ホワイトクロウ始動 4
◇
翌日、まさかの事態が起きた。
町へ続く一本道に、一台の補給車が停まっている。
荷台には白い布が掲げられ、風を受けてひらひらと揺れていた。
その前には、五人のオルデン兵が両手を上げて立っている。
見張りから報告を受けたダンが、慌ただしく部屋へ飛び込んできた。
「どうなってんだ! ブラン、お前がやったのか? 昨日いなかったもんな」
「いやぁ……やったというか……」
私はエミルに顔を向け、アイコンタクトで説明をしてと促した。
エミルはゆっくりとコーヒーカップを置くと、「フフッ、来たな! 恋愛厨め」とニヤリと笑った。
「恋愛厨? またエミルか……なにをしたら降伏するんだ? アイツらは」
ダンは呆れた顔をしてエミルを見たが、エミルは二階の窓から飛び出してしまい、オルデン兵のもとへ行ってしまった。
おいおい、普通に出入口から行けばいいのに!
私とダン、ウイカ、それに銃を構えた子どもたち数名で向かうと、既にエミルによって武装チェックは終わっていた。
補給車の脇には取り上げられた銃がまとめて置かれ、五人の兵士はエミルを囲むようにして立っている。
ホワイトクロウの子どもたちは銃を下ろさないまま、補給車と兵士たちを交互に警戒していた。
「この補給車と武器は、信用してもらうために持ってきた。俺たちは元々平和に暮らせれば略奪なんてしたくなかったんだ! スパイでもなんでもない。なんとか信用してもらえないか?」
兵士の一人が必死に訴えている。
軍服は汚れていて、ブーツも随分くたびれている。補給車の荷台には燃料缶や木箱が積み上げられ、わざわざ自分たちの物資を持ち出してきたことが分かった。
「お若いのぉ兵隊さんたち、このスケベちゃん」
「「「いやっ! お若いのって……」」」
オルデン兵五人が返答に困っている。
そりゃ見た目十歳くらいの女の子に言われりゃ、微妙な雰囲気にはなるわね。
見るところ、十代後半から二十代前半の五人が裏切ってやってきたようだ。
「しかし、五人なら選り取り見取りになっちゃうな。良かったな! お前ら」
「あっ、いや、まだ来るかもしれないっすよ……えぇと……」
「エミルだ」
「うん。エミルさんのチラシはめちゃくちゃ問題になって、敵の罠だってサブリーダーがチラシを集めて燃やしていたんだよ」
「ふむ」
「だけど、オルデン自治同盟自体そんなに裕福でもないし、毎回死人も出るから不満も多いんだ」
「はあ? そうなのか?」
ダンは驚いた顔をしている。
私も意外だった。ベルクハルト商会から送られてきた資料には兵力や装備の情報は載っていたけれど、そこで暮らしている兵士たちが何を考えているかまでは書かれていなかった。
「町を襲ったって町を運営できるわけじゃないし、そもそも町自体、あの戦争でどこもまともな生活はできてないんだよ。だから食料や女をその場でいただくけど、女を食わせていけるだけの余裕もない。結局、強盗みたいなことやヤバい仕事を転々としてやってるだけなんだよ」
「俺たちから聞けば、どんどんその勢力が増していると聞いていたんだがな」
「オルデン地区は、少しずつ奪ったりして復興はしつつあるけど、それでも……なあ」
オルデン兵たちは顔を見合わせている。
五人とも若い。装備を身につけているから兵士に見えるけれど、こうして話していると町にいる若者たちと大して変わらないようにも思えた。
私たちが苦しいように、他の地域もいうほど裕福ではないのだろうと、話から分かったような気がした。
オルデン兵には念のため足枷をつけさせたが、ホワイトクロウで食事は食べさせることにした。
エミルが取ってくる肉や魚。
食堂に運ばれてきた皿を見た途端、五人の反応が変わった。
焼いた肉から湯気が立ち上り、魚の香ばしい匂いが広がっている。
オルデン兵たちは勢いよく食べ始めた。
「こ、こんな美味いもの久しぶりだ」
「ああ、しかもこの量! 何年ぶりだよ!」
口いっぱいに肉を頬張りながら、互いの皿を見比べている。
食べきれないほどの肉が珍しいなんて、少し前までの私たちと同じだ。
オルデンでは今でも、まともな食事にありつくのが難しいのかもしれない。
「あとは……ホワイトクロウがオルデンに負けなければ」
「そんなに兵力高いの?」
私は端にいた一番年上そうな兵に聞いた。
「ああ、バトルウォーカーは戦時中に使われていた最新のものだし、町を制圧する小型ウォーカーの中じゃあれ以上はない……三十機あるからな」
「三十機? 情報じゃ二十だと聞いていたわよ?」
「ああ、ベルクハルト商会の情報かい? それは俺たちも警戒してたからな」
三十機。しかも最新鋭に近い軍用機となれば、こちらの自警団用ウォーカーとは性能差がある。
「だから、補給車にありったけ武器や燃料を持ってきたんだ。せっかくホワイトクロウに投降してもやられちゃったら意味がないからな」
そうか。この人たちも命がけだし、私たちに命を託すつもりで……そしてそれぞれの思いもあって来たんだ。
昨日まで仲間だった連中を敵に回している。オルデンに戻れば裏切り者として扱われるのだろう。
その覚悟で、こんな子どもばかりのホワイトクロウへ来たのだ。
「で、どの娘がタイプだ?」
「はっ……? えっと……じゃあこの子……かな」
「おお! 町一番の巨乳ちゃんだ! 町でも人気あるけど力の強いタイプ好きらしいぞ。君は自信あるのか?」
「はぁ……」
って! うぉい! シリアスな話をしている中、エミルはなにをしとんじゃーい!しかもエロ親父っぽいな。
いつの間に取り出したのか、エミルは例のチラシを机いっぱいに広げている。
オルデン兵は食事の途中なのに、エミルに写真を次々と見せられ、返答に困っているではないか。
「こらっ、エミル! 来てくれてもこの町を守らないとパーティーも反故になっちゃうでしょ?」
「大丈夫だよ。私がチラシを配っていた時、みんなスケベそうな顔をして聞いてたから」
エミルがそう言うと、五人のオルデン兵は下を向いてしまった。
……否定しないのね、あなたたち。
◇
しかし、エミルの予想は当たってしまった。
午後になると、町へ続く街道から複数の軍用車両が現れた。
今度はバトルウォーカー五機と装甲車四台。
報告を聞いた私は、思わず整備室から飛び出した。
軍用ウォーカーの大きな脚が、硬い路面を踏みしめながら近づいてくる。
三、四メートルの機体が五機も並ぶと、それだけでかなりの威圧感があった。
町の自警団に配備した機体とは違い、軍用の装甲が厚く、脚部の構造も頑丈に見える。
こんなものと正面から戦うつもりだったのかと思うと、ぞっとした。
ところが、先頭のウォーカーが足を止めると、操縦席から白い布が掲げられた。
後ろの装甲車も同じだった。
……また投降?
当然、ダンは警戒した。
子どもたちが銃を構え、自警団も集まってきたが、降りてきた兵士たちは抵抗する様子もなく武器を置いていく。
中には、最初に投降した五人と顔見知りらしい兵士までいた。
そこから先は、もう訳が分からなかった。
別の補給車がやって来たかと思えば、今度は歩兵を乗せた輸送車が現れる。
降りてくる兵士たちは揃って白い布を掲げ、エミルのチラシを持っていた。
オルデンの軍服を着た人間が増えるたびに、ホワイトクロウの子どもたちは武器の確認や車両の誘導に追われる。
整備を担当する私のところにも、次々と車両の報告が入ってくる。
燃料が残っている車両、部品を積んだ輸送車、まだ動かせるバトルウォーカー。
敵から奪うつもりだった軍用品が、壊されることもなく町へ運び込まれていた。
次の日になるまでに、投降したオルデン兵は男女合わせて百名。
バトルウォーカー七機、装甲車四台、輸送車五台まで集まってしまった。
広場にはオルデンの車両が並び、ホワイトクロウの子どもたちが途方に暮れながら見張りをしている。
食堂は投降兵たちの食事の準備で大忙し。町の大人たちも、運び込まれた物資の確認や寝場所の確保に動き回っていた。
昨日までは、どうやって二百五十人の軍隊を止めるかという話をしていたのに。
今は投降してきた百人をどうするかで、町中が大騒ぎになっている。
「こ、これは……エミルは分かっていてやったのか?」
ダンはエミルに尋ねるが、無視している。
机の上に積まれた報告書には、投降兵の人数と持ち込まれた軍用品が書き込まれていた。
ダンは何度も数字を確認しているようだったが、エミルはそんなものには見向きもしない。
「私はこれからパーティー準備で忙しい。これだけあれば負けはしないだろう。健闘を祈る。ブラン、行こう」
「えっ!? 私も?」
エミルは既に出かけるつもりらしく、いつの間にかカバンまで用意していた。
ダンは何か言いかけたが、今度は投降兵を受け入れる場所についてウイカから相談されている。
こうして私はエミルに手を引かれ、町へと連れて行かれてしまった。




