↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
"ごあん"で始まる冒険者生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/68

第22話 銀猫さん、始まりの村へ帰還する


いつもの透明な板――ステータス画面が開く。


 【初依頼を完了:達成度一〇〇%】

 【イベント達成】

  冒険者となり、パーティーで初依頼を完了しました。

  (魔力草の採取/牙鼠の痕跡確認/小規模な穢れの浄化)

 【報酬】

  銀霜猫王ギン:神獣位階が上昇しました。

  新規権能候補:浄化の猫パンチ・改。

  備考:本人の機嫌と干し肉の品質により、発動率が変動します。

 【連動報酬】

  銀霜猫王の下僕一:若返り耐性を確認。肉体年齢をさらに十歳若返らせました。

  現在の肉体年齢:四十一歳相当。

  なお、外見の美形補正は今回もありません。


今回、下僕の連動報酬は、な、なんと十歳の若返り!

現代人なら泣いて喜ぶ奇跡だ。

けれど、この世界では驚きの基準がとうに壊れていた。

だから今回は、素直に喜ぶことにした。


指先から背筋へ、青い光とともにに温かいものが流れ込む。

関節が軽い。息も深く入る。

四十一歳相当。無双には遠い。

それでも、明日も歩けると思えるだけで十分だった。


「今、光りましたよね?」リーネが目を丸くする。


「タロウさん……なんか若くなってません?」カイが僕を見る。


「うん。前回に続いて、さらに十歳だって」


グレイルは低くうなった。

「初依頼で若返りか。……それ、普通にうらやましいな」 


神獣は位階を上げ、僕は十歳若返る。

順調すぎて、逆に怖い。 

ギンは満足げに干し肉を飲み込み、尻尾をひと振りした。


――おんちょう。


その一言で、肩の力が抜けた。

初仕事は派手ではなかった。

採って、記録して、逃げ道を選び、全員で帰る。それだけだ。

けれど失敗しなかったことが、今は少し誇らしい。


手には初報酬。隣には偉そうな銀猫。明日へ進める体。

たぶん体重も二十キロは減っている。白髪も減った。悪くない。

ただ、せっかくなら、少しくらいイケメン報酬も付けてほしかった。


ギルドを出ると、夕暮れの町がいつもより少し眩しく見えた。

報酬袋の重みを確かめたとき、ふと胸の奥に、あの村へ続く土の道が浮かんだ。


「いったん、始まりの村へ帰ろうと思う」


僕がそう言うと、隣を歩いていたカイが片眉を上げた。

「始まりの村って、あのエルフの美女村長さんがいるところか?」

「エルフェリアさんのことなら、そうだよ」


その名前を聞いた途端、リーネの目がぱっと輝いた。

「大魔女エルフェリア様ですか! お会いしてみたいです!」


カイも妙に機嫌よく頷く。

「いいねえ。旅の疲れが一気に取れそうだ」


どうやらエルフェリアは、僕が思っていた以上に有名人らしい。

村のみんなに初依頼の報告もしたい。

新しい仲間を連れて帰るにはちょうどよかった。


翌日の昼過ぎ、僕らは始まりの村へ続く土の道を歩いていた。

石畳が途切れると、足元から土と草の匂いが立ちのぼる。

見慣れた村の入り口が近づくころ、誰よりも先に小さな影がこちらへ飛び出してきた。


「戻ったか、ご主人」


元の姿に戻ったポンタは、相変わらずふてぶてしい顔で僕を見上げていた。

その後ろから、エルフェリアがゆっくり現れる。

僕の顔を見るなり、二人はそろって首を傾げた。


「……少し若くなったか?」


「少しどころじゃない。十歳だよ」


エルフェリアは穏やかに微笑んだ。

「まあ。では、冒険者としての初仕事は上々だったのですね」


いや、そこにつなげるのか。まあ、上々ではあったけど。

僕は苦笑しながら、カイとリーネを紹介した。

だがリーネの視線は、すでにポンタに釘づけだった。


「あの、少しだけ……ほんの少しだけ、モフらせてもらえませんか?」


ポンタは逃げた。だが、失敗した。

結局リーネに抱きしめられ、不満そうな声だけがもふもふの中から漏れる。


一方のカイは、エルフェリアの年齢を聞いた瞬間、目の輝きを失った。

「……長命種って、すげえな。俺、今日はちゃんと敬語でいく」


騒ぎを聞きつけた宿屋の女将さんが、豪快に笑いながら顔を出した。

その夜、始まりの村では僕らの帰還とポンタの回復を祝う宴会が開かれた。

焚き火の周りに料理が並び、子どもたちはポンタの尻尾を追い、大人たちは銀猫様の浄化の儀式まで酒の肴にした。

笑い声は火の粉と一緒に、星の見えはじめた空へほどけていく。


始まりの村が、こうしてまた迎えてくれる。

果実酒の杯を受け取り、僕は小さく息をついた。

夜風が頬を撫でる。

明日へ続く道は、まだ闇の向こうだ。

けれど火のそばには仲間がいて、笑い声があり、帰ってこられる始まりの村がある。


冒険はまだ始まったばかりだ。

明日からも迷い、転び、思いがけないものに出会うのだろう。

怖さはある。けれど、その先を見てみたいと思える自分もいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。