第50話 巨人討伐! 次の厄介事は謎の青銅板から
受付嬢は羽ペンを落とした。
「依頼内容は、現地の調査でしたよね……?」
視線の先には、淡い青光を放つ二つの魔石。どちらも子どもの頭ほどある。
「――どうして、ギガンテス級の魔石が二つもあるんですか⁉」
受付嬢の悲鳴じみた声に、騒がしかったギルドが静まり返った。
「まぁ、成り行きで……」
「でも倒したのは一体だけですよ。もう一つは洞窟で拾いました」
「神獣のギンが浄化したので、危険はないと思いますけど……」
僕らはとりあえず、口々に言い訳めいたことを言ってみた。
「拾ったって……ギガンテス級ですよ! 討伐報奨金も桁違いです。すぐギルドマスターを呼んできます!」
受付嬢は返事も待たず、階段を駆け上がっていった。
好奇、驚き、疑い……四方八方から刺さる冒険者たちの視線が痛い。
ほどなく戻った受付嬢に促され、僕らは二階の応接室へ通された。
「王宮地下探索以来だな。三人でパーティーを組んだんだな」
ギルドマスターのアイザックだ。いかにも歴戦の冒険者といった、渋いナイスミドルだ。
「先日、パーティーとして正式に登録したばかりの銀の旅団、リーダーのカイです。タロウ、リーネ。そして三匹の聖獣がメンバーです」
「サイクロプスを討伐したのも、君たちか?」
「弓矢で動きを封じたのはリーダーのカイで、氷槍を一つ目に撃ち込み、とどめを刺したのはこちらのリーネです」
「シーフと魔法使いか。初めて組んだパーティーで、ギガンテス級を仕留めたとはな」
ガイウスは腕を組み、僕らを順に見渡した。
「聖獣を連れた珍しい一団が登録したと、朝から話題になっていた。なるほど。君たちが『銀の旅団』か」
ギンもゲンも普通の猫サイズ、ポンタも柴犬に戻っている。
一見すると、ただペットを連れているようにしか見えないかもしれない……。
アイザックは、おもむろに魔石に目線を移し、その片方を持ち上げ、光に透かすように目を細めた。
「濁りがほとんどない。これほど上質で大きな魔石なら、相当な値がつくだろう。査定を楽しみにしておけ」
「調査自体の報酬は、金貨一枚ですが……討伐報酬も支給されます。魔石の買い取りもできますよ」
受付嬢が補足してくれた。
「ところで、君は?」
若返っていて、分からないらしい…そりゃそうだ。
「聖獣さんたちの通訳兼、荷物持ち。一応、パーティーメンバーです」
胸を張れる役目ではないが、嘘ではない。たぶん。
――げぼく。
ギンが目を細めて、頭を僕の脚元に身体を擦り付けてくる。
(ムッ! こいつ、おちょくっとるな……)
僕はあえて無視を決め込んだ。
その瞬間、視界の中央で光が弾けた。青白い文字列が、音もなく浮かび上がる。
【王都西街道の調査:達成度一〇〇%】
【イベント達成】
王都西方の街道での魔獣調査
魔獣サイクロプスを討伐しました。
ギガンテスの魔石二個の納品を完了しました。
報酬を付与します。
ギンが目を見開く。カイとリーネも宙を見つめていた。
ギンの隣から画面をのぞくと、それぞれの【報酬】が光っている。
【報酬】
銀霜猫王・ギン:神獣位階が上昇しました。
【報酬】
カーバンクル・ゲン:精霊獣の位階が上昇しました。
【報酬】
瘴気狼グリムウル・ポンタ:精霊獣フェンリルに種族進化しました。
【報酬】
シーフ・カイ:シーフの上位職:「忍者」へクラスチェンジが可能です。
【報酬】
魔法使い・リーネ:初級魔法士から中級魔法士に位階が上昇しました。
【連動報酬】
銀猫の下僕一・タロウ:好感度がアップしました。
僕だけ、完全にギンのおまけ扱い。しかも連動報酬が『好感度アップ』って……いや、嬉しい。そりゃ嬉しいですよ? 加齢臭に鼻をつままれるより、ずっといい。
でも、どうせなら戦闘で役立つスキルとか、危機を切り抜ける能力とか、そういうものはないのかね。
落ち込む僕を慰めるように、ギンがまた前足で肩をぽんぽん叩く。
その顔は妙に満足げだった。
ナメとるな……。
いや、待て。そもそも今回、お前、何も活躍してないよね?
浄化はした。したけど、戦ってはいないよね?
いや、僕も戦いに参加してないけどさ。
それなのに、しれっと神獣位階が上がっている。
世の中、ちょっと不公平すぎやしないだろうか――。
面談を終えて二階の応接室を出ると、階下の酒場兼待合所は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
どうやら噂は、僕らより先に一階へ駆け下りていたらしい。
「聞いたか!? 登録したばかりの新人パーティーが、初依頼でギガンテス級を討伐したらしいぞ!」
「そりゃすげえな! どこのパーティーだ?」
「聖獣様のパーティーらしいぞ」
ざわめきの中心にいると気づいたリーネが、居心地悪そうに僕の袖をつまむ。
カイは平静を装っていたが、口元がわずかに緩んでいた。
初依頼を終えた実感が、ようやく湧いてきたのだろう。
イケメンは、悪そうな顔をしても絵になる。
そこで僕は、洞窟から持ち帰ったもう一つの品を思い出した。
古い骨の下から見つかった、円形の青銅板だ。
「そうだ、アイザックさん。洞窟の中で、こんな青銅板も拾ったんですが……」
去りかけたギルマスを呼び止め、布に包んだ青銅板を差し出す。
表面には“ΚΥΚΛΩΨ”と刻まれている。
「この文字に覚えはありますか?」
「……俺には学術的なことまでは分からん」
アイザックは青銅板を傾け、刻まれた文字を鋭い目で追った。
「だが、王都の封印局へ持ち込めば、何か分かるかもしれん」
王都封印局――セラフィナやユーディアにも会いたい。相談してみるか。
もしかすると、例の『影の教団』や『魔人』とも関係しているかもしれない。
そしてなぜか、僕にはその文字が読めた。古代ギリシア語だ。
『一つ目の巨人』――キュクロープス。つまり、サイクロプスを意味する。
(巨人も僕と同じように、この世界へ転移してきたのか? いや、その逆か……?)
洞窟で拾った一枚の青銅板が、次の厄介事の扉を静かに開こうとしていた。




