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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
異世界、猫でだいたいなんとかなる

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23/69

第23話 休む間もなく、次の異変です

やっちまった……。

目を開けた瞬間、こめかみの奥で鈍い痛みが弾けた。

胃の奥から果実酒の甘い匂いがこみ上げるたび、頭痛が一段とひどくなる。


昨夜、女将さんが「若返ったんだから飲めるだろう」と、笑顔で注いでくれた果実酒。

あれは、とんでもなく口当たりがよかった。

――よすぎた。どうやら、僕の想像よりずっと強い酒だったらしい。


ポンタが僕の枕を抱え込み、安心しきった顔で丸くなる。

十五年前、僕の腕の中で確かに息を引き取ったはずのポンタ。

その姿は、あの日と寸分違わない。


異世界で瘴気に呑まれ、魔獣となって狼の群れを率いていた――

そんな凄惨な事実は、当の本人(犬)はすっかり忘れているらしい。


死んだはずのペットたちと、こうして異世界で再会する。

それは、喜びというより、むしろ畏れに近い感情だった。


僕はそっと、その背を軽く叩いた。

「元気だった頃のおまえに、また会えた。それだけで十分だよ」


「……あと、僕の枕は返せ」


いつの間にか目を覚ましたポンタが、枕を抱えたまま鼻を鳴らした。

「おう、ご主人。ひでえ顔だな。若作りの反動か?」


「やかましいわ。二日酔いだ。ほら、枕返せ」


僕が手を伸ばすと、ポンタは枕を抱えたまま、するりとベッドの端へ逃げる。


異世界の冒険は、どうやら今日も平和らしい。

――そう思っていたのは、食堂へ降りるまでだった。


空は晴れ渡っている。

なのに、村の北に広がる森だけが、墨を流し込んだような闇に沈んでいた。

村人たちは声を潜め、何度も窓の外をうかがっている。


硬そうなパンをかじりながら、カイが言う。

「なあ……あの森、昨日まで普通だったよな?」


僕もカイの視線を追った。森を覆う闇が、朝日を拒むように揺らめいている。


リーネは窓辺へ駆け寄り、耳を澄ますように目を閉じた。

「精霊たちが、ざわついてます。いえ……何かに怯えている?」


その言葉に、食堂のざわめきが一瞬で消えた。僕も息を詰め、窓の外を見据える。


二人とも、今朝は珍しく真面目な顔だ。


嫌な予感が頭をよぎる。

ポンタを魔獣に変えた瘴気が、まだ森に漂っているのかもしれない。



ほどなくして、張りつめた空気を押し分けるように、エルフェリアが食堂へ入ってきた。

昨夜の宴で見せていた穏やかな笑みは、もうない。


テーブルを囲んだ僕らへ、エルフェリアは声を落として告げた。

「北の森の結界に、綻びが出ました。例の瘴気――あれの根が、まだ残っています」


思わず聞き返した。

「瘴気に、根が?」


エルフェリアは小さくうなずいた。

「ええ。瘴気が自然に湧くことはありません。必ず、発生源があります」


彼女は窓の向こうの暗い森へ視線を移した。

「呪われた淵、封じられた祭壇、忘れられた魔道具……。

北の森には、そのどれかが眠っているのでしょう」


女将さんは、おかわりのスープを置く手を止めた。

「でも北の森は、子供たちが木の実を拾う場所だよ。魔物なんか出たら……」


誰も、その先を聞きたくなかった。


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