第67話 お婆ちゃんのタマネギ畑を守れ!
「今回は、君たちに魔獣退治を頼みたい」
グレイル支部長が切り出した。
ようやく冒険者らしい依頼だ――と思ったのも束の間。
「魔獣退治なら、任せときなさい!」
「羽虫がでしゃばるんじゃねー。」
「なんだと、この駄犬!」
「おっ、やんのか?」
「ちょっと、静かにしなさい。ちゃんと説明をお聞きなさい」
「はーい……」
「へっへっ。女神様に怒られてやんの!」
「うっさいわね」
――いぬくさい。
「ちょっ! アンタの毛が舞うじゃないの!」
「……おれ?」
「ほら! アンタも怒られてるじゃない!」
――魔獣に出会う前に、こっちの仲裁が必要だった。
「お前たち、静かにしないと留守番させるよ」
「……ご、ごめんなさい」
「ポンタも『ハウス!』」
「くぅーん……」
「……そろそろ、依頼の話をしてもいいかね?」
……支部長。まことにスマン!
「今回の依頼は、村外れに住むお婆ちゃんからの要請だ」
「大切に育てているタマネギを、獰猛な魔獣に食い荒らされている。そいつを何とかしてほしい、とのことだ」
「お婆ちゃんを狙うとは、許せないわね!」
――おっ、女神様の正義感が燃えている。
「いや、狙われてるのはタマネギ……」
「お婆ちゃんの大切なタマネギよ! 同じことじゃない!」
カリスにぴしゃりと言い返された。
カイ……余計なこと言った。
「せっかく育ててるのに。お婆ちゃん、気の毒に……」
リーネが眉を下げる。真っ先に相手を気遣うところは相変わらずだ。
「そんな悪い魔獣、このあたしがとっちめてやるわ!」
ゲンも気合十分。男気(?)を発揮している。
「それで、どんな魔獣なんですか?」
盛り上がる一同をよそに、カイが肝心なところを尋ねた。
「それが、分からんのだ。お婆ちゃんは目があまり良くなくてな」
「正体不明なの⁉」
ピリカの声が裏返った。さっきの威勢はどこへ行った。
「とっちめるんじゃなかったのか、羽虫?」
「とっちめるわよ! ただ、どこをとっちめるか確認してるの!」
「二人とも、まず支部長のお話を聞こう? それが分かるかもしれないから」
「かなり大きく、猛烈な勢いで突進してくるらしい。お婆ちゃんも怖くて、すぐ家に逃げ込むそうだ。姿を確かめる余裕はないんだろう」
「まず正体を確かめて、それから討伐ですね。分かりました」
さすがカイ。イケメンが話をまとめた。
「それと、お婆ちゃんは心労が重なって、かなり参っている。体の具合も見てきてほしい」
「お安い御用よ。恩寵の女神であるこのわたしに任せておきなさい!」
うん。祝福の力は確かに本物だ。こういうときだけは頼りになる。
「こういうときだけ、は余計よ!」
しまった。心の声にもチャックが必要だった……。
「では、頼んだぞ。あと、魔石の回収を忘れないようにな!」
「了解!!」
依頼票「正体不明の魔獣退治」
1.確認事項
① お婆ちゃんの健康状態
② タマネギ畑の被害状況
③ 魔獣の正体
2.対象地:村外れのお婆ちゃんのタマネギ畑周辺。
3.期間:魔獣退治完了まで
※ 報酬は魔獣ランクによって変動
はじまりの村を出て、少し歩くとタマネギ畑が見えてきた。
ーー畑は、僕らの予想を軽々と越えて広がっていた。
「えーっ! こんなに広いの⁉ これ、お婆ちゃん一人で管理してるの?」
「あっ! あそこに人がいるよ」
「そりゃ、そうよね。お婆ちゃんだけじゃ無理よね」
ところが、目を凝らすと、畑で働くそれは人ではなかった。
「ゴーレムか?」
「ま、まさか、アンデッドを使役してるんじゃないでしょうね?」
聞いた話では、お婆ちゃんは昔、そこそこの魔法使いだったらしい。
なるほど、人手が足りなければ魔法で補うわけか。
畑の働き手の正体も気になったけれど、まずはお婆ちゃんだ。
僕らは農場の奥にある、お婆ちゃんの家を訪ねた。
「こんにちは!」
「おお、恩寵の女神様……! こんなオババのところへ来てくださるとは。長生きはするもんじゃ」
「このわたしが来たからには、もう安心よ。何も心配いらないわ!」
「ありがたや、ありがたや……」
お婆ちゃんが手を合わせると、カリスは得意げに胸を張った。
まだ到着しただけなのに、すでに依頼を解決した顔である。
「おい、カリス。承認欲求を満たしてないで、仕事しろよ」
「ちょっと、ダメ勇者! これは大切な交流よ。安心してもらうのも女神の仕事なの!」
「では、女神様。お婆ちゃんの体の具合を見ていただけますか? その間に、こちらは手分けして周囲を調べましょう」
「ええ、任せてちょうだい。カイは話が早くて助かるわ」
「ギンとゲンは、女神様、リーネと一緒にここで待機して。捜索は僕とタロウさんで行く。ポンタも付き合ってくれるかい?」
「おう! おれに任せな。」
「じゃあ、行ってくるよ」
相手は正体不明。手がかりは「大きい」「突進してくる」「タマネギを食う」。
……最後のひとつだけ、妙に庶民的だ。




