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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
恩寵の女神様の降臨、だが主役はモフモフ⁉

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第63話 駄女神!奇跡のあとで俺に無茶振りすんな!

王都ハイランドの白銀に輝く美しい大通りが、揺れていた。

透き通るような薄いブルーの水路とのコントラストが眩しい。

街並みを飾る淡いグリーンを基調とした窓枠からは、色鮮やかな布が垂らされて、今日という日を、王都のみんなが祝福していることが分かる。

「勇者様ぁぁぁぁぁぁっ!」

「女神様ぁぁぁぁぁぁっ!」

沿道の両側を埋め尽くした人々から、割れんばかりの歓声が降ってくる。大通りはもちろん、窓枠と御揃いの淡いグリーンの屋根の上まで、人が溢れてごった返している。

舞い散る花びら。

鳴り響く鐘。


――そう。今日は、降臨した恩寵の女神カリスを称え、歓迎するパレードだ。

先頭を進む王国騎士団の後ろには、純白の馬四頭に引かれた豪華絢爛な馬車。

そして、その上には、

「…………もう、帰りたい」

下僕から“勇者”となった僕は、死んだ魚のような目で座っていた。

まさに「生き腐れ」……このまま腐敗が進みそうだ。


右隣には、白銀の毛並みを誇る巨大化したグレーのモフモフ猫。

「にゃ」

左隣には、それより一回り小さい白いふわふわ毛のモフモフ猫。

「みゃあ」

さらに足元には、尻尾を千切れんばかりに振っている駄犬。

「なんだとっ! なんでオイラだけ!」

凛々しい面持ちで、爽やかな風を受けて胸を張るうちの子たち。

「お前たちは楽しそうだな……」


「当然です!」

なぜか一番元気よく答えたのは、うちの子ではなかった。

(なんで、お前が……)

僕の隣で、仁王立ちして、金髪を風になびかせている恩寵の女神だ。

女王スターシアとエルフェリアの姉妹が仕立ててくれた純白の神衣。

頭上には淡い後光。慈愛に満ちた微笑み。誰がどう見ても神々しい。

――そう。彼女こそ降臨せし、恩寵の女神様なのである。


「さあ、勇者! もっと胸を張るのです!」

「やかましい。お前はまず座っとけ」

「御覧なさい! この民衆の笑顔を! 皆、私を歓迎しているのですよ!」

(人の話を聞けよ……)

女神は得意げに胸を張った。

沿道から黄色い声が上がる。

「女神様ー!」

「こちらを向いてくださーい!」

「お美しいー!」

恩寵の女神カリスは、顎をツンと上げて、なんか自慢げだ。

「聞きましたか、勇者!」

「聞いたよ」

「お美しいそうです!」

「よかったな」

「ちょっと! もっと心を込めてあたしを褒め称えなさいよ!」

……めんどくさい女神だ。

「なぜです?」

「心の声を読むなよ、勝手に」

「なんでよ! あたし、女神なのよ! わかっちゃうんだからしょうがないじゃん!」

「女神様だったら『しょうがないじゃん』とか言うなよ」

「そして、お前は馬車を揺らすんじゃねぇ!」

「女神ですから問題ありません!」

「俺が問題なんだよ!」

乗り物酔いには弱い勇者だった。

「うわっ! ダサっ!」

この駄女神が「大丈夫です!」と言って大丈夫だったためしがない。


「ところでさぁ……お前、その衣裳」

「なんです?」

「腹、苦しくないのか?」

カリスの笑顔が固まった。

「…………女神、お腹とかでないから」

「いや、あんだけ食えば出るだろ」

「出ません」

「さっきから帯だかベルトだかのところ気にしてるじゃねえか」

「これは神聖な所作です」

「どんな仕草だよ」

「お前、朝っぱらから『大変なの! 衣裳が入らないの!』とか言って、涙と鼻水垂らしながら部屋に駆け込んできたよな?」

――原因は昨夜の晩餐会。王宮料理を前にして、まるで抑えるということを知らないように、仔豚の丸焼きにかぶりつき、デザートを片っ端から平らげた結果だ。

「うっ……」

「八割くらいは、お前の腹を見てるぞ」

「そんなこと、あるわけないじゃない! スケベなの? ねぇ、あんたエロなの?」

……面倒くせぇ

「ヒドイ! あたしのこと面倒な女って言った!」

「沿道の人たちは、知らないんだろうな……」

「お腹空いてたんだから、しょうがないじゃん! 私悪くないもん!」

『わかったよ。悪かったよ。食文化を知ることも女神様の務めだからな』

……意味不明だが。

「ふふん。分かれば良いのよ、分かれば」


女神が勢いよく立ち上がった。

「おい、やめろ」

「じゃあ、このへんで、女神様らしく奇跡を披露しちゃうわ!」

女神は両腕を大きく広げた。

「王都の民よ!」

女神の身体から黄金の光が溢れ出す。

「やめろって!」

パァァァァァァァ……!

「皆に恩寵を授けましょう!」

空から花びらが舞い、光をまとって王都の空を黄金色に染めていく。

一瞬にして広場が静まり返った。

誰もが息を呑む。

やがて、人々から、感嘆の声が漏れた。

おお……。


悔しいが、こういうときだけは神々しい。圧倒的に神々しい。

これなら確かに、誰もが女神と信じるだろう。

女神は慈愛に満ちた微笑みを湛え、

「さあ、勇者」

「ん?」

「あなたも何かしてください」

「は?」

「女神が恩寵を示したのです。勇者も勇者らしいところを見せるべきです!」

「無茶振りかよっ!?」

「勇者らしいところって何だよ!」

「こう……剣を掲げて光らせるとか!」

「下僕にそんな機能ねえよ!」

「では炎を出すとか!」

「王都で火災を起こさせるな! それじゃあ魔獣じゃねーか!」

しかし。民衆は期待に満ちた目でこちらを見ている。

……まずい。

「勇者様……?」

僕は冷や汗をダラダラと流した。

「勇者様は何をなさるのだ……?」

もはや、ここから逃げられないの、かっ⁉


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