お祭りジャック 2
◇
「というわけで、まずは可愛い女の子と、カッコイイ男の子が二百名ずつ来るから、受け入れ準備を頼む」
「できるかー! そんな勝手なことして……」
私はダラムからもらった許可書をダンに渡した。
要は、許可というより「よろしくお願いします」といったお手紙だ。
「何故だ! 少年少女もいるらしいぞ。子どもばかり集めているロリコンのダンには嬉しい話だろ」
「ロリ!? ぬぬぬ! 人の気も知らないで……エミルも子どもだろーが」
「私はこれから監督になってくる! ダンは勇者になるため、ウォーカーの修行にでも励め!」
「はあ? 受け入れって何すりゃいいんだよ」
「んー! 多分大丈夫だと思うが、オルデン自治同盟のガルムの母ちゃんが来る。そいつが親玉だ。殺されないように保護しないと、本当に戦争になっちゃうぞ〜!」
「い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!? 相変わらず、お前はぁぁ」
ダンは歯ぎしりをして怒っているが、エミルは、知らぬ顔で町へと行ってしまった。
「おい……ブラン。話が百分の一しか分からんのだが、どうなってんだ」
「私だって分かんないよぉ。エミルと同い年だよ? ただ敵意はないっていうか……多分、受け入れ? 同盟? よろしくってことだよ」
「ちょっと、そこはちゃんとしねーと、やべーんじゃねーの? 同盟って話ならベルクハルトも敵になるかもしれねーし、なんて言ってたんだよ?」
リュウがダンを差し置いて口を出してきた。珍しい話だ。エミルとダラムの対談には余程の意味があるのだろう。
「分かんないけど……エミルは監督、監督ってはしゃいでたけど、要はオーディションすんのよ。踊れたりできる人を。今度来る四百人は合併のためじゃなくて、サンバの出演者候補なんだって。私も見たことがないから分かんないけど」
「それにオルデン自治同盟のボスが来るのか?」
「そうみたい。色々聞いたり、エミルがしつこいから一週間かかったの。最初は次の日に帰る予定だったんだよ。話を聞いたりして、じゃあ、ばあちゃん来てくれって」
「まぁ……つまり、兵隊じゃなく踊りのうまそうな少年少女が来るのね」
ウイカも首を傾げて、理解はしていないようだった。
「じゃあ、私も行くね。またエミルが不貞腐れてると面倒だから!」
「なら、私も行こう。本来ならエミルの監視のもとにいなくてはならないからな」
「はっ? ちっ……ジェニーめ」
「私だったらすぐにオルデンに入れたのよぉ。危ない思いをしなくても」
ジェニーはニヤリと笑って私を見下ろしている。
「おい! ジェニーまでエミルのお守りになると、こっちが手薄に……」
ダンは最後まで言わず、諦めた様子で言葉を止めた。
きっと言いくるめられるからだろう。
◇
審査会場には、屋根が半分吹っ飛んでいる体育館が使われた。
エミルは変な野球帽子みたいなのと黒いサングラスをかけて、ステージの横で前のめりに座っている。
そしてタンクトップにミニスカート。それはいつもの格好だ。なのに腰に上着を結んで装備している。
議会用のヘッドセットマイクまで用意しているのに手に持つ黄色いメガホン。
あれがエミルさん流《監督》なのだろう……
私たちが帰ってきてからさらに一週間。
オルデンからは男女二百人ずつ、合わせて四百人が到着した。町のみんなにも声をかけたところ、参加希望者は男女合わせて百人くらい集まってくれた。
「あーあー! どうも! エミルだ!」
『知ってるわー』
『お騒がせ少女め!』
町の見物人たちから野次が飛んでくる。
一週間も町中を捜索させた張本人が、その翌週には他人の合否を決める立場に収まっている。
これほど出世の早い行方不明者も珍しいなぁ。
「今日は、メインステージで踊る未来のアイドルを決める重要なオーディションだ! 監督としてキビシーーーーすぎる目で審査するからそのつもりでな!」
アイドルって……
こうしてエミルが主催するサンバのメインステージで踊る人選が開始された。
集まったメンバーはちょうど男女半々くらい。
見た目だけで決めてしまうなら、一割くらいに絞れそうなほどハッキリとした違いがあった。
「これ、踊ったり、トークしたりする意味あるんですか? マザー」
「ここでマザーって呼ぶんじゃないよ。ダラムさんって呼びな。その名前ならほとんど知らないから」
「はっ! 失礼しました」
「だから、おやめ。普通にしな!」
早速ジェニーが怒られている。
そりゃ元ボスが隣にいれば緊張はするだろう。
「いいかい? 顔が良いなんて、画像でしか通用しないよ。男も女もエロス。これを醸し出しているやつがサンバではモテるんだ」
「そうなんですか? じゃあ顔が良くて踊りもキレッキレのエロスさんだとどうなるの?」
「そりゃ無敵だ! 誰も敵わん」
質問した私がバカだった。当たり前である。
審査員は、ダラムさんの提案で二十代、三十代、五十代から男女一人ずつ、合計六人を町の人たちから選んだ。
そこにジェニーと私が加わり、さらにダラムさんを含めた九人で審査することになった。
採点方法は、ダラムさん以外の八人がそれぞれ十点満点。ダラムさんだけは二十点満点で、合計百点となる。
ところが、いざ審査が始まると評価は見事にバラバラだった。
私がカッコイイと思った男の子に、五十代の女性はまるで点数をつけなかったり、私から見れば容姿がいまひとつの女性に、三十代の男性が高得点をつけたりする。
同じ人を審査しているはずなのに、年齢や性別が違うだけで、こうも好みが分かれるものなのかと驚いてしまった。
そして監督を名乗り出たエミルは……
「はい、そこ! もっと腰振ってぇ〜」
「そこの男! もっと足をキレよく上げて!」
なんだか出演者にいちゃもんをつけまくって、指示をしている……
監督なのに、選ばないんだ……
こうして朝から晩まで審査が続き、五百人の中から七十名の女性と三十名の男性が選ばれた。
マジで審査員による公平な人選で監督特別賞などない。
ワンチャン《監督特別賞の発表!》とか期待していた人もいたかと思うと心苦しい……
よくは知らないが、セクシーな男と言われても荒廃した世である。セクシーさより生活力!
そんな価値観の中では、男性を三十名選ぶのが精一杯であった。
んー、ほぼガチムチ系だったなぁ……
ただ、前列中央に並ぶ五人が選ばれる中、そのど真ん中を勝ち取ったのは、元々ダンスが好きで踊っていたという十三歳の男の子だった。
ほかの男たちが力任せに手足を振り回している中、その子だけは音楽に合わせて軽やかに身体を動かしていた。
しかも、あれだけ口うるさかったエミルが、その子の審査中だけは一度も注文をつけなかった。
◇
「いやー、終わったねー。五百人! 一歩進んだところでかんぱーい!」
私たちはダラムと数名の護衛、それにホワイトクロウのメンバーで打ち上げを行うことにした。
さすがにオルデンのボスが町に滞在している間は、私たちも気が気じゃない。だから身内だけのささやかな打ち上げとなった。
ダラムが持参したのは、オルデン地区の一部の町で造られているというビール。私たちにも振る舞われた。
私には苦くて不味かったけど……それは内緒だ。
料理には、エミルが前日に獲ってきた特大サイズのガウルから取れたヒレ肉が用意されていた。
朝から何も食べずにぶっ続けでオーディションをやっていたから、みんな腹ペコだ。
それにホワイトクロウには妙な連帯感がある。私やジェニーが食べ始めないと、ほかのみんなも食事に手をつけないらしい。
ちなみにエミルは例外。勝手に食べるし、報告もないから、あの子に合わせていたら餓死するのだそうだ。
私がオルデンに行ったときも、みんな私の帰りを待って、三日目まで断食していたらしい。
ジェニーまで付き合っていたというから困ったものだ。
ごめんよぉ〜
お陰で今夜は、過去最大級の量のヒレ肉が用意されている。
エミル様専用シャトーブリアンは多分二キロはある。
まあエミルは二キロでも普通に平らげるから、誰も心配はしていない。
それどころか、夕飯分だけしか出さなければ「えっ!? 朝とお昼のブリアンは?」などと、意地汚いことを絶対に言うのだ。
だからキッチリ、約二キロ出されている。
「ばあちゃん! あと鳥の羽根な。あれがないとどーもダメだと思うんだ」
「分かってるよ。そいつはキッチリ用意してやる。ただな、町に来て思ったんだ」
「なにを? モグモグ」
よほど腹が減っていたのか、シャトーブリアンを一枚丸ごと切らずに食べている……
「祭りは二日間やりな。一日目はエミルのやり方でいいさ。ただね、私のような年寄りにサンバの全部は楽しめないのさ。だから二日目。町の《リリ》の祭りもやらせておくれ」
おおお〜! うまい!
多分ダンたちも同じことを心の中で思ったのだろう。
視線が全員ダラムに向いた。
「ばあちゃん!」
エミルは自分の皿からシャトーブリアンを一枚取り、ダラムの前に差し出した。
「「「「えーーーーーーー!!?」」」」
なんと、あのエミル専用シャトーブリアンをダラムのばあさんにあげただとーーーーーーー!!!
「おや、ありがとさん。おぉ、うまいねぇ。エミルの肉はさらに美味い! こりゃシャトーブリアンかい?」
「ばあちゃんよく知ってるな!」
ダンはみんなが聞きたいことを代表し、意を決して口に出した。
「お、おまえ、一番仲の良いブランにもあげたことのないお前専用の肉を、まさかのダラムさんにー?」
「おや、光栄だねぇ」
「ん? そうだっけ? ブランに食べさせたことなかったっけ?」
《《《忘れているんかーい》》》
また、ホワイトクロウ一派の心の声がきっと重なった。
「そうか、今日は沢山あるし、オーディションしてくれたしな」
するとエミルは、私とジェニーのお皿に一枚ずつ載せてくれた。
トホホ……ずっと一緒にいるのに成功報酬制とは……
「うおい! 俺はリーダーなのに、もらったことないぞ!?」
ダンは立ち上がり、大騒ぎしている。
「うるさいなぁ」
すると、エミルはダンの皿にもシャトーブリアンを渋々のせた。
一口サイズだけ……
「ちくしょーー! しかもこれっぽっちなのに、うめーーーー!」
ダンの悲痛な叫び!
分かる! 分かるぞリーダー。




