表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異相の理  作者: 赤鰯 はこぼれ
第四章 微睡の淵
52/54

閑話 水底

 夢とは、記憶という情報の処理活動と考えられているらしい。

 過去の記憶等の情報がランダムに結びついて物語化され、睡眠中に現れる。


 とどのつまり、脳が見せる幻覚である。

 どんなにリアルであろうとも、それは現実ではない――筈だ。


 今日も僕は、悪夢に魘されて目を覚ました。

 季節はもう冬になろうとしているのに、体はびっしょりと汗で濡れている。

 視線だけを動かして、自分が自室のベッドで横になっているのだと確認したところで、僕は漸く安堵の息を吐いた。


 悪夢を見るのは、今日で五回目だ。

 最初は何の変哲もない夢だった。

 南山(なんざん)区にある澱河山(おりかわやま)に、友人らと登山に訪れる夢。

 夢にまで見るとは、あの出来事は余程印象に残っていたんだろう。そんなことを思いながら、目を覚ましたのはつい先週の話。

 この夢が“悪夢”に変わったのは、それから二日後のことだった。


 一回目。

 再び澱河山を訪れる夢を見た。

 友人たちとくだらない話をしながら、川を横目に舗装された林道を上がり、登山道に入る。

 道は険しくはないのだが、泥濘(ぬかるみ)が多い。足を取られながらも、僕たちは山頂を目指して歩みを進めた。


 暫く進むと、眼前に沢が現れる。

 そこには古びた木製の橋が架かっており、本来はその橋を渡って進む。しかし、前を歩く友人二人は、何故か水辺へと歩みを進めた。

 道を間違えているぞ、と声を掛けても僕の声など聞こえていないのか、彼らは沢へと入って行く。


「おい、何やってんだよ。(じゅん)飛鳥(あすか)!」


 慌てて二人を追いかけて、僕も沢へと足を踏み入れた。


 どぷん――。


 踏み出した足は、けれど水底を捉えることなく、僕の体は勢いよく水に沈んでいく。

 それに気が付いた時には水面は遥か頭上。手足を動かしたところで、最早意味をなさない。

 呼吸ができない苦しさと、冷たい水の感触に、僕は恐怖のあまり目を覚ました。


 ――それ以来、僕は同じ夢を見続けている。

 二度あることは三度ある、なんてよく言うけれど、五度も同じ夢を見るのはあり得るのだろうか。

 見る度に、夢が現実に傾き始めているようで、まともに眠れた気がしない。


 今日もそうだ。

 目を覚ましても、まるで肺に水が溜まっているかのように、息苦しい。


「…………」


 額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら、ゆっくりと体を起こす。

 壁に掛けられた鏡に映る自分の姿は酷く窶れており、目の下の隈はより一層濃くなっていた。


 たかが夢。

 そう、たかが夢なのだ。

 現実ではない。だから、きっと大丈夫。


 ――“僕は祟られてなんかいない。”


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ