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僕が死んだ夜、猫は「ごあん」と鳴いた ~銀色の相棒と異世界を歩く~  作者: 浮島太郎
"ごあん"で始まる冒険者生活

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第19話 銀猫さん、面接官になる

冒険者登録を終えた僕は、ギルドの玄関脇で革袋をつまんでいた。

軽い。ものすごく軽い。


身分証明書は手に入った。

けれど証明書は鍋に入れてもスープにならないし、

宿屋に差し出してもたぶん困った顔をされるだけだ。


しかも、こちらには大食いの神獣がいる。

ギンは神々しい顔で腹を鳴らし、

ポンタはエルフェリアのところで療養中。

可愛いだけで生きていけるなら苦労はない。

ギンとポンタはなんとかいけそうだが、僕は無理だ。


結論。働こう。報酬を得て、食料を買って、宿代を払う。

明日も胸を張って生きていくためにも、まずは金である。

異世界でも、そこは容赦ない現実だった。


冒険者になったからには、仕事の仕組みを知らないと始まらない。

どんな依頼があるのか。失敗したらどうなるのか。

うっかり禁則事項を踏んで、出禁になったら目も当てられない。


僕は受付に戻り、必要なことを片っ端から確認した。

受付嬢によると、依頼は大きく、討伐、調査、採取の三種類。

野営地、採取品の扱いまで一気に叩き込んできた。

準備して、見て、逃げどころを間違えないこと。

思っていたよりずっと地味で、そして大事だった。


危ないほど報酬は高い。

駆け出しは背伸びせず、信用を積む。

実に堅実。実に正しい。

財布が軽い時ほど高報酬の札が輝いて見えるので、なおさら危険である。


「お前さん一人で動くのは勧めん」

レノル支部長のグレイルは渋い顔で腕を組んだ。


「銀猫殿の力は規格外だ。戦闘力も、浄化の力もな。だが、力があることと、安全に冒険することは別だ」


現状の戦力を整理すると、ギンは前衛兼切り札。

僕は荷物持ち兼通訳兼たぶん常識係。

ポンタは癒やし枠、ただし現在は要保護対象。


そこへ最低限、斥候と魔法使いが欲しいらしい。

いきなり討伐ではなく、まずは調査と採取。

うん、命は一つしかない。


「ちょうどいいのが二人いる」

グレイルはそう言って、事務机の上から二枚の登録票を取り出した。


「一人は足が良く、目が利くシーフ。もう一人は火と風を扱える新米魔法使いだ。銀猫殿と組むとなれば誰でもいいわけじゃない。腕だけでなく、逃げる判断と、人の話を聞く耳が要る」


そうして僕たちは、ギルド二階の会議室を借りることになった。

長机一つ、椅子六脚、窓際の古い観葉植物。地味な面接会場だ。


だが銀色の巨大猫が机の横にどっしり座った瞬間、

ただの部屋は一気に「逃げたら負け」みたいな空気になった。


最初の相手は、音もなく現れた。

扉の前に立っているのに、廊下から足音は一つもなかった。

姿を見せたのは、レンジャーのカイ。

栗色の髪に薄い革鎧、背中には小ぶりの弓。


人懐っこく笑っているのに、目だけは部屋の隅まで仕事中だった。

軽口と索敵が同時進行。器用すぎないか、この人。


カイの視線が、グレイルから僕、そしてギンへ流れた。

一瞬だけ目を丸くして、すぐに笑みに戻る。

驚きは短い。観察は早い。なるほど、本職だ。


次の瞬間、ギンとカイは部屋の片隅で向かい合っていた。

巨大猫と斥候青年の、無言の品定めである。

僕には何を比べているのか分からない。


ギンの耳がぴくりと動いた。しっぽの先が、床をとん、と叩く。

それから、少しだけ得意げに目を細めた。


――よい、め。


「ギンが観察眼を評価しています」


「いやあ、銀猫様、見る目あるねぇ」

口は軽い。だが、目はまったく遊んでいない。

「俺、見つけるのは得意だけど、ここまで見られるのは久しぶりだ。目線がもう、弓矢より刺さる」

ギンの耳、尾、爪先、呼吸の間まで、冗談の裏でしっかり拾っている。


ギンが満足げに尾を一度だけ振る。

カイは胸に手を当て、大げさに一礼した。

「お、尻尾で合格通知? 銀猫様、なかなか粋な面接官だ」


「正式な合否は、もう一人を見てからだ」グレイルがすかさず釘を刺す。


「はいはい、仮採用ってことで。じゃ、俺は次の面接の見学兼、逃走経路確認係をやっとくよ」


カイが壁際に下がると、会議室の空気が少し落ち着いた。


グレイルは二枚目の登録票を指で弾き、扉へ目を向ける。

次は魔法使いだ。



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