↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
恩寵が導く勇者誕生と残念女神加入で第一部完!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/68

第55話 新人パーティー、総力戦で災厄級を仕留める

突如、魔人の顔から笑みが消えた。

眦(まなじり)を吊り上げ、両腕を天に掲げた。

「来たれ、災厄の獣よ! この世界に破滅をもたらせ!」

魔人が高らかに叫ぶ。


壊された祠(ほこら)の瘴気核が、どくん、と脈打った。

直後、ひび割れた表面から無数の黒い触手が噴き出し、空中で絡み合っていく。

生臭い腐敗臭が広がり、思わず喉の奥がえずく。

次の瞬間、稲妻が夜空を真っ二つに裂いた。

雷鳴が大地を揺らす。黒い塊が内側から膨れ上がった。


――闇を引き裂いて現れたのは、災厄級の魔獣・キマイラだった。


獅子の頭に、山羊の胴体。背には巨大な翼が広がっている。

大蛇の尻尾が鎌首をもたげ、牙から毒を滴らせる。

獅子の口が開くたび、喉の奥で紅蓮の焔が渦巻いた。

どうなってんだ? こいつもギリシア神話の怪物だ。

サイクロプスのお次は、お前さんかい……?

しかし、伝説の怪物そのまんまの姿とは、まったく芸がない。

神馬ペガサスに乗った英雄が、空から射抜いたんだったか。

咆哮を浴びながら、どうでもいい知識だけが妙に鮮明に浮かんでくる。


戦力的には古代の伝説には負けていない。ペガサスはいないが、こっちには銀霜猫王(ぎんそうびょうおう)、カーバンクル、そしてフェンリル、神獣と聖獣が三匹もいる。

合成生物ごときが空を飛べるなら、聖獣様たちだって飛翔くらい朝飯前――

ゲンが淡い光をまとって浮かび、ポンタは空を蹴って駆け上がる。

そう思った直後。


――むり。

足元から、きっぱり伝わってきた。

「あ、ギンは空は飛べないのね……」

尻尾で叩かれた。


夜空で爪と牙が激突し、火花が散る。

三頭の咆哮と唸り声が闇を震わせた。


キマイラは獅子の口を開き、灼熱の焔を吐き出した。

だが、そこへカーバンクルのゲンが立ちはだかる。

額の赤玉が輝き、幾重もの魔法障壁が展開される。

炎がぶつかり、左右へ弾けた。


「今だ、ポンタ!」

白銀のフェンリルが、闇を裂いて牙を剥く。

尻尾の大蛇がフェンリルを迎え撃とうと鎌首を揺らす。

だが一瞬早くフェンリルの顎がその鎌首を捉え、骨ごと噛み砕いた。

キマイラの絶叫が響く。


やがて地鳴りのような蹄の音がして、騎士団が森を抜けてきた。

先頭は、“閃光”の騎士団長マリア。白馬から勢いよく飛び降りる。

「村の住民は避難を終えた! 我々も加勢します!」


「弓を持つ者は前へ! 魔法士は詠唱を!」

マリアの号令に騎士たちが素早く陣形を変える。

後詰めの冒険者たちも到着し、矢と魔法が一斉に夜空へ放たれた。

しかし、降り注いだ矢は、山羊の腹を覆う鋼鉄のような剛毛に弾かれた。

「カイ、普通の矢じゃ通らない!」

「なら、違う手段で一矢報いるだけだ」

カイは短く答え、すでに次の矢へ手を伸ばしていた。


魔法士たちも火球や風刃を絶え間なく撃ち込む。

爆炎が巨体を包み、衝撃でキマイラの高度がわずかに下がった。

だが致命傷には遠い。

煙の奥から響いた咆哮に、地上の空気がびりびりと震えた。


キマイラはポンタと牙と爪を交えながら、隙を見て地上へ炎を浴びせてくる。

獅子と狼。体格ではキマイラが一回り大きい。

それでもポンタは空を蹴って側面へ回り込み、鋭い牙で少しずつ傷を増やしていた。


そのとき、キマイラの顔がこちらを向いた。喉が赤く膨らむ。

ヤバい――そう思った瞬間には、視界が炎で埋め尽くされていた。

灼熱の火炎が背中すれすれを通り過ぎ、髪の先が焦げる嫌な臭いが鼻を突く。

「うわっ……洒落にならないだろ、これ!」

転がりながら振り返ると、さっきまで立っていた地面が赤熱し、石まで溶けていた。

「一歩遅かったら、跡形も残らなかったぞ」


――また死ぬのか。しかも下僕のまま、何もできずに?


胸の奥が冷え、呼吸が浅くなる。

でも、ここで出会ったみんなとの時間は、思っていたよりずっと楽しかった。

ギンたちの世話だって、まだ始めたばかりだ。下僕として働くにしても、せめてもう少し、この世界で生きていたい。


結成したばかりの新人パーティーが、騎士団や熟練冒険者と並んで災厄級に挑んでいる。

冷静に考えれば、とんでもない状況だ。

しかも僕は、みんなのお世話をすると決めた下僕である。


――なのに、どうして最前線にいるんだ、僕は⁉


心の中で叫んでも、火炎放射は待ってくれない。

僕は震える膝を叩き、どうにか立ち上がった。


地上では、カイが片膝をつき、静かに弓を構えていた。

怒号も爆音も届かないかのように、呼吸を整えている。

矢じりには、サイクロプス戦のものを超える神経毒。

さすがは忍だ。殺傷術も高度化している。


「掠るだけで致命傷になる。――一矢で決める」

カイの声に迷いはない。ただ、その指先には極限まで力が込められている。


キマイラが、ポンタへ前脚を振り下ろす。

その瞬間、額を守っていた獅子の鬣(たてがみ)が大きく揺れた。

カイの目が細くなる。弦が限界まで引き絞られ――

――射つ!

弦鳴りは、戦場の喧騒にかき消されるほど小さかった。

けれど放たれた一矢は、吸い込まれるように夜空を貫いた。


矢は額の隙間へ深々と突き刺さった。

巨体が硬直する。翼が乱れ、獣の瞳から光が消えた。

カイが叫ぶ。

「リーネ、今だ!」

「はいっ!」

リーネが杖を突き出す。

足元に青白い魔法陣が広がり、大気中の水分が一斉に凍りついた。

「貫け――フローズンスピア!」

形成された巨大な氷槍が、唸りを上げて打ち出される。

動きの鈍ったキマイラは避けきれない。

氷槍は胸元を直撃し、砕けた氷片とともに巨体を白く凍らせた。


「ば、馬鹿な……! 貴様らごときに……!」

魔人の顔から血の気が引いた。

目を見開き、凍りついたキマイラと僕たちを見比べている。


キマイラは、最後の咆哮すら上げられなかった。

全身を覆う氷に亀裂が走る。地上へ墜ち始めた直後、巨体は黒い粒子となって崩れていった。

地面へ落ちたのは、真紅に輝く巨大な魔石だけ。

一瞬の静寂。

次いで、騎士と冒険者から歓声が爆発した。

「……勝った、のか?」

声がひどく頼りない。隣ではリーネが杖にすがり、それでも満足げに胸を張っていた。


逃げようとした魔人は、すぐに騎士たちへ取り押さえられた。

「離せ! 私は選ばれた存在だぞ!」

わめき続ける声も、両腕に魔封じの枷(かせ)を嵌められた途端に弱々しくなる。

魔人は騎士団に引き渡され、そのまま厳重な警護のもとで連行されていった。


夜空を見上げると、ポンタとゲンがゆっくり降りてくる。

ギンは当然のような顔で、僕の足元に鎮座している。

ようやく肩の力が抜ける。

僕はその場にへたり込み、三匹を順番に見回した。


「みんな、お疲れさま。帰ったら、今日は特別にご馳走だな」

三匹の視線が一斉にこちらへ向く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。