第36話 王都でのモフモフ生活は今日も平和
王城の奥では、女王陛下とエルフェリアさんが千年前の影の真実を語り合っていた。
――そんな重たい翌朝。
僕らはそのシリアスな空気の蚊帳の外で、王都観光を満喫していた。
そして僕らのモフモフ生活も、今日も絶好調だった。
神獣銀猫様は、伸縮自在の能力を得てからというもの、
巨大な銀霜猫王の姿より、慣れ親しんだ十キロ超えの“大猫サイズ”がお気に入りらしい。
トイレもごはんも、一応、猫サイズで収まるのは、下僕としては本当にありがたい。
ブラッシングも日に三回、四回。小型化したおかげで、随分と楽になった。
つまり――僕は神獣銀猫様の下僕として、生前同様、
ごはんとトイレとブラッシングに勤しんでいるわけだ。
カーバンクルとして生まれ変わったゲンは、
リーネの肩に乗り、モフモフの尻尾を彼女の首に巻き付けている。
リーネの魔力が心地よいらしく、ゲンは常にご機嫌だ。
リーネもリーネで、「専用モフモフ」を手放す気はまったくない。
肩の上のゲンを撫でながら、幸せそうに歩いている。
柴犬のポンタは換毛期まっただ中だ。
ブラシをかけるともう一匹分の毛が取れるほど。
ポンタのお世話は、全面的にカイに任せているが、
カイも文句を言いながら、どこか嬉しそうに相棒をブラッシングしていた。
僕らのモフモフ生活は今日も平和だった。
しかし――せっかく二十六歳の身体に若返ったのだ。
冒険者としても、しっかりしないといけない。
なにせ、五十六歳の精神が二十六歳の身体に宿っている。
全身にやる気と元気が漲っているのだ。
だが、僕はまだギルド登録上では見習い冒険者。
いつまでも木剣では恰好がつかない。
せっかく王都に来たのだから、お金があるうちに装備を新調することにした。
カイはシーフ。
リーネは魔法使い。
銀猫様は……職業という概念から外れている。
そして僕は――冒険者見習いであり、職業すら決まっていなかった。
「そうだ。まずは職業適性を鑑定してもらおう」
僕は冒険者仮登録書を握りしめ、王都ギルド本部の敷居を跨いだ。
ギルド本部と聞くと、スキンヘッド、眼帯、筋肉ムキムキの荒くれ者どもが、わんさか集っている巣窟というイメージがあった。
気後れしながら入った僕に、受付の女性がやや引き攣りながら微笑む。
「そういう方々は、冒険者ではなく山賊や盗賊の人たちですね」
あっさり否定された。
ギルド本部は意外にも静かで、魔法使い、弓使い、戦士、職人――
さまざまな人々が穏やかに談笑していた。
受付の女性は、僕の仮登録書を見て言う。
「タロウさんの権能に浄化がありますが、魔力適性がほとんどないので、剣や槍など武器を扱う職業――戦士系が向いていると思います」
「魔法使いは……?」
「魔力がほとんどありませんので……」
正直、ショックだった。みんな子供のころから適性に合った修行をしているらしい。
そういえば、リーネは魔法大学で学んだと言っていた。
異世界から突然送り込まれた僕は、魔力はほとんどなく、魔力適性もない。
辛うじて生活魔法少々と、銀猫様のおこぼれで受けた浄化スキルのみ。
「いろいろと教えてくれて感謝します」
僕は深く頭を下げた。
王城では影の真実が語られ、世界の命運が静かに動き始めていた。
だが僕らは――王都の街を歩き、モフモフを撫で、ギルドで職業適性を鑑定してもらい、新しい装備を選ぶ。そんな、ささやかな一日を過ごしていた。
世界を救う旅は、まだ始まったばかりだ。
まずは装備を整え、仲間とモフモフを満喫しながら、冒険者としての第一歩を踏み出すのだ。




