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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
恩寵が導く勇者誕生と残念女神加入で第一部完!

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第54話 逃げる魔人と瘴気の祠、そして災厄級の咆哮

村の防衛は、騎士団と冒険者に任せ、僕らのパーティーは森へ駆け込んだ。

精霊獣フェンリルことポンタが先導し、迷いなく奥へ走り出す。

木々の隙間には黒い瘴気が淀み、息苦しさがまとわりつく。

「早くカイたちに追いつかないと……」

闇の中で足を止めれば、恐怖で動けなくなりそうだ。

だから僕は、震えそうになる膝を叩きつけて走った。


松明で地面を照らすと、折れた枝と新しい足跡が奥へ続いていた。

前方から鋭い金属音が響いた。

リーネの肩がびくりと跳ねる。

それでも彼女は杖を両手で握り締め、青ざめた顔で僕を見た。

「行こう。怖いけど……」

僕はうなずき、剣戟の音がした方向へ踏み込んだ。


駆けつけた先では、カイたちが瘴気狼の群れに包囲されていた。

ポンタは牙を剥き、真っ先に瘴気狼の首元に飛び掛かった。

リーネが炎弾で群れを分断し、ゲンが負傷者の前に障壁を張った。

その隙にギンが瘴気狼の群れへ飛び込み、猫パンチで次々と浄化していく。

僕も剣を抜き、震える手に力を込めて、仲間へ迫る牙の前に立った。

――いぬ、まて。

ギンが目を閉じ、何やら祈りを始める。

神獣のスキル「浄化の光」が拡散していく。

浄化の光を浴びた瘴気狼たちは、瞬く間に犬っころのようにポンタへ頭を垂れ、服従のポーズを取った。


「助かったよ、タロウさん。けど、奴はまだ先だ」

カイの声は平静を装っていたが、短刀を握る指には血がにじんでいた。

レンジャーの一人は瘴気狼に足を噛まれ、苦痛に顔を歪めている。

ゲンが回復魔法を施すと、流血は止まり、みるみる傷がふさがっていく。

「おぉ! 痛くないぞ、治った!」

抱きついてきたレンジャーに、ゲンは少し嫌そうな顔をした。

「いやだ、汗臭いわ……」

だが、喜んでいる暇はない。


カイは視線を逸らさず、地面を示す。

人の足跡とは別に、地面には黒く焼け焦げた跡が残っていた。

魔人は瘴気を撒きながら森の奥へ逃げているらしい。

しかも進路の先には、森の結界を支える最後の祠がある。


「何よ、オナラしながら逃げてるみたいね。嫌だわ」

(リーネさん……たとえがおかしいよ)


カイは指の血を拭い、短刀を握り直した。

「奴を逃がしたくない」

その言葉に、誰もが黙ってうなずいた。


負傷者を護衛とともに村へ戻し、僕たちは追跡を再開した。

罠の発見はシーフたち、周囲の警戒はレンジャーに任せ、カイとポンタが先導する。

リーネは魔法で瘴気の濃い場所を焼き払い、ギンは残された魔獣を浄化する。

呼吸が少しずつ揃っていった。

「魔人を捕獲する」

目的と覚悟を共有したことで、僕たちの足取りはかえって速くなった。


だが、敵もただ逃げているわけではなかった。

細い獣道へ踏み込んだ瞬間、地面に刻まれた術式が赤く輝く。

左右の木々が倒れ、退路を塞いだ。


同時に、頭上から鋼の羽根を放つ怪鳥が降り注いだ。

だが、鋼の羽根はゲンの魔法障壁に弾かれ、むなしく地面へ落ちた。

リーネが唇を噛み、杖の震えを押さえ込む。

「一発で、怪鳥の群れを殲滅するわ……!」

「フレイムボム!」

放たれた炎が爆ぜ、怪鳥の群れをまとめて吹き飛ばした。

眩い火柱と轟音が森を揺らし、背後から迫っていた羽音が途絶える。

「鳥の丸焼き……」

僕らはさらに深い森へ踏み込んだ。


やがて木々が途切れ、視界が開けた。

崩れた祠を囲む広場は、濃密な瘴気が生き物のように這い回っている。

その中心で、巨大な瘴気核がどくん、どくんと脈打っていた。


鼓動が響くたび、吐き気がこみ上げてくる。

隣ではリーネが杖を握り直し、カイは短刀の切っ先をまっすぐ敵へ向けていた。

ギンたちも毛を逆立て、僕らをかばうように前へ出た。

瘴気核の前には、赤い瞳の魔人が立っている。

この野郎、今度は逃げる素振りすらない。

僕たちが来ることを知り、ここで待ち構えていたのだ。


「思ったより早かったな」

魔人は牙をのぞかせ、ゆっくりと両腕を広げた。

たったそれだけで瘴気が渦を巻き、肌を刺す殺気が叩きつけられる。

「お前のお仲間は口が軽かったみたいだな」

なんか格好いい台詞だ。イケメンはずるい。


カイが隣で短刀を構え、リーネの杖先に炎が灯った。

僕もどうにか剣を抜き、両手で構える。


ギン、ゲン、ポンタも低く身を沈める。


魔人は僕たちを見渡し、愉快そうに赤い瞳を細めた。

「だが――もう遅い」

ぱちん、と指が鳴る。


瘴気核が爆ぜるように脈動し、無数の黒い触手が祠へ突き刺さった。

轟音とともに大地が跳ね、僕たちは必死に踏みとどまる。

木々が軋み、地面に巨大な亀裂が走った。

森中の瘴気が一斉に空へ噴き上がる。


その底なしの闇から、獣とも竜ともつかない咆哮が突き上がった。

魔人は両腕を広げたまま、狂ったように笑っていた。

――追跡の果てに待っていたのは、魔人との対峙ではない。

僕たち全員の覚悟を試す、災厄の目覚めだった。



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