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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
恩寵の女神様の降臨、だが主役はモフモフ⁉

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第62話 女神の使いは猫に狩られるポンコツ妖精でした

翌日に王都中を巻き込むパレードを控えた、その日のこと。

明日、自分たちがどんな格好で晒し者にされるとも知らず、

僕らは王都でのんきにショッピングに勤しんでいた。


パレードの衣装とかは、女王様たちの方でチョイスすると言っていた。

……まさか還暦の赤いちゃんちゃんこではないだろうが、少し心配だ。


馬子にも衣裳とはいうが、着慣れないような豪華絢爛な衣装とか、

似合わないような洒落たマントとかを用意されたらとても恥ずかしい。

神獣たちにも相応の衣装があると言っていたが、まずギンは、

百パーセント噛み千切る。昔からそういう子だ。


そんなことを考えながら歩いていると、

ギンさんが――空飛ぶ何かを獲物認定したらしい。

後ろ脚で立ち上がり、妙に凛々しい仁王立ちをしている。

短い前脚で、宙を逃げ回る小さな影をチョイ、チョイ。


「うん。こういうところは、ちゃんと猫なんだよね」

狩る気満々の猫と、逃げる小さな影。勝負はどう見ても一方的だった。


そのとき、突然、甲高い悲鳴が聞こえた。

「ちょ、ちょっと! やめなさいよ、このおバカ猫!」


「ウミャウ!」

「だから、やめなさいってばぁ!」


「ニャーゴ」

「その爪が引っかかったら、どうしてくれるのよ!」


かすかではあるけれど、間違いない。女の子の声だ。

「やめろって言ってるでしょ! このおバカ猫!」


「ギン? そこに何かいるのかい?」

ギンさんが「やべっ」という顔で、こちらを振り向く。


その隙に、大きめの羽虫らしき何かが一直線に僕の顔へ飛んできた。

「うわっ!」

反射的に手で払いのけようとした瞬間、盛大な罵声を浴びせられた。

「ちょっと、あんた! 危ないじゃない! 危うくぺしゃんこにされるところだったわよ!」


……声はすれども、姿は見えず。

「なんだ? 気のせいか……」

「――違うよ」

「えっ?」

「だからぁー、違うんだってば!」

「んあ? だ、誰?」

「あたしだよ、あたし」

「あ、あたし?」

「そう。あ・た・し!」

目を凝らすと、半透明の小人のような影が、ふわりと浮かび上がった。

「……透けてる。ちっさい」

「ちっさい言うな! それから、小人じゃなくて妖精よ!」

「……妖精⁉」


「ちょっと、そこのニャンコ! あんたもあんたよ! さっきまであたしを熱烈に追い回してたくせに、もう飽きたってわけ!?」

しかし当のギンさんは、すでに妖精への興味を失っていた。

重ねた前脚に顎を乗せ、堂々のうたた寝モードである。

「まったく! 飼い主のしつけがなってないわ!」

いや、僕はこの子の飼い主ではなく下僕だ。たぶん主従は逆だ。


「ちょっと、勇者見習い!」

「えっ? 僕ですか?」

「……自覚ないのかしら?」


妖精か。魔獣もエルフも女神もいる世界だ。

今さら妖精一人増えたところで驚きはない。


「っていうか、あんたって何でもあっさり受け入れるのね」

「ノーガードで殴られ続けても、へらへら笑ってそう!」


……そんな不憫な人間に見えるのだろうか。

……まぁ、サラリーマン人生で耐性が培われたのだろう。

だが、精神年齢五十六歳は、こんなちっさいのに言われたくない。


「近う寄って、とくと見よ! あたしはピリカ。由緒正しき妖精ですっ!」

うん。羽が生えていて、半透明で、手のひらサイズ。

――どこからどう見てもちっさい妖精だ。


「あんた、いま『ちっさい』って考えたでしょ?」

何だ!? こいつもカリスと同じ、人の心を勝手に読むタイプか!?


「あたしは、恩寵の女神カリス様に仕える妖精よ!」

――あ、やっぱり。

主従そろって同じ振る舞いをしやがる。

なんだろう、このじわじわ腹が立つ感じ。


「カリスなら王城の神殿にいるぞ。ほら、早くご主人様のところへ帰りなよ」

シッ、シッ、と野良猫を追い払うように手を振る。


「ちょ、ちょっと! 主従そろって失礼ね! あたしはカリス様のご命令で、あんたたちの面倒を見に来てあげたのよ!」


「ぷっ。そのちっさい体で、何の面倒を見てくれるんだ?」


「ふふん。どうやら、あたしの実力を分かってないようね」

「あたしの得意分野は魔法! なかでも癒やしの力は一級品よ! それに空も飛べるし、透明にもなれるし――」

「つまり、無能な勇者見習いと、その仲間たちを導く教育教官なのよ!」


また面倒くさいのが増えた。

しかも、カリスの差し金だ。

まったくロクでもねぇ……


「ちょっと! いま、また失礼なこと考えたでしょ!」

……そういうところまで、カリスそっくりかよ。


「あとでカイとリーネにも紹介するから、とりあえず今は、そのへんでギンさんに捕まらないよう待っててください」

「任せなさい! あたし、追いかけっことかくれんぼは得意なんだから!」

胸を張ったピリカの背後で、さっきまで寝ていたはずのギンさんの耳が、ぴくりと動いた。

次の瞬間。

「ぱくっ!」

やはりニャンコさんは敏捷だ!

「えっ!」

「あっ! ギンさん、それは食べてはいけないよ!」

「イヤー――! 唾液べっとりじゃないのよぉおおおっ!」

「噛んだり、飲んだりしなくて偉かったね!」

「そうじゃないだろ! このバカ勇者ぁぁぁ! そしてバカ猫ぉぉぉ!」


ピリカ……反応がカリスと全く一緒じゃないか……残念な奴。

王都の買い物は、どうやらまだ当分終わりそうになかった。




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