第22話 銀猫さん、始まりの村へ帰還する
いつもの透明な板――ステータス画面が開く。
【初依頼を完了:達成度一〇〇%】
【イベント達成】
冒険者となり、パーティーで初依頼を完了しました。
(魔力草の採取/牙鼠の痕跡確認/小規模な穢れの浄化)
【報酬】
銀霜猫王ギン:神獣位階が上昇しました。
新規権能候補:浄化の猫パンチ・改。
備考:本人の機嫌と干し肉の品質により、発動率が変動します。
【連動報酬】
銀霜猫王の下僕一:若返り耐性を確認。肉体年齢をさらに十歳若返らせました。
現在の肉体年齢:四十一歳相当。
なお、外見の美形補正は今回もありません。
今回、下僕の連動報酬は、な、なんと十歳の若返り!
現代人なら泣いて喜ぶ奇跡だ。
けれど、この世界では驚きの基準がとうに壊れていた。
だから今回は、素直に喜ぶことにした。
指先から背筋へ、青い光とともにに温かいものが流れ込む。
関節が軽い。息も深く入る。
四十一歳相当。無双には遠い。
それでも、明日も歩けると思えるだけで十分だった。
「今、光りましたよね?」リーネが目を丸くする。
「タロウさん……なんか若くなってません?」カイが僕を見る。
「うん。前回に続いて、さらに十歳だって」
グレイルは低くうなった。
「初依頼で若返りか。……それ、普通にうらやましいな」
神獣は位階を上げ、僕は十歳若返る。
順調すぎて、逆に怖い。
ギンは満足げに干し肉を飲み込み、尻尾をひと振りした。
――おんちょう。
その一言で、肩の力が抜けた。
初仕事は派手ではなかった。
採って、記録して、逃げ道を選び、全員で帰る。それだけだ。
けれど失敗しなかったことが、今は少し誇らしい。
手には初報酬。隣には偉そうな銀猫。明日へ進める体。
たぶん体重も二十キロは減っている。白髪も減った。悪くない。
ただ、せっかくなら、少しくらいイケメン報酬も付けてほしかった。
ギルドを出ると、夕暮れの町がいつもより少し眩しく見えた。
報酬袋の重みを確かめたとき、ふと胸の奥に、あの村へ続く土の道が浮かんだ。
「いったん、始まりの村へ帰ろうと思う」
僕がそう言うと、隣を歩いていたカイが片眉を上げた。
「始まりの村って、あのエルフの美女村長さんがいるところか?」
「エルフェリアさんのことなら、そうだよ」
その名前を聞いた途端、リーネの目がぱっと輝いた。
「大魔女エルフェリア様ですか! お会いしてみたいです!」
カイも妙に機嫌よく頷く。
「いいねえ。旅の疲れが一気に取れそうだ」
どうやらエルフェリアは、僕が思っていた以上に有名人らしい。
村のみんなに初依頼の報告もしたい。
新しい仲間を連れて帰るにはちょうどよかった。
翌日の昼過ぎ、僕らは始まりの村へ続く土の道を歩いていた。
石畳が途切れると、足元から土と草の匂いが立ちのぼる。
見慣れた村の入り口が近づくころ、誰よりも先に小さな影がこちらへ飛び出してきた。
「戻ったか、ご主人」
元の姿に戻ったポンタは、相変わらずふてぶてしい顔で僕を見上げていた。
その後ろから、エルフェリアがゆっくり現れる。
僕の顔を見るなり、二人はそろって首を傾げた。
「……少し若くなったか?」
「少しどころじゃない。十歳だよ」
エルフェリアは穏やかに微笑んだ。
「まあ。では、冒険者としての初仕事は上々だったのですね」
いや、そこにつなげるのか。まあ、上々ではあったけど。
僕は苦笑しながら、カイとリーネを紹介した。
だがリーネの視線は、すでにポンタに釘づけだった。
「あの、少しだけ……ほんの少しだけ、モフらせてもらえませんか?」
ポンタは逃げた。だが、失敗した。
結局リーネに抱きしめられ、不満そうな声だけがもふもふの中から漏れる。
一方のカイは、エルフェリアの年齢を聞いた瞬間、目の輝きを失った。
「……長命種って、すげえな。俺、今日はちゃんと敬語でいく」
騒ぎを聞きつけた宿屋の女将さんが、豪快に笑いながら顔を出した。
その夜、始まりの村では僕らの帰還とポンタの回復を祝う宴会が開かれた。
焚き火の周りに料理が並び、子どもたちはポンタの尻尾を追い、大人たちは銀猫様の浄化の儀式まで酒の肴にした。
笑い声は火の粉と一緒に、星の見えはじめた空へほどけていく。
始まりの村が、こうしてまた迎えてくれる。
果実酒の杯を受け取り、僕は小さく息をついた。
夜風が頬を撫でる。
明日へ続く道は、まだ闇の向こうだ。
けれど火のそばには仲間がいて、笑い声があり、帰ってこられる始まりの村がある。
冒険はまだ始まったばかりだ。
明日からも迷い、転び、思いがけないものに出会うのだろう。
怖さはある。けれど、その先を見てみたいと思える自分もいた。




