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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
冒険者パーティー”銀の旅団”、やっぱり主役は銀猫様

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第52話 千年前の青銅版の謎とモフモフ鑑定会

サイクロプスを討伐した洞窟で、僕らは奇妙なものを拾った。

巨人の古びた骨の下に眠っていた、円形の青銅板だ。

表面には、“ΚΥΚΛΩΨ”――キュクロープス、と刻まれている

『一つ目の巨人』、つまりサイクロプスを意味する古代ギリシア語だ。

「僕は……なんで、読めるんだ⁉」

古代ギリシア文字など、僕は習ったこともない。

それなのに意味だけが、最初から知っていたように頭へ入ってくる。


サイクロプス自身が、名を刻んだとは考えにくい。

では、誰が、何のために青銅板を遺したのか。

一連の襲撃事件には、『影の教団』や『魔人』の影がちらついている。

青銅板を調べれば、連中の狙いだけでなく、僕がこの世界へ転移した理由にも近づけるかもしれない。

(もし、向こうの世界のものなら……あの巨人も、僕と同じ転移者だったのか?)

 

「王都封印局なら、何か分かるかもしれん」

と言ったギルマスの言葉を頼りに、僕らは答えを求め封印局へ向かった。

王都封印局――

術式、結界、呪物鑑定の専門家が集う、王宮直属のエリート機関である。

久しぶりにセラフィナ隊長やユーディアさんに会えるのは嬉しい。

もっとも、彼女たちのお目当ては僕ではなく、うちのモフモフたちだろう。

ミルド、ガルド、バルツにも会えるかもしれないが……まぁ、そっちはどうでもいい。


封印局の扉を叩き、応接に通された。

白布をほどいて青銅板を差し出すと、セラフィナ隊長の表情が引き締まった。

「これが例の品か。預からせてもらう」

彼女は素手で触れず、術式の刻まれた手袋をはめてから慎重に分析部隊へ回した。

結果を待つあいだ、僕らは応接室で近況を話した――

はずなのだが、セラフィナ隊長とユーディアさんの視線は、途中から完全にギンとゲンへ釘づけだった。

「ギン様、相変わらず素晴らしい毛並みです……!」

ユーディアさんが頬を緩めると、ギンは得意げに胸を張った。

今の二匹は普通の猫ほどの大きさだ。

これなら、うっかり猫パンチを食らって壁まで飛ばされる心配もない。

ゲンまで大人しくセラフィナ隊長にモフられている。

(こいつらも、やっぱり美女には甘いな……)


二人が心ゆくまでモフモフを堪能した頃、ちょうど鑑定結果が届いた。

「この青銅版が作られた年代は、およそ千年前」

報告書へ目を落としたセラフィナ隊長が告げる。

青銅板には僅かな瘴気が付着しているものの、板そのものが発しているわけではない。洞窟か、傍らにあった骨から移った可能性が高いらしい。

「つまり、危険な呪物とかではない、と?」

「ええ。封印術式や結界が施された痕跡もありません」

ユーディアさんの答えに、ひとまず肩の力が抜けた。


ただし、刻まれた文字は封印局の誰にも読めなかったという。

青銅板は、やはり僕のいた世界で作られたものなのかもしれない。


続いて、僕は影の教団との関係を尋ねた。

セラフィナ隊長はすぐには答えず、机の上で指を組む。


森の獣は瘴気に侵されると魔獣になる。

だが、瘴気を浄化すれば元の姿へ戻せる――

ギンの猫パンチが、ポンタとゲンで証明したことだ。


では、人間が瘴気を取り込めばどうなるのか。

僕らは、その答えを最悪の形で見ている。

魔人――人為的に瘴気核の欠片を埋め込まれた人間だ。

少し瘴気を吸った程度で、誰もが魔人になるわけではない。

そこには明確な悪意と、手を下した何者かがいる。


問題は、あのサイクロプスだ。もともと凶暴な人食いの怪物ではある。

だが、リーネのアイスランスが一つ目を射抜き、巨体が地に伏した直後

――異変は起きた。

十メートルを超える巨躯が、魔石だけを残して跡形もなく消えたのだ。


「普通の生き物の死に方じゃありませんよね」

リーネの呟きに、セラフィナ隊長は険しい顔で頷いた。

あの巨人は最初から魔石を宿していたのか。

それとも、魔人と同じように何者かが埋め込んだのか。

いずれにしても、残された魔石は瘴気を吸って濁っていた。

「少なくとも、サイクロプスが瘴気の影響を受けていたことだけは間違いない」


そして、魔人が口にした「あの方」という言葉。

影の教団が組織的に魔人や魔獣を生み出している――

そう考えれば、すべてが一本の線でつながる。


瘴気の発生源を増やし、恩寵の流れを汚し、世界そのものを蝕む。

もし、それが連中の目的だとしたら――。

しかも、捕らえた魔人の正体は教会の神官だった。

尋問で何が判明したのか。

教団の使徒が教会へ潜り込んだだけなのか、それとも――

教会そのものが、すでに侵食されているのか。


「一度、王国騎士団にも話を聞く必要がありそうですね」


カイが言うと、セラフィナ隊長は静かに目を細めた。

「ええ。ですが今後は、教会関係者の前で迂闊にこの件を口にしないでください」

冗談の通じる空気ではなかった。


青銅板の謎は解けないまま、影だけがいっそう濃くなっていく。

手のひらに残る冷たい感触が、これから起きる何かを警告しているように思えた。


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