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異相の理  作者: 赤鰯 はこぼれ
第三章 わが身ひとつの 心にも
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第五話 二人の証言

 私たちの馴れ初めは、学生時代に遡ります。

 出会いは小学生の頃でしょうか。

 幼い頃から、私と彼の想いは一つだったのでしょう。だから、こうして夫婦として今も互いに愛し合えているのです。

 羨ましいですか?

 ええ、ええ。そうでしょう。

 自分で言うのは憚られますが、私は、誰よりも幸せだと思っております。


 ――だから、でしょうか。

 時々、私に羨望を向ける方々がいらっしゃるのです。

 いいえ、羨望ではなく――妬み、という言葉の方がしっくりきます。


 彼女たちは、その妬みから私たちの関係を壊そうとしたのでしょうね。

 本当に、頭の悪い人たちです。

 その程度で、私と彼の関係が終わる筈がないのに。


 彼女は英二に取り入り、体の関係を求めたそうです。

 英二は、どこまでも優しい人ですから、断れなかったのでしょう……。


 悪いのは、彼を誘惑した彼女です。

 私は知り合いの弁護士を通じて、彼女たちが二度と英二に近付かないように、と誓約させました。


 私がしたことは、それだけです。

 え? この日に何をしていたか、ですか?


 ええっと、この日は友人と一緒にショッピングをしていました。その日のレシートも持っていますよ。

 ふふ、刑事さんも大変ですね。

 死んだ人が悪人でも、捜査しないといけないなんて。




 ***




 だから、ずっと言ってるじゃないですか。

 確かに不倫はしてましたけど、昭子にバレてからは会ったりしてないですって。

 大体、なんで俺が不倫相手を殺さなきゃいけないんですか。

 それこそ、バレなきゃ続けてましたよ。自分で言うのもアレですけど、良好な関係だったんで。


 ……相手も既婚者だったかって?


 そんなのどうだっていいでしょ。

 相手の旦那が甲斐性なしだっただけでしょ。それを俺の所為にされるなんて、お門違いってやつですよ。

 大体、言い寄って来たのはあいつの方なんですから、俺はある意味被害者ですわ。


 とにかく、俺はその日はあいつに会ってないです。なんなら職場の方にも確認取ってもらってもいいんで。




 ***




 久我夫婦からの聴取資料を眺めながら、俺は頭を抱える。

 雨堂橋で起きた刺殺事件――遺体の状況からも、猟奇的殺人の線が濃厚という話も出ている嫌な事件だ。

 被害者との接点のあった人物を虱潰(しらみつぶ)しに捜査しているが、揃いも揃って強固なアリバイで固められている。この久我夫婦というのも、遺体の死亡推定時刻にはそれぞれ明確なアリバイがあった。


 正直、手詰まりである。


 こんな時に限って、頼れる真田さんは先月のミイラ化事件の一件で、厳重注意を食らって小案件に回されてしまっているし。全く、そんなんだから奥さんと娘さんに詰められるんだぞ、と言ってやりたいくらいである。


 でもまあ、真田さんが特案に掛け合ってくれていなかったら、事件はまだ続いていたかもしれない。

 そう思うと、あの人の判断は正しかったのだろう。

 なんて、考えていると食堂から戻って来た真田さんの姿が目に入った。


「しけた面してんなぁ、植木」

「どっかの警部さんが厳重注意食らった所為ですかねぇ。困っちゃいますよね、ホント」

「そりゃ俺じゃなくて上に言えよな」


 真田さんは鼻で笑いながら、隣の席に腰掛ける。


「で、例の殺人事件の状況はどうよ」

「どうも何も、手掛かりなしです。関係者は全員アリバイがありますし、通り魔という話も出てきてますね」

「また大層な事件ですこと」

「正直、刑事課の方では二進(にっち)三進(さっち)も……。上に掛け合って正式に特案にも依頼を出しました」


「正式に」というくだりで、真田さんの眉間に皺が寄ったのを俺は見逃さない。


「……まあ、使えるものは使え。俺たちの目的は事件の解決だからな」

「ですね。真田さんの方はどうなんです? 課長が小案件に回す! って大騒ぎしてましたけど」

「ボチボチだな。小案件って言っても、何だかんだそれなりの事件が多い。最終的に特案案件になりそうだが……」

「ええ? 特案案件多くないですか?」


 特案に回される事件は少ないというわけではないが、それでも月に二、三件程度が常だ。だというのに、俺の知る限り、十月に入ったばかりだというのに既に五件である。このままいけば十件は超えるのではなかろうか。


「あちらの課長も随分いろんな課に引っ張りだこらしい」

「そうなんですか……。御子神さんには悪い事したかな」

「いいんだよ、あいつは。自分から喜んで飛び込んで行くタイプなんだから」

「確かに……。栗花落君、可哀想だなー」


 御子神さんの下に就いた新人君。真面目そうだったし、御子神さんに振り回されてなきゃいいけれど。


「何せよ、早く片付くといいな」

「ですね。長引かせたくはない事件ですから」


 あんな滅多刺しにされた遺体なんて、もう当分は見たくはない。

 そう思いながら、俺は特案に引き継ぐ資料まとめに取り掛かるのであった。


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