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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
冒険者パーティー”銀の旅団”、やっぱり主役は銀猫様

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第48話 新人パーティー、特典欲しさに巨人へ挑む

魔獣が出たという王都西方の街道は、山間部を縫うように延びていた。

片側は昼でも光の届かない森。

片側には、ひとたび足を滑らせれば谷底まで真っ逆さまの断崖。

「なるほど。カイの言ったとおりだ」

逃げ場のない一本道だった。


先頭を歩いていたカイが足を止めた。

街道脇のぬかるみを指でなぞると、そこには巨大な足跡が残っていた。

足跡ひとつに、リーネがすっぽり嵌りそうなくらい大きい。


【ギガンテス(巨人)の足跡を確認】

周辺土壌の瘴気濃度の上昇を確認。

足跡は、周囲一キロ範囲内に一体分のみ。


「一体だけみたいだ。荷車を引きずった跡もある」

「一体分の足跡でも十人分くらいはありますよ……」

リーネが杖を抱き直した。


昨夜、この街道を走っていた荷馬車二台が襲われた。

護衛三名は負傷。荷馬車は壊され、積み荷と馬は跡形もなく消えた。

似たような事件は、この半月ですでに四件目だという。


新人冒険者パーティーに任せる依頼としては、どう考えても中身が重い。

もっとも、受付嬢は『まずは調査だけで構いません』と笑っていた。

あの笑顔を信じた俺たちが甘かったのかもしれない。


「こっち。木に跡がある」

ポンタが鼻を鳴らし、森の入口へ駆ける。

樹皮には、地上から五メートルほどの高さまで黒い染みがこびりついていた。

その根元には、荷馬車の鉄枠が落ちている。

何か巨大なものが、力任せにねじ切ったらしい。


「腰の高さ、足跡、武器を引きずった跡。目撃証言とも一致する」


――青白い文字が、皆の視界に浮かび上がる。


【簡易鑑定】

サイクロプス。凶暴で獰猛な一つ眼のギガンテス(巨人)種の怪物。

一つ目、頭頂部に一本角、青銅のような外皮が特徴の人型魔獣。

通常、三~五体ほどの群れで行動し、日中は洞窟などに籠もる夜行性。

※人食いの習性あり。


僕の記憶にある、ギリシア神話の怪物と同じ名だ。

翻訳の恩恵が言い換えたわけではない。

名前だけなら偶然で済ませられた。だが、姿まで同じとなれば話は別だった。


「ま、まさか……そんなのと正面から戦うなんて言わないですよね?」

すでに泣きそうなリーネが、カイとギンを心配そうに見比べる。


「もし奴なら、分厚い青銅のような皮膚と筋肉に覆われ、弓矢や剣で正面から挑んでも致命傷を与えるのは難しいな……」


巨大化した戦闘モードのギンは、任せとけ、と言わんばかりに胸を張った。

「にゃあ!」


「……ギンはやる気満々みたいだけど」


「サイクロプスは単体でもやっかいだ。仲間を呼ばれれば熟練の冒険者パーティーでも全滅しかねない。さすがに真っ向勝負はヤバい……」


不満そうに尻尾をブンブン振るギンを撫で、僕らは足跡を追った。


たどり着いたのは、街道から半刻ほど入った山腹だった。

岩壁に大きな洞窟が口を開けている。

周囲には馬の蹄鉄、破れた麻袋、砕けた木箱。

洞窟の奥からは、獣の唸りに似たいびきが響いていた。


入口はひとつ。カイが周囲を一周して確かめても、別の抜け道は見つからない。


「足跡は二種類。ただし、片方は古い。今いるのは一体だと思う」


それでも、推測だけで命を賭けるわけにはいかない。


その瞬間、ステータス画面の青白い文字が、皆の視界に浮かび上がる。


【イベント条件を変更しました】

実地現況調査から、ギガンテス級(サイクロプス)の魔獣討伐へ

【特典情報を開示します】

メンバー全員の位階が一段上がります。


「勝手に変更とか言っちゃってますよ!」

リーネが泣きそうだ。


山の影が濃く落ちる西方街道で、僕はふと――地球で読んだギリシア神話を思い出してしまった。


オデュッセウスが一つ目巨人を酒で酔わせ、偽名で煙に巻き、眠ったところで目を潰して脱出した――あの逸話だ。

……いや、今の僕ら、酒樽も羊もないんだけど。


それでも、この世界にも〝ほぼ同じ筋書き〟の英雄譚が残っているのが気にかかった。

怪物の名前、姿、伝承。三つも一致してるとか、もう偶然じゃない。

地球の神話が持ち込まれたのか、逆にこの世界の伝承が地球へ渡ったのか――どっちにしてもロマンがある。


ただし、目の前のサイクロプスはロマンじゃなくてリアルにヤバい。

正面から勝てる気がまったくしない。

でも、僕らの脳裏には“全員の位階が上がる”という、あまりにも魅力的な特典がぶら下がっていた。

――そりゃ、逃したくないよね。

そんなわけで、僕らは気づけば討伐寄りの方向へ傾いていた。


「いや、真っ向勝負を避ければ、討伐できるかもしれない」

と僕が口にした瞬間、みんなの目がキラッと光った。

完全に特典の魔力である。


そして始まる、ゆるいけど真剣な作戦会議。


「日が落ちるまで待つ。出てきた一体を入口から引き離して、街道手前の狭い岩場へ誘導する」

カイが地図を指しながら言う。


その横でポンタが胸を張る。

「囮は任せろ! 逃げ足だけは一級品だからな!」


「俺が高所から毒矢で足元を狙う。ポンタは退路を塞いで囮役。リーネは脚を凍らせて動きを止める」


「最後は?」


「夜目が利く代わりに、一つしかない目は強い光に弱い。ギンの《閃光》で視界を奪う。その隙にリーネの《攻撃魔法》を目へ叩き込む」


誰も反対しなかった。

だって――特典が美味しすぎる。


「もし……わたしが外してしまったら?」

リーネは見取り図を見つめ、唇を結んだ。


「その時はタロウさんが予備の油壺を割る。炎で洞窟へ追い戻して入口を崩して逃げればいい」

「タロウさんが保険ということですね!」


短い沈黙のあと、カイが頷いた。

「新人が格好をつけて死んだら、笑い草にもならない。ここは確実にいこう」


イケメンが格好いいこと言うと、やはり締まりますな。


ギンだけは、どうしても猫パンチを諦めていない顔をしていた。


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