第二章:魔王軍の実態調査
翌朝から、私は調査を始めた。
まず城内の全スタッフを把握する。
「ちょっとすみません。お名前と担当業務を教えてもらえますか」
廊下で出会ったオーク族の戦士が、困惑した顔をした。「グルタと申します。城の警備を……」
「ありがとうございます。月給はいくらですか」
「つき、きゅう……?」
「お給料です。毎月いくらもらっていますか」
「もらったことは……ないです。飯は食えます」
私はメモ帳に書いた。「飯代として食費を計上。現物給与」
次に会ったのは、魔法使いのゾルだった。
「給料はありません。代わりに魔法の材料を城から自由に使えます」
「材料費を計上。現物支給」
炊事担当のゴブリンたち。「食材は近くの村から……」
「購入ですか?」
「もらって、います」
「略奪ですか?」
ゴブリンたちが目を泳がせた。
「領収書はありますか」
「り……何ですか」
一日で、城内の状況はおおよそ把握できた。
問題点は三つ。
一、収入源が略奪のみで不安定かつ持続不可能。
二、支出の把握が皆無で、どこにいくら使っているか誰も知らない。
三、スタッフへの適切な報酬制度がなく、モチベーションが低い。
夜、私は魔王に報告した。
「結論から申し上げます。このままでは魔王軍は半年で自壊します」
「……そんなに悪いか」
「はい。ただし、改善できます」
魔王が低い声で言った。「どうする」
「まず、略奪を減らします」
「何?」
「代わりに、まともな収入源を作ります」
魔王が長い沈黙の後に言った。「……続けろ」
◆
翌朝、私は城内を歩き回りながら、改善策を考えていた。
略奪をやめる。では何で稼ぐか。
この城には何があるか。
広大な土地。強力な魔物たち。そして——人間が恐れる「魔王の城」というブランド。
「……ブランド?」
私は立ち止まった。
魔王の城は、人間にとって恐怖の象徴だ。しかし恐怖は、使い方によっては資産になる。
人間は怖いものを見たがる。
それは前の世界でも同じだった。ホラー映画が売れる。お化け屋敷に人が集まる。危険な場所への観光客が絶えない。
「観光業」
私はメモ帳に書いた。
魔王の城への観光ツアー。入場料を取る。魔物たちに案内役を務めてもらう。怖くて格好いい体験を売る。
問題は——魔物たちが協力してくれるかどうかだ。
「グルタさん」私は廊下で警備をしていたオーク族の戦士に声をかけた。「少し聞いてもいいですか」
「は、はい」
「人間が来たとき、怖そうに威嚇することはできますか」
グルタが首をかしげた。「……それは、普通にやっています」
「格好よく、ですか?」
「……格好よく?」
「怖いけど格好いい。そういう威嚇です」
グルタはしばらく考えた。それから、胸を張って低い声で唸った。
「グオオオ……」
迫力があった。正直、少し怖かった。
「完璧です」私はメモ帳に書いた。「観光案内役、グルタさんで決まりです」
グルタが、ぽかんとした顔をした。




