第64話 パレードの主役は、全部モフモフに持っていかれました!
――そのときだった。観衆の意識の流れが、突如、変わったのだ。
「猫ちゃん、こっち向いてー!」
「猫ちゃん、だと⁉」
二匹の耳が、同時にぴくりと動いた。
「にゃ!」
「みゃっ!」
そして、二匹そろって馬車の縁に飛び乗った。
「お、おい! 危な……」
歓声が爆発した。
「きゃあああああっ!」
「かわいいいいいいっ!」
「勇者様、猫ちゃんを見せてー!」
「お、おい、ちょっと待って!」
凱旋の主役が、早くも二匹の猫に奪われかけていた。
「御覧なさい。勇者よ」
「何をだ」
「歓声の大きさ。あたし、完全にモフモフに負けています」
「……そこ気にするの!?」
「女神である、このあたしがパレードの主役なのよ!」
女神が抗議している間に、追い打ちをかけるように、別の声が飛んだ。
「わんちゃーん!」
「わふっ!?」
今度は柴犬ポンタの耳が、ぴんと立った。
ポンタが後ろ足で立ち上がる。
ぶんぶんぶんぶんっ! 沿道に向かって、ものすごい勢いで前足を振り始めた。
「手ぇ振った!?」
「わんこ様ー!」
沿道はもはや熱狂の渦だった。
「モフモフ様ー!」
「猫様ー!」
「わんこ様ー!」
……カリスが憮然としている。
「わんこ……賢いですね!」
「……お前よりよっぽどな」
「あたしに対するリスペクトは、何処に消えたの?」
「……まぁ、残念だったな」
カリスは肩を落とした。
「にゃ」
ギンが馬車の縁から降り、僕の膝に飛び乗った。
「みゃあ」
ゲンも、その隣へ収まる。
「わふっ!」
ポンタまで足元へ寄ってくる。
「……お前ら」
三匹にそろって見上げられ、僕は言葉に詰まった。
結局、その視線には勝てず、左右の腕に一匹ずつニャンコを抱き上げる。
……ギンだけが重い。さすがに十キロ超えはキツい。
――沿道の視線が、猫を抱いた僕に集まる。
腕の中の二匹を見やる。
「撫でさせても良いぞ」
「アタシも良いわよ」
二匹の了解はもらったが……。
「……えーと」
お座りしたポンタを足元に従えたまま、腕の中の二匹を沿道に向けた。
「少しなら、触っても大丈夫です!」
「きゃあああああああっ!!」
「勇者様ー!」
「素敵ー!」
「モフモフ勇者様ー!」
……それ、もう勇者、関係ないんだが。
腕の中の二匹は、みんなにモフモフされながら、悠々と尻尾を揺らした。
足元のポンタも、みんなに頭を撫でてもらって、得意げに胸を張った。
王都が揺れた。
今日一番の歓声だった。
「なんでよ!?」
その隣で、女神だけが愕然としていた。
鐘が鳴る。華やかに花吹雪が舞う。
花吹雪の一片が、ギンの鼻先に落ちた。
小さなくしゃみに、また沿道から歓声が上がる。
「……負けたのね」
「何が?」
「女神の恩寵が……モフモフに負けたのね……」
「張り合ってたのかよ」
「くっ……恐るべし、モフモフの愛らしさ……!」
「女神が敗北を認めるな」
こうして、女神一行を迎える凱旋パレードは、王国史上でも類を見ない賑わいの中、続いていった。ただし。その日、王都で一番の人気をさらったのは、勇者でも、恩寵の女神でもなかった。三匹のモフモフたちだった。
隣の女神は、まだ何やらぶつぶつ言っていた。
次は、どんな景色をこいつらと見るのだろう。
なお、予想はついていたが、この日の出来事は、恩寵の女神の名誉のため、後世の記録には残っていないという。




