お祭りジャック 1
◇
「お前ら勝手に行方不明になりやがって! どこ行ってやがったんだ!」
ダンは机をバンバン叩いて怒鳴り散らしている。
今回はウイカも私たちを流石に庇ってくれない。
「いやぁね? 話せば長くなるんだけど……」
「行く前に、どこ行くか普通連絡するだろ!? 捜索までしたんだぞ!」
「はぁ……ごめん」
ダンが怒るのも無理はない。私とエミルは一週間もいなくなっていたのだ。
町中が大騒ぎとなり、自警団を含む何百人もの人が捜索していたらしい。
「エミル! 今回ばかりは勝手が過ぎるぞ! 和平となるのか、交戦となるのか!? オルデンとの関係も緊迫した状態なのに、さすがにないぞ」
こんなに怒られているのに、エミルは椅子にふんぞり返って《サンバ》の本を読んでいる。
「おお、それな! ブランとそのオルデンに行ってきた」
「「「「はあぁぁぁぁ!?」」」」
ダン、ウイカ、自警団のジェームスとリュウは声を揃えて驚いた。
私とエミルは、あの会議室を飛び出した後、仕立て屋のおじいさんの所や、祭りの主催者のところへ話を聞きに行っていた。
「ねー! このキラキラした衣装ってどうやって作るの?」
「はあぁ、こりゃ今のこの町じゃ結構厳しいんじゃないの? なめし革はエミルちゃんが持ってくるガウルで作れるけど、この羽根は大型の鳥を捕まえないと無理じゃないかなぁ」
「鳥? ダチョウとか?」
「そうだねぇ。ダチョウみたいな大きい鳥。小さい羽根も重ね合わせればなんとかなるけど……エミルちゃん用なら一羽連れてきてくれたら、なんとかできるかもしれないねぇ」
「いや、まだ分かんないけど三千人分は欲しいな」
「三千!?」
「いや、もっとかもしれん」
「いやいや、無理だろー。まあ小さい羽根はともかく、ダチョウ何羽捕まえればいいのか分かんないぞ」
そんな調子で仕立て屋のおじいさんとは話していて、祭りの主催者には……
「サンバ? いや、戦前に見たことはあるけど詳しくは分かんないな。スピーカー? それは以前エミルちゃんが使った町議会の設備を利用すれば、ある程度は使えると思うけど……一万人規模で!? そりゃ改造したり、スクラップヤードから部品とか持ってこないと無理じゃないかなぁ」
こんな調子で町の大人たちもビックリしていた。
「よし! ガルムの所に行こう! そして聞きに行こう!」
「ええ!? ガルムさんって、会議もう終わってんじゃないの? もう夜だし」
「ならばオルデンに行って聞けばいい!」
「無理だろぉ。今からオルデンにって、せめてダンに断ってから行かないと」
「行ってすぐ帰れば問題ない! 一刻を争うのだ。あんなダサい伝統祭りが一年に一回すらあってはならない」
「それを楽しみにしている人もいるんじゃないの?」
「私は嫌だ。どうしてもやりたければマイノリティな集団だけでやればいい! 楽しい人が多いほうが勝ちだ!」
「全く理解できないよ。その理屈は」
「とにかく急ごう! ダンは勇者を勝手に目指せばいい! 私は楽しい人を目指したいのだ」
こうして、よく分からない理屈で押し切られ、私は足の速いホバースピーダーをホワイトクロウから勝手に持ち出し、運転までさせられ、オルデンへ向かった。
◇
五百キロの道のりを走り、ようやくオルデンの支配地域に辿り着いた。
道中に見かけた町は、ほとんどが無人の廃墟だったが、ここには人の気配があった。崩れかけた建物には鉄板や木材で補修した跡があり、窓から洗濯物がぶら下がっている。遠くには炊事の煙も上がっていた。
しかし、町へ続く幹線道路には廃車やコンクリート塊が積み上げられ、銃を持った兵士が見張りに立っている。
これがオルデン自治同盟の根城かぁ……。
「うぉい! 止まれ! どこのお嬢ちゃんたちだ」
案の定、検問所で警備の男に停められた。
「ガルムと話がしたい! っていうか聞きたいことがあって来た! どこにいる」
「ちょちょちょちょ、待ってよ。このまま突っ込むの? オルデンに? どう考えてもヤバいよぉ……エミルぅ」
「あ゙? お前ホワイトクロウのロゴが入っている服を着てるな? そんな派手な格好でどういうつもりだ? 娼婦希望か? ヘヘッ」
「違う! サンバのことを聞きに来たのだ! 私はエミルだ。さっきガルムと会った」
「ガルム中将にそんな簡単に会わせられるかよ。だが、俺たちにサービスしてくれたら、考えなくもないぜ?」
男がそう言うと、物陰から数人の男が近づいてきた。
「我々は急いでいるのだ。私はともかく、ブランはダンの子分だから、怒られてしまうのだ」
「おお、有名なダン・ホワイトさんねぇ。ただ、ここに来てその名前出しても通用しねーよぉ?」
「よし、突破しよう。面倒だ」
「キャッ!」
エミルは助手席から立ち上がると、私を抱えて一足飛びで検問所を飛び越えてしまった。
ホバースピーダーを置きっぱなしにして!
マジで速すぎて怖えぇぇぇぇ――
私を抱きかかえたまま、エミルはどんどん中央に向かっていく。行く手を阻もうと護衛の兵たちが次々と現れるが、エミルには追いつけない。
眼下には屋根の抜けた商店や、骨組みだけになった集合住宅が続いていた。その間には露店が並び、荷物を運ぶ人や子どもたちの姿も見える。
軍事基地というより、廃墟の町をそのまま要塞にしてしまったような場所だった。
「ちょっと! ガルムさんの居場所聞かないと、どこにいるか分かんないじゃない」
「大丈夫だ! 護衛兵が多い所にお偉いさんはいる」
エミルは建物の屋根や壁を足場にして、兵士たちをひょいひょい飛び越えていく。
やがて、オルデンの中心部にある大きな建物に辿り着いた。
焼け焦げた外壁に鉄板で塞がれた窓。周囲には軍用車両や補給物資が並び、入口には土嚢を積んだ警備陣地まである。
「ここだろ」
「知るかー! どうすんのよ! 絶対揉め事になるよ?」
「なぜだ? サンバの話を聞きに来ただけだぞ?」
後ろからバトルウォーカーや装甲車が起動する音が聞こえてくる。
完全に終わった……帰れても戦争になる……。
「止まれ! 止まらぬと撃つぞ!」
立ち止まって数秒。建物の前で私たちは数十人の兵に銃を向けられてしまった。
「ガルムと話をさせてくれ! 誰か呼んできてくれないか?」
「ふざけたことを! ホワイトクロウはこういうやり方で我々と戦争するのか!」
どこかの兵が怒っている。そりゃそうだよなぁ。
私は怖くて、エミルを抱きしめている手に力が入ってしまった。
『お姉ちゃんが、うちのバトルウォーカーを殲滅した子かい?』
緊迫した状況の中、建物の奥からしゃがれた女性の声が聞こえた。
「そうだ! ただ今日はガルムにサンバのことを聞きに来ただけだ」
奥にいた女性が片手を上げると、銃を構えた兵は一斉に銃口を下ろし、駆けつけたバトルウォーカーや装甲車も距離を保って止まった。
「ガルムはさっき帰ってきたばかりだよ? そりゃあ疲れも溜まってるってもんさ。その辺の礼儀も知らないのかい? お姉ちゃん」
女性が建物の入口へ近づいてくると、ようやく姿が見えた。
年配の女性で、片脚には明らかに寸法の合っていない医療用HEXが取り付けられている。歩くたびに金属の継ぎ目が不自然に動いていた。
私もエミルの身体を診ているから分かる。
「あっ! それはごめん!」
そこは普通に謝るんかーい!
「可哀想に、その抱きかかえている子は震えているじゃないか」
「いざとなったら守れるから」
「そういうこと言ってんじゃないよ! とりあえずお入り」
「うん。ありがとう。で、ガルムは?」
「いいからお入り!!」
「ああ、分かった」
エミルが怒られて素直に聞いている。
初めて見たわ……。
◇
私たちは客間に通され、大きなフカフカのソファに座らされた。
壁には古びた地図が掛かり、窓は分厚い鉄板で塞がれている。外の荒れ果てた街並みとは違い、室内の調度品は意外なほど立派だった。
ドアには銃を持った兵が二名。
老女は対面に腰をかけ、タバコに火をつけた。
「オルデン自治同盟を占めているダラムだ。あまり名前を出すのが好きじゃなくてね。ご紹介するのは久しぶりさね、あんたはエミルだろ?聞いているよ」
「ああ、こっちは友達のブランだ」
私は頭を軽く下げた。
まさかのオルデン自治同盟のトップがこの老婆?
確かに眼光は鋭く、怖いイメージはあるけど、この老婆がこのならず者と呼ばれる集団を一人で……
「友達ねぇ……。まあいい。話を聞こうじゃないか」
「いや、だからダラムじゃなくてガルムに用があるのだ。ガルムじゃないとサンバのことは分からないだろう」
「サンバねぇ。ありゃ女どもは内心ウキウキ。男どもは下心を隠して、どうやって女を物にしてやろうっていう下世話な祭りだ。そんな祭りをどうしてお嬢ちゃんみたいな歳の子が興味あるんだい?」
「なっ! ばあちゃん知っているのか!?」
「こらっ! マザーに失礼だぞ!」
後ろのドアの前にいる兵に怒鳴られた。当たり前だわ。
「いいんだよ、ばあちゃんだからな。知っているもなにも若い頃はそりゃあモテたぞ」
「やったことあるのか!?」
エミルは勢いよく立ち上がったが「まぁまぁお座り」とダラムさんに宥められた所で、別の人からコーヒーがテーブルに置かれた。
「やったことがあるもなにも、若い頃はよく踊ったもんさ。ガルムは私の一人息子だけどね、それよりずっと昔の話だよ」
「な、なんと。なら開催するにはどうしたら良いのか教えてほしい。あと羽根の数とか、テカテカ光るやつの作り方とかだ」
「息子の言うとおりだね。台風のような子だ。 会議もろくすっぽ出ずに遅刻して来たかと思えば、サンバのことを聞いたらまた出ていってしまった」
「あっ、えっと……すいません」
「ブランちゃんが謝ることじゃないだろ、エミルの問題に振り回されているだけなんだから」
「いえ……」
優しい言葉をかけられているが、すべてを見透かされているような目が何故か怖かった。
エミルは全く気にしていないようだけど……
「答えは決まっているんだ。エミル、あんたが知りたいこと、やりたいこと、協力できることはしてやるよ」
「ほんとか! ありがとう! ありがとう」
エミルはまた立ち上がりダラムの両手を持ちブンブン振って喜んでいる。
「これもガルムから聞いたよ。 五千人全員が悪いわけじゃない。これで私も引退の決意ができたんだ。こちらこそありがとう」
眼光の鋭いダラムの目が、一瞬だけ優しく見えた。




