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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
異世界、猫でだいたいなんとかなる

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第26話 森の危機と封印の切り札

冒険者ギルドに駆け込んだときには、もう日が沈みかけていた。


会議室へ通されると、僕たちは森で見つけた証拠を、順番に机へ並べていった。

瘴気核の位置を記した地図、そして回収した遠隔操作用魔石――。

カイが遭遇した魔獣について話し、リーネが瘴気の流れと瘴気脈を説明する。

最後に僕が、瘴気核そのものが外から操られている可能性を伝えた。


グレイル支部長は、地図と魔石を見比べながら、僕たちの報告を最後まで聞いた。

やがて魔石を指先で押さえ、ひとつ息を吐く。

そして、記録を取る受付嬢を見た。


支部長は出来上がった記録に目を通し、受理欄へ印を押した。


ごん、と重い音が響いた。


その直後、視界の端にいつもの透明な板――ステータス画面が開いた。


【依頼を完了:達成度一〇〇%】

【イベント達成】

 「森の境界異常調査」を完了しました。

 (境界石の異常/瘴気の濃度/魔獣の痕跡)

【報酬】

 銀霜猫王ギン:神獣位階が上昇しました。

 新規権能候補:意思疎通レベルが上昇しました。

 備考:本人の機嫌により、下僕たちとのパスが変動します。

【連動報酬】

 下僕一:肉体年齢をさらに五歳若返らせました。

現在の肉体年齢:三十六歳相当。なお、外見の美形補正は今回もありません。

下僕三名に、浄化の火(初級)を付与


今回はギンと僕だけじゃない。リーネとカイまで光に包まれていた。

「下僕たち……? 待って。リーネとカイまで、本人の同意なしで下僕登録されてるんだけど?」


光が収まると、真っ先に声を上げたのはリーネだった。

「タロウさん! 若い! さっきまでより、明らかに若いです!」


三十六歳、だと……異世界に来てから、いや、死んだ時点から二十歳も若返っている!

僕が頬を確かめる。リーネとカイは光の余韻に目を瞬かせていた。

これはマジか……何の特典も無いと思っていたが、やはり異世界だ。

時空を超越しちゃうのは人類の夢だ。若い人たちに人気があるのも、確かに頷ける。


その間にも、会議は進む。

「緊急封印案件として処理する。王都へ正式な要請書を送れ」


ギンのモフモフを見てうっとりしていた受付嬢が羽ペンを落とす。

「はい」

「必要職は、封印術師、結界師、瘴気鑑定士、あとは護衛の前衛二名以上。

加えて、銀霜猫王の同行を前提条件として明記しろ」


受付嬢の羽ペンが、再び紙の上を走る。

書き上げた要請書が差し出される。支部長は要請書を脇へ寄せ、新しい紙を地図の横に広げた。


「次は、封印隊の編成だ」

職ごとの駒が、地図の上へ一つずつ並べられる。


結界師が境界石を修繕し、新たな結界を張って瘴気脈を縛る。

瘴気鑑定士が危険度を読み、護衛が魔獣を食い止める。

封印術師が瘴気だまりを封印していく。


最後に、ひときわ大きな銀色の駒が置かれた。

駒を置き終えると、僕たちへ向き直る。

「銀霜猫王は浄化の要だ。瘴気核を直接触れられる存在は、銀猫様だけだ。

タロウ、おまえはその意思を全員に伝える。

カイは索敵、退路と伏兵確認。リーネは火風魔法で瘴気を散らし、銀猫様の浄化を補助する」


編成の要として名前を呼ばれ、ギンの耳がぴくりと動く。

部屋の隅に陣取っていた銀色の毛玉が、のそりと顔を上げた。


――にく。

「銀猫様から、補給計画について確認です」


「今の一語で、そんなに膨らみます?」

リーネが苦笑した――そのときだった。


ギンが音もなく一歩近づき、ふかふかの胸毛を彼女の腰袋に、むにゅりと押しつける。


「きょ、今日は入ってません! 昨日の干し肉は、もう全部――

ひゃん! 尻尾まで使うのは反則です!」


ギンは太い尻尾を腰袋の背後へ回し、退路を封鎖した。

正面は胸モフ、背後は尻尾モフ。逃げ場なし。

かくして、完全無欠のモフモフ包囲網が完成してしまった。


リーネは両手で腰袋を抱えた。

けれど、その腕にギンの頬毛がふわりと触れた途端、抵抗は目に見えて弱くなった。


――におい。

「腰袋は――捜索の対象みたいです」


「いやーん! 頬をすりすりしないでください! 気持ちよくて抵抗できません!」


ギンは勝ち誇るように胸を張った。

ふくらんだ胸モフが、腰袋ごとリーネの腕を包み込む。

「だめです、銀猫様! モフモフで判断力を奪うのは禁止です!」


支部長が机を指でこつこつと叩き、脱線しかけた会議を引き戻した。

「冗談に聞こえるが、銀猫様の状態維持は必要項目だ。封印隊の行動可否を左右する。要請書にも明記しておけ」


受付嬢は真顔で羽ペンを構えた。


【領都要請追記】

封印隊編成に際し、銀霜猫王の同行を前提とする。

必要物資:浄化符、結界杭、瘴気鑑定水晶、携行食、銀猫様用調査精度向上食材。

備考:当該食材の品質は銀霜猫王の現地判断により決定。


追記を見届けた支部長は、ひとつ咳払いをして、地図に描かれた森を指で押さえた。

「封印隊の到着には、早くても三日かかる。だが瘴気脈は、すでに森の入り口まで達している。三日もつ保証はない。明日から、町側の境界石を補強する」


「森には入らず、町側で抑えるんですね」


「そうだ。封印隊が来るまで、瘴気脈をこれ以上広げさせない。カイは巡回路を確認。リーネは結界杭を打つ場所の風通しを整えろ。タロウは銀猫様の反応を見て、危険地点を拾え」


翌朝。レノルの町は、夜明けと同時に慌ただしく動き始めた。

境界石を補強し、森側の門を閉ざし、倉庫を避難所に作り替える。

支部長の号令ひとつで、冒険者も門番も商人組合も、一斉に走り出した。


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