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異相の理  作者: 赤鰯 はこぼれ
第四章 微睡の淵
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第一話 呪いと祟り

「また心霊番組見てるんですか?」


 紅茶の入ったマグカップを御子神さんに手渡しながら、テレビに映る胡散臭いテロップを眺める。

『入った者は呪われると言われる曰く付き物件』――等と書いてあるが、どうせやらせの類だろう。そんな番組を視聴する特異案件捜査課の刑事というのは、何とも可笑しな構図だ。


「案外、こういうところに事件が転がってたりするんだって」

「殆どやらせですよね」

「まあね。でも、稀に本物が混じってたりするんだよ。本当に“曰く付きの場所”なら、尚更。ちなみに、今やってるのは完全にやらせ」

「やっぱりやらせじゃないですか」


 俺はダイニングテーブルの椅子に腰を下ろす。

 俳優も大変である。視聴者に向けて、いい塩梅で恐怖演出をしなきゃいけないのだから。


「ここで問題です」

「……いきなりなんですか」

「呪いと祟りの違いはなんでしょうか」


 マグカップをテーブルに置くと、御子神さんはごろりとソファに寝転がった。

 御子神さんが俺の家に居る状況にはすっかり慣れたが、それにしたって相変わらず寛ぎすぎだ。この人の頭には、遠慮という言葉がないらしい。

 そんなことを考えていると、早く答えろと言わんばかりの冷ややかな視線を送られた。


「呪いと祟りの違い、ですか……。呪いの方は規模が小さくて、祟りの方は規模が大きい――とか?」

「不正解。正解できなかった栗花落君は、スクワット百回」

「いや、やりませんから」

「もー、ノリが悪いんだから」


 けたけたと笑いながら、御子神さんは俺に視線を向けた。


「呪いと祟りっていうのは、似たような扱いを受けがちだけど、根本的なカテゴリが違うんだよ。呪いは“仕掛けるもの”で、祟りは“起こってしまうもの”」

「……つ、つまり?」

「この前の事件を例に出すと、久我昭子は明確な意志をもって被害者を恨んで呪い殺した――呪いを“仕掛けた”わけだね。祟りっていうのは、“何かの反動で起こってしまう“災厄。呪いは指向性で、祟りは無指向性。だから、この番組は、”入った者は呪われる”って言っているけど、正しくは”祟られる”」

「……てっきり同じ意味合いの言葉かと思ってました」

「仕事柄、覚えておいた方がいいよ。呪いか、祟りかによって対応も変わってくるし」


 こうして偶に仕事に役立つ話をして頂けるのは、大変有り難い。

 お陰でここ最近は、俺が矢面に立って対応することも増えてきた。

 性格は少々――いや、結構難ありだが、それでも仕事の上では、彼は非常に頼りになる先輩である。それは、悔しいが認めざるを得ない。


「祟りによる事件って、どんなものがあるんですか?」

「うーん、色々あるけど……例えば、竹杉区の案山子事件って知ってる?」


 俺は静かに頷く。

 案山子事件――穂坂に居た頃、橋部さんから聞かされた特異案件捜査課絡みの事件だ。


「あれなんかは典型的な祟りだね。あそこの地蔵は、鎌倉時代末期に作られたものらしくってさ。長い月日を経て、土地神のような怪異が宿ったわけなんだけど――そこで偶然、交通事故が起きた。怪異の宿った地蔵は壊され、その反動は地元住民に厄災として降りかかってしまったわけだ」

「……だから、地蔵を直すように特案が指示を出したんですね」

「そういうこと。この件はそこまで被害が出なかったけど、ケースによっては大惨事になりかねない。それこそ、村一つが消えるなんて話は、大昔には結構あったらしいよ」

「……呪いより怖いですね」

「厄災だからね。ま、昔に比べて危険性が分かっている場所については、”禁足地”なんて呼ばれて立ち入りが禁止されていることが多いから、祟りが絡む事件自体は激減してるけど」


 ――禁足地。

 日本各地にそういった場所があるのは知っているが、怪異由来の場所もあるのか……。


「ところで、栗花落君」


 御子神さんがにやりと笑ってみせる。こういう時、碌な話を振られたためしがない。

 俺は反射的に顔を顰めた。


「何ですか」

「“例の話”、どうする? その気があるなら紹介するけど」

「例の話……?」

「ほら、セフレ紹介するって話」


 思わず手に持っていたカップを落としそうになった。


「……本当に間に合ってるんで、大丈夫です」

「そう?」


 けろりとした顔で「残念だなぁ」なんて言うもんだから、この人には貞操観念というものがないらしい。

 俺が夕奈と破局してから、事ある毎にこういう話題を出されるようになった。御子神さんなりの気遣いなんだろうけど、明らかに気遣いのベクトルが間違っている。


「栗花落君は恋愛下手だから、手頃なところで勉強した方がいいと思うよ」

「御子神さんはもう少し真っ当に生きた方がいいと思います」

「こんなに真面目に生きてるのに? これ以上は無理だなぁ」


 ああ言えばこう言う。

 御子神さんに何を言っても無駄である。一緒に生活してみて、それは今まで以上に身に染みていた。


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