第60話 異世界の謎は山積みですが、王都ツアーは駄女神の売り込み?
瘴気を浴びすぎたか、魔石を体に埋め込まれるか、
――人間だって森の獣みたいに魔獣化する。魔人だ。
理屈としてはわかる。
でも、だからって神に仕える神官さまが闇堕ちなんて……。
「恩寵」の法則から見ればナンセンスだが、これもテンプレか。
だが、この恩寵の護り手は、何を隠そうカリスなのだ。
――まったく……管理してる法則まで、抜け穴だらけじゃないか。
これまでに、王国騎士団が捕らえた魔人は二人。
そのうち一人は、よりにもよって元神官だった。
だが、背後には、この世界を滅ぼそうとしている“影の教団” の存在。
影の教団との対峙――どうやらこれが、“勇者の役割”らしい。
軽いノリで勇者にされたが、そんなので務まるのか……?
もうひとつ僕が個人的に気になっているのは、
この世界と、僕の元いた世界の“妙な繋がり”だ。
アフロディーテとかカリスとか、完全にギリシア神話の人だ。
サイクロプスとかキマイラとかも、ギリシア神話そのまんま。
洞窟で見つけた青銅版には古代ギリシア文字が刻まれていた。
……いやいや。異世界ってもっとこう、ファンタジー全開なんじゃないの?
「無双する」とか「ハーレム」とか「のんびり」じゃないのが辛い。
まるで、ギリシア神話のパクリのようなこの世界。
もしかして僕は、異世界じゃなくて“地球の裏側”みたいな場所に来たのか?
影の教団より先に、この世界の成り立ちのほうが気になって仕方がない。
さて、女王スターシア、魔女エルフェリア、そして駄女神カリス。
三人の井戸端会議、――いや、“積もる話”も、ようやく終わったようだ。
扉を開けるなり、カリスが胸を張って宣言した。
「さぁ、みんな、これから王都ハイランドに向かうわよ!」
この三人の中で、一番、女神らしさに欠けるキャラだ……。
「あっ、そう。」
その勢いに対して、極めて雑に返事した。
「“あっそう”じゃないわよ! 銀の旅団、全員で行くのよ! 勇者のアンタも当然行くに決まってんでしょ!」
コイツが音頭をとると、面倒事の匂いしかしない。
「いや、遠慮します。ロクなことにならないと思うので……」
「ちょっと、アンタなに言ってくれちゃってんのよ! このダメ勇者‼」
「つかの間の平和を享受してんだから、邪魔しないでくれるか?」
「誰のおかげで勇者になれたと思ってんのよ、この恩知らず‼」
「つーか、頼んでねーし‼ レベル一の最底辺勇者だし」
「それは、あんたの実力が下僕だからでしょ。わたし、悪くないもん」
――話にならない。応酬は終わりがない。
見かねたエルフェリアが、ため息まじりに仲裁へ入った。
「二人とも、落ち着いてください。話が進みません」
「あたしの知名度を知らしめるチャンスなのよ! お願い、一緒に行ってよ!」
(カリスよ……語るに落ちたか……)
「女神を扶けるのが勇者ってもんでしょ!」
「……お前さんの承認欲求を満たすために付き合う義理はないかな」
カリスはついに地面へ膝をついた。
「お願いよ! 私の威厳と尊厳がかかってんのよー! もう何でもしますんで、一生のお願い!」
(残念すぎる……カリス……仮にも女神でしょうよ……)
そこへ、まさかの救いの手が伸びてきた。
「タロウさん、女神様にそんな言い方ってないです。カリス様が可哀想じゃないですか。私からもお願いします……一緒に行ってください」
リーネまで懇願してきた。女神の世話をして情が移ったらしい。優等生だ。
「良いんじゃないか。王都でうまいもんでも食べようよ」
カイの「うまいもん」に反応したのは、やはりギンだった。
「ごあん! ごあーん!」
右手で僕の脚をチョイチョイと叩いてくる。
完全に「女神党」に投票している。
多数決で過半数を取られた。
やむをえまい。
「……はいはい。わかったよ。行きますよ、王都」
カリスがぱぁっと顔を輝かせた。
「勇者、愛してるわよーっ!」
「やめてくれ。駄女神が移る!」
ギンは尻尾を立てて叫ぶ。
「ごあん!!」
結局、王都に行くモチベーションは、“女神の承認欲求”と“猫様の食欲”だった。




