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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
冒険者パーティー”銀の旅団”、やっぱり主役は銀猫様

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第47話 冒険者パーティー始動、僕だけ“下僕”で正式登録


僕ら三人は、正式にパーティーを組んだ。

つまり、ここが僕ら冒険者チームとしての本当の出発点なのだ。


王都の冒険者ギルド本部は、朝から戦場のような騒がしさだった。

革鎧の匂い、紙とインクの匂い、奥の酒場から漂う焼き肉の香り。

磨き込まれた石床を大勢の冒険者が行き交い、依頼掲示板の前では早くも獲物の取り合いが始まっている。

いかにも異世界らしい光景を前に、僕――タロウは密かに胸を躍らせていた。

今日から僕らも、晴れて正式な冒険者チームになる。


「うわ、人多っ。みんな、迷子にならないでよ?」

リーネが三匹の保護者のように声を掛けるが、

ポンタは床に落ちていた紐くずを夢中で追いかけて回り、

ゲンは尾っぽを揺らしながら、辺りをキョロキョロしている。

ギンは肉の焼ける匂いにつられて奥の酒場に向かっている。


仲間は、偵察と探索に長けたシーフのカイ、魔法学校新卒のリーネ、そして一応、剣士志望の僕。

さらに、銀猫の神獣ギン、精霊獣カーバンクルのゲン、普段は柴犬だが魔獣グリムウルのポンタがお供する。

人間三人と獣三匹。数だけなら、ちょっとした大所帯だ。


「それじゃ、パーティー名は『銀の旅団』でいいわね?」

主に彼女の提案だが、異論はない。

銀猫のギンを象徴にできるし、派手すぎず渋すぎない。

駆け出しの僕らでも、名前だけは少し強そうに聞こえる。


カイが申請用紙をのぞき込む。

「『駆け出し三人と愉快な動物たち』よりマシだな」


「僕はもう少し、英雄譚っぽい名前でも――」

『うにゃ』

ギンが机をぺしりと叩いた。

「銀の旅団で確定、と言っている」


「なんでギンが決めるんだよ!」

……早くも猫に主導権を握られつつある。


「リーダーはカイ。職業はシーフ。リーネは魔法使い。僕は……剣士、と」


僕は少しだけ丁寧な字で「剣士」と書き込んだ。

欄に記した瞬間、腰の剣まで誇らしく見えた。


ところが、書類を受け取った受付嬢は、僕らの足元に並ぶ三匹を見て首をかしげた。

「こちらの聖獣様たちもパーティーメンバーとして登録しないとダメなんですよ」

「えっ? 犬猫ですけど……お供とか使い魔の扱いではなくて?」

受付嬢はにこやかに頷く。

「聖獣様を使役対象のように扱ったりしたら、あとで神殿から叱られますよ」

受付嬢の営業用スマイルに、有無を言わせぬ圧が混じった。


僕は素直にメンバー欄に三匹を追加した。

ギンには「神獣」、ゲンには「精霊獣」、ポンタには「魔獣」と記す。

それで完璧だと思っていた。


数分後。受付嬢は赤いインクで添削した登録用紙を、静かにこちらへ差し戻した。

ギンは「神職」。ゲンは「魔法使い」。ポンタは「戦士」。

なるほど、種族ではなくパーティー内での役割を書く欄だったらしい。

カイとリーネの記載も問題ない。

「ポンタが戦士?」

リーネが目を丸くした。

当のポンタは、カイの靴紐に絡まって転がっている。

どう見ても愛玩枠の駄犬だ。


「ギン様は浄化、ゲン様は防御。リーネ様は攻撃、カイ様は探索。実に均整の取れた一行です」

「ですよね?」

僕も胸を張る。


「変身後は重装戦士に近いですね」

「普段との差がひどすぎないか?」

カイが靴紐を救出すると、ポンタは褒められたと思ったのか、ころんと腹を見せた。



受付嬢の視線が、最後に僕の欄で止まった。

僕の「剣士」には、ひときわ大きなバツ印が引かれていた。

「えっ」

「はい?」

「いやいや、ここです。僕の職業欄」

その横に書き直されていた二文字は、

――下僕。


「神獣ギン様のステータスに、タロウ様は『下僕』と明記されています。ご本人の希望は分かりますが……ステータス表示が優先されますので」

「えっ!」

「えっ?」


カイが僕の肩に手を置き、重々しく何度も頷いた。

「肩書きが何でも、タロウさんは大切な仲間だ」

「カイ……!」

「荷物持ちとしても期待していますので……」


横を見ると、リーネの肩が震えていた。

ついに耐えきれず、リーネが吹き出した。

「リーネまで……」


ギンを見る。

銀色の猫はカウンターの上で前足をそろえ、いかにも高貴な神獣らしく澄ましていた。

「おい、こら、この1カ月の僕の努力を返せ」


そうだ、ジョブチェンジについて聞いてみよう。

「……変更できますか?」

「残念ながら、下僕は上位職への転職例が確認されておりません。奴隷であれば解放後に村人や商人になる場合もありますが、下僕は終身職に近いですね」

奴隷より転職の自由がないとは、どういうことだ。


「では、固有スキルは? 下僕だけが使える奥義とか……」

「ございません。生活魔法が少々使える程度です。戦闘は一般人の範囲ですね」

受付嬢の柔らかな笑顔で、とどめを刺された。

「どうか安全第一に頑張ってください。生活魔法は、洗浄、乾燥、着火、簡単な修繕などです」


こうして完成した『銀の旅団』の登録内容は、次の通りだ。

カイ――シーフ。探索・偵察担当、パーティーリーダー。

ギン――神職。浄化担当、ただし戦闘能力は極めて高い。

ゲン――魔法使い。防御魔法担当。

リーネ――魔法使い。攻撃魔法担当。

ポンタ――戦士。変身前は愛玩枠、変身後は前衛。

……そして、不本意ながら、

タロウ――下僕。お世話係兼荷物持ち。戦闘能力は低。


受付嬢が六枚の登録証を並べると、ギンは僕の分だけ前足で器用に引き寄せた。

そこに刻まれた「下僕」の文字をトントンと指し、僕へ差し出す。


「ごあん」

早速、前足を上げて催促する。

「ギン……お前なぁ、少しは僕の気持ちも考えろよな」

「にゃん」

声だけは可愛らしいのが憎らしい。


けれど、落ち込んでばかりもいられない。

視力は回復し、体は若返り、共に旅をする仲間もいる。

元の世界で五十代のままこの子たちのお世話を続けるよりは、ずっと楽だ。


それに、僕がこれから何を成し遂げるかまでは決められていない。

「よし。下僕なら下僕で、誰にも真似できないくらい極めてやる」

「前向きなのか、やけになってるのか分からないな」

カイが苦笑し、リーネは笑い涙を拭った。


そのとき、受付嬢が一枚の依頼票を取り出した。

「ちょうど皆様にお願いしたい案件がございます」


差し出された紙の隅には、赤い印が押されていた。

推奨等級より危険度が一段高いことを示す警告印だ。

どうやら、笑っていられるのはここまでらしい。


「王都西方の街道で、魔獣の目撃が相次いでいます。先日は荷馬車が二台襲われ、護衛三名が負傷しています」

「魔獣の種類は?」

カイの声が、一瞬で低くなる。

「不明です。生存者は、馬車より大きな黒い影と、金属を引きずる音を聞いたと」

カイが地図を指でなぞる。

「森と崖の間か。逃げ場がないな」

リーネは依頼票をのぞき込み、ギンの尻尾がぴたりと止まった。


「日暮れ前には街道を封鎖します」

カイの目が細くなる。

リーネが杖を握り直した。


こうして僕ら『銀の旅団』は、正式登録から十分も経たないうちに、最初の依頼に挑むことになった。

難を言えば、僕の冒険者生活は「下僕」という肩書きのまま始まった、ということだ。


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