りは?」
「アタシ? なんだろ? 少年部の空手大会で優勝したことかな?」
「おお……じゃあ軟弱な旦那でも守ってやれるな」
「やだよ! 私より強い男がいい!」
その返答に、また会場から笑いが起きた。
今度は町の人たちも笑っている。最初は元オルデン兵というだけで距離を置いていたのに、隣の相手へ話しかける姿まで見えるようになった。
「今回は一人一人にプレートが用意してあるでしょ? そこに自分の売りを一つだけ書いて首からぶら下げてくれ。一つだけだよ。沢山書いてあるとウゼーって多分思われるからな。それをぶら下げてみんなで立食パーティーをしよう。好きに声をかけて、まずはお互いを知る」
エミルがそう告げると、スタッフに促された参加者たちが、それぞれ配られたプレートを手に取り始めた。
何を書けばいいのか分からず隣の人に相談している者もいれば、早速ペンを走らせている者もいる。
それにしても、昨日まで武器を持っていた連中が、今日は自分の長所を首からぶら下げようとしている。
……なんなんだ、この光景は。
「最後に気に入った相手をタブレットで選んでもらうぞ! 告白するもよし、友達になるもよし、あとは好きにしてくれ!」
◇
「僕、えっと、実はオルデン出身じゃないんです。捕虜から兵にさせられた口で、元々はド田舎に住んでて……」
「俺は戦いなんて好きじゃねー。オルデンっていっても本当に兵隊だったやつなんてホンのひと握りさ。生きてくためにいた。そんな奴らばかりだったんだ」
私は会場に降りて参加者の様子を見て回った。
オルデン兵の男たちの多くは『自分は兵士ではない』『生きていくため』『捕虜から――』などと話し始め、自分が危険な人間ではないことをアピールしていた。
昨日まで軍歴として誇っていたものが、今日は真っ先に弁明すべき前科前歴になっている。
所属を明かせば相手が怯え、隠せば後で疑われる。
どうやら戦場での昇進は、婚活市場では必ずしも出世にならないらしい。
しばらく見渡していると、カメラを持ったスタッフがエミルを追って立食パーティー会場を歩いていた。
エミル一人だけサイバーパンクな出で立ちだから目立ってしょうがない。
するとエミルは、男女二対二で食事をしていたグループのところへ向かい、今度はインタビュアーとして話しかけた。
「どうだ!? このおねーさんたちにムラッとするか?」
『ブッ!』
町の男の子の一人が飲み物を吹き出した。
「ええ!? イキナリそんなこと聞くんすか?」
「名前は?」
「シデンですよ」
「ぼくはスプラ」
そんな品のないやり取りが巨大なモニター越しに会場へ流れ、笑いに包まれている。
「おねーさんたちはどう? ちょっとこの男の子たちじゃ若い?」
「いや、年齢は気にならないよ。私らオルデン兵なのに普通に話しかけてくれて嬉しいよ」
「そうね。ここの町の人は、温かい人が多いね」
「そうじゃなくてですねぇ……ぶっちゃけ、イケるかどうかッス」
「「ええ?」」
当たり前だが、オルデンの女性兵も困惑している。
エミルのお構いなしにズバズバ聞くスタイルに、会場は大笑いだった。
「ジェニーさんの売りは……絵を描くこと……シデンはパン屋で万引きするのが得意だったんだけど合うかなぁ」
「エミル! 言うな! プレートには《足が速い》って書いてるだろ!」
なるほど。万引きの逃げ足を《俊足》と称するとは、なかなかの粉飾ぶりだ。自己申告という制度の脆弱性を、私は初めて目の当たりにした。
機械なら型番から性能を調べられるが、人間の仕様書はどうにも信用ならない。
「あら、ヤンチャなのね。シデン君は」
オルデン兵のジェニーは少し大人びた顔でニヤリと笑った。
そんな調子でエミルはインタビュアーとして会場を荒らし回り、そのたびに笑いが起きた。
参加しなかったオルデン兵も次第に笑顔になっていき、後輩の兵に「お前の一押しは、前線に出るのが怖い『優しさ』だろー!」と野次を飛ばす者まで現れた。
場が異様な盛り上がりを見せた頃、司会をいったん休憩し、参加者たちにはそのまま自由に交流を楽しんでもらうことにした。
私とエミル、ダン、ウイカ、それに弟のタカは主催者席で食事を取った。
するとダンが機嫌悪そうにエミルに突っかかった。
「お前なぁ……明日になったら、オルデン兵の中に裏切って逃げちまうやつがいるかもしれねーぞ?」
「帰りたいやつは帰る。それでいいではないか。なぜいけないのだ? 自由だろ」
「いや、情報とかをだな?」
「聞けばどこも同じようなものだろ? 戦争でマトモな国なんてないんだから」
エミルは相変わらず大量の肉を食べながら答えている。
しかし私も疑問点はあった。
「ところでさ? 結局エミルは何目的でやってんの? これ? 和平?」
「へっ? 違うぞ。せっかく町のおじいさんがこのカッチョイイ服を作ってくれたからだよ」
「服ー!?」
「そうだよ。なんかイベントの司会者になれば一番目立つだろ?」
「えっ? じゃあエミルねーちゃんは服を目立たせるために、わざわざこんなことしたの?」
八歳の子どもですらビックリしている。
「他に理由なんてないだろ? インタビューすれば一番カメラに映るのは、この服を着た私だ」
「「「はーーーー!?」」」
エミルはそう言うと、また肉をモリモリ食べ始めた。
ただ、目立つ服をみんなに見せびらかしたかっただけ。
たった一着の服を披露するために、敵軍の離反を誘い、町民を招集し、議会場まで押さえたのだ。
なんという壮大な自己顕示欲。
しかも、兵站まで完備している。
確かに私も十四歳。人よりちょっと可愛くなりたい気持ちはある。大いにある。
でも、服を見せびらかすために敵軍を巻き込む発想はない。
軍事とファッションがこんな形で結びつくとは、誰が想像しただろうか。
そしてシャトーブリアンのおかわりを要求している。




