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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
恩寵の女神様の降臨、だが主役はモフモフ⁉

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第61話 駄女神は国賓、勇者レベル一は尻が限界

僕ら冒険者パーティー「銀の旅団」は、急に国賓扱いに格上げされた。

なんと今回は、王国の貴賓専用馬車で堂々の入城である。

さすがは恩寵の女神カリス。駄女神でも、肩書だけは神々しい。

――ん? これはデジャヴュか? 

まるでどっかのアホ部長を見てるようだ。


――こんな立派な高級車、人生で一度も乗ったことないぞ!

……と浮かれてみたものの、実際、馬車で長距離移動は酷だ。

現代の乗り物に慣れた体は、かなり直接的なダメージを受ける。


中世レベルの馬車は、とにかく揺れる。音はうるさい。尻は痛い。

サスペンションなし、ゴムタイヤなし。乗り心地への配慮もなし。

おまけに道には馬糞が点々。異世界情緒より先に、異世界臭が鼻を直撃する。


しかし、みんなよくこんな乗り心地に耐えているな。

「ごしゅじん、大丈夫か?」

「もっと鍛えないとねぇ……」

「気合が足りねーんだよ、気合」

……みんな、元主人の心配してくれてありがとう。


(こんなに揺れるなら、エルフェリアさんには、ぜひ膝の上に乗って欲しかった)

――などと邪なことを考えたが、口に出せばセクハラの罪で社会的に終わる。

これは、あくまでただの願望だ。黙っておこう。



途中、馬車は元神官の魔人が飛び出してきた祠跡の脇を通った。

祠は崩壊して埋まってしまったが、あの時、瘴気核の所在を確認していない。

壊れた祠自体が瘴気の発生源、つまり瘴気核となるケースがある。

エルフェリアさんは、そう言っていた。そういうことだよね。たぶん。

王都封印局の精鋭……くっころ隊長、お色気結界術師たちも来てくれてたし、

後処理をしているはずだ。


だが、念のため馬車を止めてもらい、ギンにも確認してもらうことにした。

べ、別に心配性じゃない。これは立派なリスクマネジメントだ!


ギンは盛大なあくびをひとつしてから、いかにも面倒そうに祠跡へ近づいた。

フンフンと匂いを嗅いでいるが、大丈夫なのだろうか?

「うん? 瘴気は発生していないって? そか。ご苦労さん」

ギンが無言で右前脚を上げる。なんの合図だ、それ。

「ごあん!」

「えっ、ちゅーる? そんなもんは無い」

「ご褒美? こっちの世界に“い〇ば”はない。テリーヌもない!」

途端に不貞腐れるギン……間違いなく育て方を間違えた。

するとギンは祠跡に寝そべり、ごろんごろん。仕上げに尻尾をバンバン。露骨すぎる。

「ほら、汚れんだろ。後でリーネがブラッシングしてくれるってさ!」

ギンは僕をじとっと一瞥すると、リーネの乗る馬車へ、のそりと戻っていった。

「まーったく、お前の方が、魔獣よりもよっぽど質が悪いよ」


その後は何事もなく、僕らは白亜の王都ハイランドへ到着した。

淡い桃色の靄に包まれた、まるで絵本のような都。

白い街並みに、緑の装飾、水路のきらめき。

そして街の中央には、都を見守る守護者のように白銀の王城がそびえている。

王通りに漂う魅惑的な肉を焼く匂い、

焼きたてのパンの香ばしい麦の匂い、

新鮮なミルクやチーズ、卵の匂い、


――ん? 途中から景色より、食べ物の情報ばかり入ってくるぞ。

「そうだよ、俺の意識だ。ごはんくれ!」

やっぱりギンの感覚だったのか。王都の第一印象が食レポに変わるじゃないか。

まずは王都での腹ごしらえだ。

街をぶらぶらしながら買い食い、っていうのが、やっぱり楽しい!


街を流しながら腹ごしらえを終えた僕らは、ようやく王城へ向かった。

国賓一行なのに、最優先事項が街ブラで買い食いなのはご愛敬だ。


王城内の〈神殿の間〉で、僕らはあらためて女王陛下に拝謁した。

本日の主役は、降臨した恩寵の女神カリス。

その正式なお披露目と、ついでに僕の勇者就任のお祝いだ。

だが、“レベル一”というのが、少し恥ずかしい……。

できれば“下僕”として“無双”する方がよかった気がする。


神殿の間では、カリスが女王陛下へ、恩寵の女神らしく厳かに神託を授ける。

本当にちゃんとできてるのか?

普段の駄女神ぶりを思うと、笑いを堪えて見守るだけで精いっぱいだ


一方、僕は応接の間で、女王陛下の妹にして大魔女

――エルフェリアさんから、勇者と神獣にまつわる伝承と、

この世界の秘儀を授けられた。


この世界の創造主は、愛と美の女神アフロディーテ様だという。

エルフェリアさんの話を聞くうちに、ひとつの仮説が浮かんだ。

もしかするとここは、アフロディーテ様の心が生み出した世界

――いや、女神の心そのものの心象風景なのではないか。


この世界を満たす〈祝福〉と〈恩寵〉は、いわば世界を動かす基本法則であり、アフロディーテ様の本質そのもの。だからこそ、何者にも覆せない絶対の力なのだということに納得がいく。

そのひとりの。


けれど、女神だって悪いことを思う瞬間くらいある。

なにしろギリシア神話の神々。人知を超えた力を持ちながら、妙に人間くさい神々。

その負の想念が〈瘴気〉となり、神様や女神様の内側に築かれた、途方もなく巨大な心象世界を蝕んでいく。


だから瘴気を刈り取る勇者と、三つの〈浄化の魂〉が必要になる。

――壮大に言えば世界の救済者。身も蓋もなく言えば、女神様の心に住み込みで働くお掃除係だ。


これを放置すれば、女神は女神でいられなくなる。

つまり、堕天使ならぬ、堕神――ということになるのだろうか。


では、この世界で出会った人々は、女神様が生み出した被造物――ゲームでいうところのNPCのような存在なのだろうか。

そうすると、ある日突然、別の世界から、自我を持ったまま、ここに来た僕は何者だ? 

ギンやゲン、ポンタは女神の被造物なのか。それとも、僕の意識が見せている幻なのか。

――考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ。

だが、少しだけこの世界の秘儀に近づいたのかもしれない。

しかも、知らない方が幸せな答えまで混じっていそうで怖い。


――まあ、今の僕は勇者レベル一。

この世界の真理よりも先に、まず自分のレベルをなんとかするべきかもしれない。



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