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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
予言は深刻だが、ウチのモフモフが尊い

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第37話 ごはん要求の儀式は市場のど真ん中でやらない

王都は、生活必需品からちょっとした贅沢品まで何でも揃う便利な街だ。

恩寵の流れが整っているせいか、歩いているだけで心が軽くなる。


銀猫様は十キロ超えの大猫サイズで、王都の石畳を堂々と歩いている。

神獣の威厳を保ちつつ、尻尾はご機嫌にゆらゆら。


ゲンはリーネの肩に乗り、モフモフの尻尾を彼女の首に巻き付けている。

リーネは常時モフモフを感じて幸せそうだ。


ポンタは換毛期まっただ中で、歩くたびに毛がふわり。

カイが後ろで「おい、歩くな、毛が飛ぶ!」と文句を言いながら

ブラシを抱えて追いかけていた。


そんな賑やかな一行で、僕らは王都を歩いた。


王都を歩いていると、ひとつ不思議なことに気づいた。


三つの区画には、それぞれ鍛冶屋、宿屋、飯屋、服屋が一軒ずつある。

どの区画へ行っても、店の数は同じで、価格も同じだった。


僕の世界なら、競争が起きるはずだ。

価格を下げたり、サービスを増やしたり、差別化したり

――市場は競争によって成り立つと信じられている。


しかし、この世界では競争という概念そのものが存在しない。


理由は単純で、しかし深い。


この世界の魔法は、神々から授かった“恩寵”によって成り立っている。

そして恩寵は、使えば減るのではなく――使うほど増える。


誰かを助ければ恩寵は強くなり、

誰かを喜ばせれば澄み、

誰かに奉仕すれば輝きを増す。


つまり、利他が力を増幅する。


だから商人たちは「儲けるため」ではなく、

恩寵を循環させるために商いをしている。


競争して相手を蹴落とす必要がない。むしろ競争すると恩寵が弱まる。

嫉妬、羨望、敵意、憎しみ――そうした感情は恩寵の流れを濁らせるからだ。


結果として、価格は自然と均一になり、誰も損をしないし、誰も得を独占しない。

区画ごとに店が一件なのは、恩寵の流れを乱さないための古い慣習らしい。


恩寵は川のように街を巡り、

区画ごとに役割を分けることで滞りなく流れるように設計されている。

複数の店が競い合えば、恩寵の流れが乱れ、街全体の魔力が濁ると信じられている。


価格が同じなのは「足並みを揃えている」わけではなく、恩寵の量が均一だから。

神々から均等に降り注ぐ祝福を使って作られた品は、自然と同じ価値になる。


つまりこの世界の商売は、神々の祝福の均衡によって自動的に調整される“理財”の仕組みなのだ。


そんな文化に感心しつつ、僕らはまず鍛冶屋へ向かった。

王都の鍛冶屋は、恩寵の火を使うためか、店内は熱気よりも柔らかな光に満ちていた。

壁には剣、槍、短剣、盾――どれも恩寵の光を帯びて淡く輝いている。


「タロウさん、まずは剣がいいと思いますよ」


カイが言う。シーフらしく、武器の重さやバランスを一瞬で見抜いている。


「魔力がほとんど無いなら、魔法武器より物理武器ですね」


リーネも頷く。


僕は一本の剣を手に取った。恩寵の光が柄に宿り、手に吸い付くように馴染む。


「……軽い。これなら扱えそうだ」


「それ、初心者向けの“祝福剣”ですね。使うほど恩寵が増えて、切れ味が良くなるんですよ」


鍛冶屋の主人が笑う。

僕は祝福剣を購入した。



次に防具屋へ向かう。


鎧は金属ではなく、恩寵を織り込んだ布や革が多い。

軽くて丈夫で、魔力の流れを乱さないらしい。


「タロウさんはこれがいいと思います」


リーネが選んだのは、淡い青色の“恩寵布のジャケット”。

軽くて動きやすく、魔力が少ない僕でも扱いやすい。


「おいらの嗅覚だと、これが一番“安全な匂い”がするぜ」


ポンタが鼻をひくつかせる。


「安全な匂いって何だよ」


「恩寵が濁ってないってことだよ。おいら、影の匂いには敏感なんだ」


元瘴気狼の嗅覚は伊達ではないらしい。

僕はそのジャケットを購入した。



魔道具屋は、まるで雑貨屋のように賑やかだった。

言ってみれば、生活魔法を補う便利アイテム屋だ。


恩寵の光を宿したランタン、自動で温度調整する水筒、魔力を少しだけ補う指輪――どれも生活を便利にするものばかりだ。


「タロウさん、これどうですか?」


リーネが差し出したのは“浄化補助の護符”。


「銀猫様の浄化と相性が良いらしいですよ」


ゲンが尻尾で僕の腕をぽんと叩く。


「ご主人、これを持っていれば、わたしの防御魔法とも響き合うわ」


「……買う」


即決だった。


装備を整えた僕らは、王都の市場へ向かった。

市場は恩寵の流れがもっとも濃い場所で、果物、パン、肉、布、魔道具――あらゆるものが並んでいる。


そこで――三匹が騒ぎ出した。


「ごあん!」

銀猫様が果物屋の前で右手を挙げる。

どうやら“ごはん要求の儀式”が始まったらしい。


「銀猫様、さっき食べたばかりですよ!」

リーネが慌てるが、銀猫様は聞く耳を持たない。


「おいらはこっちだ!」

ポンタは肉屋へ突撃しようとする。カイが必死に首輪を掴んで止める。


「離せ! 肉の恩寵が呼んでるんだよ!」


「呼んでねえよ!」


一方、ゲンはというと――布屋の前で尻尾をふわふわ揺らしながら、店主の女性に抱き上げられていた。

「まあ、なんて綺麗な子……!」


「ご主人、ここは天国ね」


ゲンは完全にくつろいでいた。


市場は一瞬で大騒ぎになり、僕は頭を抱えながら三匹を回収する羽目になった。

装備を整え、魔道具を揃え、市場で三匹の騒動を収めた僕らは、ようやく宿へ戻った。



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