閑話 水底
夢とは、記憶という情報の処理活動と考えられているらしい。
過去の記憶等の情報がランダムに結びついて物語化され、睡眠中に現れる。
とどのつまり、脳が見せる幻覚である。
どんなにリアルであろうとも、それは現実ではない――筈だ。
今日も僕は、悪夢に魘されて目を覚ました。
季節はもう冬になろうとしているのに、体はびっしょりと汗で濡れている。
視線だけを動かして、自分が自室のベッドで横になっているのだと確認したところで、僕は漸く安堵の息を吐いた。
悪夢を見るのは、今日で五回目だ。
最初は何の変哲もない夢だった。
南山区にある澱河山に、友人らと登山に訪れる夢。
夢にまで見るとは、あの出来事は余程印象に残っていたんだろう。そんなことを思いながら、目を覚ましたのはつい先週の話。
この夢が“悪夢”に変わったのは、それから二日後のことだった。
一回目。
再び澱河山を訪れる夢を見た。
友人たちとくだらない話をしながら、川を横目に舗装された林道を上がり、登山道に入る。
道は険しくはないのだが、泥濘が多い。足を取られながらも、僕たちは山頂を目指して歩みを進めた。
暫く進むと、眼前に沢が現れる。
そこには古びた木製の橋が架かっており、本来はその橋を渡って進む。しかし、前を歩く友人二人は、何故か水辺へと歩みを進めた。
道を間違えているぞ、と声を掛けても僕の声など聞こえていないのか、彼らは沢へと入って行く。
「おい、何やってんだよ。淳、飛鳥!」
慌てて二人を追いかけて、僕も沢へと足を踏み入れた。
どぷん――。
踏み出した足は、けれど水底を捉えることなく、僕の体は勢いよく水に沈んでいく。
それに気が付いた時には水面は遥か頭上。手足を動かしたところで、最早意味をなさない。
呼吸ができない苦しさと、冷たい水の感触に、僕は恐怖のあまり目を覚ました。
――それ以来、僕は同じ夢を見続けている。
二度あることは三度ある、なんてよく言うけれど、五度も同じ夢を見るのはあり得るのだろうか。
見る度に、夢が現実に傾き始めているようで、まともに眠れた気がしない。
今日もそうだ。
目を覚ましても、まるで肺に水が溜まっているかのように、息苦しい。
「…………」
額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら、ゆっくりと体を起こす。
壁に掛けられた鏡に映る自分の姿は酷く窶れており、目の下の隈はより一層濃くなっていた。
たかが夢。
そう、たかが夢なのだ。
現実ではない。だから、きっと大丈夫。
――“僕は祟られてなんかいない。”




