搦め手の戦術
第二戦、フェンリル寮との戦いが始まった。
レンジャーだけでなくドルイドもいるらしく所々に木々を生やし、その陰に隠れて接近を試みている様だ。
「予想通りね。」
「そんじゃ、手はず通りやな。」
パメラとカーティスはそう言うと影に隠れる様に移動する。
カーティスはレンジャーなので分かるがパメラは確か格闘家だったはずなんだが・・・。
とにかく謎の多い人である。
そろそろフェンリル側は中央付近に近づく前に呪文を使用する。
普段は詠唱を省略して使用しているが、効果範囲を広げる為詠唱する必要があった。
「悠久より流れし青き水よ!我が前に出でよ!」
呪文を唱え始めると広範囲に湿地が広がる。
目の前に湿地が出現したことでフェンリル側は足を止める。
更に呪文詠唱を続ける。
「燃えさかる赤き炎よ。我が前で踊れ!」
渦巻く炎が巻き起こり瞬く間に湿地の水を蒸気に替える。
「あいつ何やってるんだ?」
「移動阻害の湿地を蒸発させる?」
「?」
見物客だけでなくフェンリル側も俺の行動は理解できなかったらしい。
だが次の呪文を使うことで状況は一変する。
「凍てつく青の風よ。集まれ。」
周囲から凍てつくような風が集まり蒸発した水を急冷する。
その結果、湿地があった場所に濃い霧が発生、霧は周囲の者の視界を奪う。
「ちっ!これが目的か!」
「待て!迂闊に飛び込むな!」
冷やされた蒸気の一部は水となり浅い湿地を作っている。
ジャブジャブ音を立てながらフェンリル側の一人が進んでくる。
ヒュッ!
音もなく矢が飛んできた矢は障壁を破壊する。
カーティスの狙撃だ。
寮対抗戦では死に至る怪我をしない様に対策が取られている。
あらゆるダメージを防ぐ障壁の護符を使うのだ。
護符は一定量のダメージに耐え、その分を越えると効力を失う。
その時、別の効果を発生させる。
防御効果を失った時、致命傷を負えば死ぬことになる。
それを防ぐために護符の効果を失ったと同時に競技場の外に出される。
これで相手は後4人。
アルゴスと隠れているドルイドを除く二人は浅い湿地に足を入れている。
「大丈夫だ。奴らは霧で俺達の視覚を奪ったつもりだが、霧のおかげで遅延を設置しているエリアが丸見えだ。」
「よし、設置エリアを避けて進むぞ。」
「しかし少し寒いな・・・濡れすぎたか?」
だが俺は既に別の呪文を唱えていた。
「空気の流れが!呪文だ!」
「体が重い!!」
「何だ!足が動かないぞ!」
「寒い!寒い!さ、さむ、い・・・。」
低レベルの冷却呪文しか使えないが、遅延エリアに重ね掛けする。
遅延エリアで発動が遅れていた冷却呪文は遅延が解除されることで呪文が同時に発動しその威力を上げることになる。
湿地に足を入れた二人は凍結され退場になる。
残りはアルゴス・アダマンティンだが奴はストライダー、レンジャーの上級クラスでもある。
そしてアルゴスはそのストライダーのクラスのレベルが高かった。
アルゴスは一足飛びに凍った湿地を駆けてくる。
ストライダー、駆ける者と言われるクラス特有の能力の一つだ。
「パラライズ!」
咄嗟に妨害用の状態異常呪文を唱えるが簡単にレジストされてしまう。
クラスのレベルは関係する技能の最低レベルによって決まる。
それが高いという事は、関係する技能のレベルが全て高いことを示している。
技能レベルは能力値を補正するがレベルが高くなればなるほどその補正値は大きくなる。
補正値が高いという事は呪文に対しての抵抗力も高いという事でもある。
アルゴスには状態異常系の呪文も効果は一瞬しかないだろう。
「悠久より流れし青き水よ!我が前に出でよ!」
こちらの陣地の前に湿地を作る。
が、アルゴスは膝下近くまである水を物ともせずこちらへ向かって来る。
「黄色き天の輝きよ!」
「呪文か・・・だが俺には効かぬ!」
アルゴスはそう言うと飛んでくる呪文を弾き落とした。
バシッ!
弾き落とされた呪文は足元の水を伝わりアルゴスに効果を及ぼす。
「!これは電撃!」
電撃よる麻痺でアルゴスの行動が一瞬止まる。
が、次の瞬間にはゆっくりとだが動き出そうとする。
「わずかな時間の阻害など問題ないわっ!!」
「いや、十分な時間だ!」
大剣を構えたフリッツが叫ぶ。
「メガ・スラッシャァァァァァァア!」
フリッツの超高威力の技が唸る。
必殺技と言うべき技なのだが溜め時間と回避し易いと言った欠点がある。
だが、流石のアルゴスも止まってしまっては回避のしようがなかった。
「くそったれ!」
障壁を砕かれたアルゴスは捨て台詞と共に退場になっていった。
「勝者!ティアマト!」
どうやら隠れているドルイドもアルフレートのグレイハウンドによって倒されたようだ。
「ふぅ。お疲れ。やったな!」
「ああ、だがさっきの黄色の呪文は何だ?」
「黄色?電撃のことか?」
「ライトニング?!いやそう唱えていなかったぞ??」
「詠唱省略だが?」
詠唱省略は呪文を使う時、その速度を上げるために省略する方法だが一般には途中の詠唱を省略する。
俺は最後の発動詠唱を省略したのだ。
「最後を省略って・・・そんなことが出来るのか。」
「あまり使われていないけどね。」
フリッツと呪文の話をしているとカーティスやパメラ、アルフレートが帰って。
俺たちは五人そろって観客席に手を振り競技場を後にしようとする。
競技場から出ようとすると出口にはフレデリカと・・・?
もう一人見覚えのない女の人が立っていた。
「勝利おめでとう!ダーリン!」
ダーリン?誰?
そう言った女の人はカーティスに飛びついた。




