第65話 異世界の朝、目覚まし係は重たいモフモフ
「……うっ……く、苦しい……」
顔を少し上げると、目の前に「デンッ!」と、モフモフのお尻。
太めの尻尾が、パシパシッと僕の両頬を叩く。
「ギン……お、重ッ……」
尻尾が勢いよく繰り出される。
「あぁ…、そろそろ起きないとな」
胸の上で、ギンがすくっと立ち上がる。
顎を上げて、前脚に全体重がかかる。
足が胸に減り込むように痛い。
「わ、分かったから。起きるから」
やっと、胸の上から降りてくれた
胸の上が、じんわり温かい。
「はいはい……起きますよ」
ギンが少し離れた爪とぎの上から、
「みゃう。あうぅ。ごあぁん」
と、仔猫のような甘えたネコナデ声で、呼んでいる。
まるで、生前の生活が戻ってきたかのような朝だ。
「そうか、村に帰って来たんだったな……」
足元にはポンタがお座りして、へっ、へっ、とこっちを見ている。
枕元では白いモフモフのゲンが、まだ丸くなっている。
辛いお別れをしたはずの子たちが、今、ここで一緒にいる。
「異世界、最高かよ!」
ギンは、僕の顔をじっと見つめてて、
目が合うと、サッと右手を挙げて合図を送る。
「はいはい……ごはんね」
「ごあん!」
だが、カリカリも、い〇ばの「テリーヌ」も「〇ゅーる」も無い。
ギンのごはんは、宿屋の女将さんが「肉多め」で用意してくれる。
階下の食堂に降りると、カイとリーネはすでに起きていて、
席に着いていた。
「おはようございまーす!」
「うっす、起きたか」
「二人とも早いね、おはようさん」
「ギン、ゲン、ポンタも、その姿をしてると、神獣様とは分からないですーー!」
「モフモフですねーー!」
リーネは相変わらず、モフモフ愛に溢れている。
「駄犬、メシ食ったら散歩行くぞ」
「だから、誰が駄犬じゃ、このボケナスがっ!!」
なんだかんだ言って、カイとポンタは良いコンビだ。
――ここまでは良い。とても良い。平和な朝だ。
「ああああぁーー! 私を待たずに、もうご飯食べてんの⁉」
「カリス様! こいつら浅ましいですね! マジ、人間うざっ!」
――出たよ。なんなん? こいつら……
「……ポンタ、やれ!」
――換毛期のポンタが、カリス目掛けて飛び掛かる。
「ああああぁーー! やめてぇーー!」
――カリス、撃沈。
「それで、羽虫!」
「羽虫? あんた、なんてこと言うのよ!」
(ギンが、お前のことを狙っているんだが……)
次の瞬間。
「ぱくっ!」
やはりな……
ピリカが叫ぶ。
「イヤー――! 離しなさいよぉおおおっ! このおバカ!」
ピリカはギンの口の中で、また藻掻いている。
「メシ食う時に、テーブルの上を飛び回るんじゃねぇ!」
「わ、分かったわよ。ちょっと、何食べてんのか興味あっただけよ」
「次は、お前をギンに食わせるぞ」
……あまりにも既視感が満載過ぎて言葉も無い。
まったく、カリスもピリカも、この主従には躾、いや教育が必要だ。
「おい、カリス。いやしくも女神たるお前が、なんでそんなにガサツ、かつ、卑しいんだ? アフロディーテ様とやらに報告すんぞ?」
「あっ、いえっ、ごめんなさい!!」
「おぉ、やっぱり、それが一番効くんだ!」
(駄女神カリスの矯正には、今後、アフロディーテの名前を使おう……)
さて、大所帯となった冒険者パーティー「銀の旅団」。
騒がしい朝を迎えて、早速、新たな冒険の旅に出発だ!




