第53話 始まりの村、大ピンチ!聖獣三匹との防衛戦
王都の店を巡り、カイは忍者装束と武具を、リーネは中級魔法士にふさわしいローブとマント、それに新しい杖を買いそろえた。
イケメンは、忍者装束も反則級だ……。
もちろん、リーネの新しい装いもなかなか似合っている。
成長すれば、いつかユーディアさんやエルフェリアさんのような、妖艶な美魔女になることだろう。たぶん。
「タロウさんは、なにか買っておかないの?」
「いや、僕はこれで十分だよ。この剣も手に馴染んでいるからね」
(……下僕だし)
――いやいや、卑屈になる必要はない。
僕には、聖獣たちと若者二人を立派に育て上げるという大仕事がある。
この世界の恩寵が、それを求めているのだ。
――だが、その役目を試す災厄が、すでに北の森で動き始めていた。
買い物を終えて王国騎士団の詰め所へ向かうと、中は妙に慌ただしかった。
顔見知りの騎士見習いをつかまえて事情を聞く。
どうやら闇の教団が、北の森で瘴気を発生させようとしているらしい。
捕らえた元魔人の神官が、その計画を吐いたということだ。
(結構、荒々しく尋問したのかなぁ……)
そんな心配よりも、北の森のすぐ近くには、始まりの村がある。
――村のみんなが危ない。
僕たちは三匹を連れ、その足で北の森へ急行することにした。
「みんなが心配だ。ギン、ゲン、ポンタ、ごはんは後だ」
「にゃん!」「うにゃん!」「ワン!」
(※ 注……ふざけているわけではない。至って大真面目に返事している)
「みんな、良いお返事ね!」
「よし、行こう!」
――このときの僕たちはまだ、北の森で待つ敵を知らなかった。
その頃――
深夜の北の森では、フードをかぶった何者かが結界の祠を破壊していた。
数人の男たちは崩れた祠の上に穢れた瘴気核を据えると、低い声で怪しげな呪文を唱え始めた。
フードの奥で、赤い瞳がぎらりと光る。
吊り上がった口元から、鋭い牙がのぞく。
魔人だ――。
瘴気核は毒々しく脈打ち、どす黒い瘴気を噴き出した。
漆黒の闇が北の森の奥から、音もなく広がっていった。
木立でさえずっていた鳥たちは瘴気に呑まれ、次々と異形へ姿を変える。
くちばしと爪は青銅のように硬く、羽根は鉄の矢じりのように鋭く尖った。
体はひと回りもふた回りも膨れ上がり、充血した目が血のような赤に染まっていく。
森の猪も、リスも、鼠も同じだった。
瘴気に侵され、凶暴な魔獣へと変貌していく。
そして魔獣の群れは、始まりの村を目指して一斉に走り出した。
スタンピードだ。
しかも、その進路の先にあるのは――始まりの村だった。
その日の始まりの村は、いつもと変わらぬ穏やかな時間に包まれていた。
皆が寝静まった頃--。
北の森の空から、闇の中を怪鳥の群れが奇怪な叫びをあげながら押し寄せる。
遅れて轟く地響き。
魔獣の群れが、大地を揺らしながら村へ迫ってきた。
危機を知らせる鐘が鳴り響く。
「王国騎士団長、マリアだ! 騎士団は大型魔獣の襲来に備えよ!」
駆けつけた王国騎士団と集まった冒険者は、すでに布陣を完了している。
「冒険者の指揮はグレイル支部長に任せる。小型魔獣の群れを頼む!」
「了解しました」
号令と同時に、重装歩兵たちが柵の前で槍を構えた。
最初に姿を現したのは、無数の瘴気針鼠だった。
黒い波のように群れが村へ押し寄せる。
しかし、事前に柵の手前へ掘っておいた空堀が功を奏した。
針鼠たちは次々と転落し、這い上がれずにもがいている。
これなら、ひとまず針鼠は後回しでいい。
直後、腹の底まで響く轟音とともに、大地が激しく震えた。
「来るぞ」
巨大な瘴牙猪・ヴェノムボアの群れが、土煙を巻き上げながら突進してくる。
「柵のところで止めるんだ」
「押せ!」
柵に食い止められたヴェノムボアへ、騎士たちの銀槍が次々と突き込まれる。
その頭上では、怪鳥の群れが翼を畳み、急降下を始めていた。
「冒険者ども、弓を引け!」
「よーし、引き付けろ!」
「まだまだ」
「――射て!」
グレイル支部長の号令に合わせ、無数の矢が闇を裂いて怪鳥の群れへ殺到した。
「ここは任せた。俺たちは、スタンピードを起こした犯人を追う!」
忍の者となったカイは、シーフやレンジャーたちを手早くまとめ上げ、森の中へと消えていった。
いつの間にか、ずいぶん頼もしいリーダーになったものだ。
育ての親でもないのに、ちょっとだけ胸が熱くなる。
リーネは、他の魔法使いたちと並び、攻撃魔法で怪鳥を次々と撃ち落としていた。
初級と中級では、威力も射程も段違いだ。
二人とも、確かな成長を見せている。
やはり、恩寵の力はすごい。
僕も早くそのプロトコルを体得し、みんなを助けられる流れに参入したい。
一方で、聖獣さんたちの活躍も目覚ましい。
神獣ギンは、空堀へ飛び込み、瘴気針鼠たちの浄化に大忙しだった。
ぱしん、ぱしんと、元の愛らしい小動物に戻してしまえば脅威はない。
地味に見えても、これだって立派な役目だ。
ポンタは、なんと!
精霊獣フェンリルへ初めて姿を変え、騎士団とともに瘴気狼と対峙していた。
光をまとってきらめく毛並みは神々しい。
いつもの丸っこい駄犬と同一人物――いや、同一犬とはとても思えない。
浄化された狼たちは次々と頭を垂れ、フェンリルとなったポンタに従っていく。
うん。文句なしの大活躍だ。
ゲンも負けてはいない。
額の赤い宝玉を輝かせ、幾重もの魔法障壁を展開して騎士や冒険者を守っていた。
ゲンの強力な魔法障壁は、瘴牙猪・ヴェノムボアの群れの突進を受けてもびくともせず、逆に巨体をはじき返すほどだ。
みんなの身を護る防衛の要として機能し、戦線はどうにか持ちこたえている。
――そう思った、そのときだった。
北の森の奥から、これまでとは比べものにならない瘴気が噴き上がった。
カイたちが向かった方角だ。
胸騒ぎを覚えた僕は剣の柄を握り、漆黒の森の闇の中を見据えた。




