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第五章 勉強開始だ!

陳逸樺(チェン・イーファ)——彼女とまた同じクラスになれているだろうか。


元の世界線での彼女は、最初は理系+文系(第三類組)を選んだものの、馴染めずに後から文系(第一類組)へ転修してきたのだ。


ちょうど僕も文系クラスだったから、幸運にも同じクラスになることができた。


僕は教科書に書かれた $\cos$、$\tan$、$\sin$ といった記号を眺めながら、取り留めのない思考を巡らせていた。


正弦関数(サイン)、余弦関数(コサイン)、正切関数(タンジェント)、それにあの波形のグラフ……一体全体なんの呪文なんだ。


θ(シータ)って何だ? どう読むんだ? 「日」か? 絶対に違うよな……。


ううう……頭が痛い。昔は家庭教師を頼んで教えてもらっていたけれど、今の僕はそんな内容なんてすっかり忘れてしまっている。まだ家庭教師に助けを求められる状況なのだろうか?


「母さん、僕っていま塾とか家庭教師とか行ってたっけ?」


「……???? 行ってないわよ????」僕を見る母さんの怪訝そうな顔を見て、自分が酷く愚かな質問をしてしまったことに気づいた。


「何よ、塾にでも行きたいの?」


「ううん、なんでもない」


……やめよう。明日学校に行ってから考えれば……いや、学校なんて行きたくないな。昔の学校がどんな雰囲気だったかすら思い出せないのだから、必死に記憶を掘り起こさなければならない。


それに、今の僕が精神的な病気を抱えているという事実を、親に伝えるのはあまりにも難しかった。けれど言わなければ、今夜も絶対に眠れないだろう。


『過去に戻ったところで、あなたはうつ病を抱えたまま今日までやり直さなければならないのです』


タイムペッパーショップの店主が言ったあの言葉が、今でも鮮明に耳に残っている。


今の僕は重度のうつ病患者だ。その上、こんな難解な受験勉強にぶち当たれば、さらに鬱が酷くなってしまうに決まっている。


しかもこの時代、精神科(身心科)を受診するには相当な勇気が要る。自分の心身の状態を親に告白しなければならないのだから、一人で勝手に病院へ行くわけにもいかない。


考えれば考えるほど、心が塞ぎ込んでいく。


楽しいことを考えよう。例えば……もし彼女と別のクラスになったらどうしよう……? そうなったら、また疎遠になってしまうんじゃないか……。


目から涙がこぼれ落ちそうになった。どうして僕はタイムペッパーなんて破ってしまったのだろう。店主の言った通りだ。僕はこんな精神状態を抱えたまま、元いた年齢までの二十年間を苦しみながらやり直さなければならないのだ。たった一つの恋のために自分を二十年も苛むなんて、なんて愚かなんだろう。


……けれど、だからこそ、タイムペッパーを破った決断を無駄にするわけにはいかない。これから遭遇するであろう悲惨なルートを可能な限り回避し、自分が望む未来を掴み取るのだ。


僕は部屋を出て、リビングへ新聞を取りに行った。


一面のトップニュースは「NVIDIAが台北市に本社ビルを建設することを決定、現職の馬英九総統と台北市長の陳水扁氏がこれを歓迎」という記事だった。


台湾の株価はすでに三万ポイントを超えている。


どうやらこの世界線は、金融危機(リーマンショック)に見舞われなかった世界のようだ。当時の僕はまだ幼くて、世の中で何が起きているのかさっぱり知らなかったけれど。


「人の道たるや、飽食暖衣し、逸居して教え無ければ、則ち禽獣に近し」——この時代の台湾は、まさに人々にとってのパラダイスなのだろう。


とにかく、人々が幸せに暮らせているのならそれでいい。もっとも、それは僕が思い悩むべき問題ではないけれど。自分のうつ病すら治せないのに、ましてや将来「卒業即失業」という困窮に直面することになるのだから。


こんな豊かで恵まれた社会の中で「自分はうつ病だ」なんて言ったら、「贅沢病だ」「勝手に病気だと思い込んでいるだけだ」と失笑されてしまうかもしれない。


けれど、僕は言わなければならないのだ。


「父さん、僕を病院へ乗せていってくれないかな?」僕はビクビクしながら口を開いた。


「どうした? アレルギーか? それとも風邪でもひいたか?」


「ううん、違うんだ……うつ病なんだ」


「うつ病? お前がうつ病だって? 今までそんな話一度も聞いたことないぞ」


「本当なんだ。学校でもカウンセラーの先生からカウンセリングを受けてるんだよ。嘘だと思うなら学校に電話して聞いてみてよ」


その時、僕はハッと思い出した。そういえば高校時代の僕は、確かにスクールカウンセラーの先生から心理カウンセリングを受けていたのだ。ただ、あの頃の記憶があまりにも苦しすぎたため、思い出したくなくて心の奥底に封印していただけだったのだ。


当時の僕は、フード付きのパーカーを着るのが大好きだった。フードを深く被っていれば、自分のすべての感情や孤独、不愉快さをフードの中に閉じ込めて隠すことができたからだ。けれどある授業の時、先生から「礼儀に反するからフードを脱ぎなさい」と注意された。僕は死んでも脱ぎたくなくて、狸寝入りをしてやり過ごそうとした。すると一人のクラスメイトが強引に僕のフードを引っ張り下ろしたのだ。


フードを剥ぎ取られた瞬間、僕の中に溜め込まれていた感情が一気に弾け飛び、僕はそのまま教室を飛び出した。先生はすぐに追手を差し向けた。僕は校舎の3階から飛び降りてしまいたい衝動に駆られたけれど、痛いのが怖い僕は渡り廊下の手すりに登ったところで足がすくんで止まってしまった。そして、誰も僕を見つけられないと思うような場所へ逃げ込んだのだ。


あいにく足が遅かったため、一部始終を追ってきたクラスメイトに目撃され、授業担当の先生に報告されてしまった。


それ以来、毎週水曜日の午後の最初の授業である「数学」に出席する必要はなくなった。代わりに相談室(輔導室)へ向かい、歴史の先生から心理カウンセリングを受けることになったのだ。正直に言えば、数学の授業を受けずに済むのは嬉しかったけれど、カウンセリング自体が僕の根深い問題を解決してくれるわけではなかったので、なんとも複雑な気持ちだった。


「そうだったのか……よし、じゃあ病院へ連れて行ってやる。ただ、この近所に身心科(精神科)があるかどうか分からないな」


「僕も分からないや……」この頃の新竹に、もう馬偕記念病院(マカイ病院)はあっただろうか? 馬偕に精神科はあるだろうか? 家のネット回線はまだダイヤルアップ接続のはずだから、あの低速回線に耐えて検索するのは気が引ける。


「ちょうど先週、うちにブロードバンド回線(光回線)を引いたばかりだから、ネットで調べてごらん」


「……?????」今度は僕が狐につままれたような顔で父さんを見つめ返した。


「何してるんだ、行くなら早く調べなさい。病院が閉まっちゃうぞ」


僕は慌ててネットで検索した。確かにこの時代にも精神科は存在していた。ただ、僕は馬偕病院に行ったことがなかったし、この世界線のランダム性のせいで僕の飲んでいた薬が存在するかどうかも分からなかった。


たとえ処方箋を持っていなくても、長年飲み続けてきた薬の名前なら暗記している。


「馬偕病院にあるみたい。馬偕まで乗せていってくれる?」


「よし、車に乗りなさい」


こうして僕は、これまで足を踏み入れたことのなかった馬偕記念病院の精神科外来へと向かったのだった。


父さんが診察室まで付いてくるのは断った。一刻も早く手短に、すべての問題を一度に解決したかったからだ。


「先生、手短にお話しします。僕は対人恐怖症(社交恐慌症)とうつ病を抱えていて、学校でもカウンセリングを受けています。それと不眠症にも悩まされているので、ラツーダとランドセンの二種類のお薬を処方していただけませんか?」


「君……その二つの薬の名前をどこで知ったんだい?」


まさか「未来で処方されていました」なんて言えるはずもない。そんなことを言えば速攻で精神病棟に隔離されてしまう。それだけは絶対に嫌だ。


「ネットで調べました。僕の症状にはこの二つの薬がすごく効くって書いてあったんです」


「ネットに書いてあることを鵜呑みにしちゃいけないよ。この二つはどちらも厳重に管理されている指定薬(管制用藥)だし、副作用も小さくないんだ。本当によいのかい?」


「はい、確信しています」


「駄目駄目、ちゃんとしたアセスメント(評価)を行わなければ処方できないよ。少し待っていなさい」医師は診察室を出て行き、看護師を呼びに行った。


「面倒くさいなあ……中国医薬大学付属病院の時はこんなに手こずらなかったのに」僕は独り言を呟いた。


僕は再びパーカーのフードを深々と被り、当時の感覚に浸っていた。


「明日もう一度病院に来なさい。ソーシャルワーカー(社工)と心理カウンセラー(心理諮商師)に君のアセスメントを行わせるから」


「はあ……分かりました。じゃあ、今夜用にマイスリー(悠眠)を一錠だけ処方してもらえませんか? 本当に眠れないんです」


「うーむ……分かった、一錠だけ出しておこう」


ソーシャルワーカーのアセスメントなら何の問題もない。けれど心理カウンセラーと対面するのは酷く怖かった。彼の誘導に乗せられて、気づかないうちに自分の秘密をすべて喋らされてしまうのではないかと危惧したからだ。


まあ、この小説自体が僕の自伝的な物語なのだから、すべてを打ち明けてしまっても問題はないのだろうけれど。そうですよね、みなさん?


とにかく父さんに「明日もう一度来なければならなくなった」と告げ、僕たちは帰路についた。


その夜、処方してもらったマイスリー一錠のおかげで、なんとか三時間ほどの睡眠を取ることができた。残りの時間は目を開けたまま天井をぼんやり見つめたり、ベッドの上でゴロゴロと転がり回ったりして過ごした。


翌朝、僕は学校に午前の遅刻(公欠)の連絡を入れ、再び父さんと一緒に馬偕病院へ向かった。


おかしいな、この章のタイトルは『勉強開始だ!』のはずなのに、どうして僕は勉強とまったく関係のないことばかりしているのだろう。本当に頭が痛くなってくる。


まあいい、そんな細かいことはどうでもいいのだ。とにかく見覚えのない馬偕病院に再び足を踏み入れ、精神科外来へと向かった。


しばらく待つと、ソーシャルワーカーが僕を面談室へ呼び出した。今回は診察室ではなく、小さな個室での面談だった。当然、僕一人で中へ入った。


一般的な質問をいくつか投げかけられ、彼はそれを記録すると、僕を退出させた。


僕は元々社会福祉学科(社工系)の出身だから、どのような回答をすれば薬の処方や身心障礙手帳(障害者手帳)の取得に有利になるかを熟知していたのだ。


ウェクスラー成人知能検査(WAIS)とベック抑うつ質問票(BDI)を実施した。


続いて控えているのが、より厄介な心理カウンセリングだ。僕も大学で心理カウンセリングの講義を受けたことがあるけれど、あの講義には常にツッコミどころが満載だった。教授は僕たちに丸暗記を強要し、本質的な理解をさせてくれなかったから、授業の内容なんてほとんど忘れてしまっている。


うっすらと記憶しているのは「六つのアプローチ」があるということくらいだ。けれど、どの手法も「クライエント自身が気づきを得て、自発的にカウンセリングを受け入れること」を前提としており、「もしクライエントがカウンセリングを拒絶した場合はどう対処すべきか」という最も根本的な問題の解決策については一切触れられていなかった。だから僕の中では「役に立たない授業」の一つとして片付けられていたのだ。


なぜなら、かつての僕自身こそが「心理カウンセリングを断固として拒絶するクライエント」だったのだから。


後に僕がカウンセリングを受け入れるようになったのも、ただ兵役を途中退役(停役)するための手続きに過ぎず、自分自身の心身の問題を解決するために受けたことなんて滅多になかった。


小さな部屋のドアを開け、中へ入る。


「こんにちは、施(シー)くん。それとも懷華(フアイホア)って呼んだ方がいいかな?」


「あ……阿華(ア華)って呼んでください」下の名前で呼ばれるのにはどうにも慣れなかった。


「ア華くん、こんにちは。今日はどうしてここへ来たのかな? カルテを見たけれど、医師からの依頼だね。何か僕に話したいことはあるかい?」


「あ……ただ薬が欲しいだけです。他に特に話すようなことはありません」


「ただ薬が欲しいだけかい? 僕は君のお話にすごく興味があるんだ。こんなに若い方がカウンセリングに来られることは滅多にないからね。君のストーリーを聞かせてくれないかな」


「ただのうつ病ですよ。……あ、それと対人恐怖(社交恐慌)もあります」


「クラスメイトとの人間関係はうまくいっているかい?」


この世界線での状況はまだ分からないけれど、元の世界線や前の世界線での僕を見る限り、クラスメイトとうまくやれているようには到底思えなかった。


「きっと……うまくいってないと思います……」


「どんな風にいっていないのかな? 誰かにいじめられたり、ハブられたりしているのかい?」


「いいえ、むしろ僕の側からみんなを遠ざけているんです。僕の成績はどん底だから……そんな自分が他の人と対等にお付き合いできるはずがないと思ってしまって」


「成績が悪いと、周りから見下されるのかい?」


「いいえ、僕自身が自分自身を見下しているだけです。本当の僕はもっと能力があるはずなのに、他人と関わった瞬間にデバフがかかったみたいになっちゃうんです。人と群れるのは嫌いなのに、心のどこかでは友達を強く欲している……まるで矛盾の塊(矛盾集合體)なんです」


「矛盾の塊、か。それはどういう意味かな?」


「言葉や表面上の態度は楽観的に振る舞えるのに、内面はどこまでも悲観的で、未来に絶望しているんです。自分が病気だと分かっているのに病院に行きたがらなかったり、自分は病気なんかじゃないと無理に思い込もうとしたり……」


「なるほどね。けれど今日こうして病院に来られたのは、すごく大きな進歩じゃないか。そのために学校まで公欠して来たんだろう? ア華くん、自分の病気を親に打ち明けて病院に来られただけでも、君は本当に素晴らしいと思うよ」


「あ……ありがとうございます……」


「悲観的とおっしゃっていたけれど、具体的に例を挙げて教えてもらえるかい?」


「……はぁ、分かりました。例えば……僕はタイムペッパーを破ってしまったことをずっと後悔しているんです。もしかするとこの世界線には僕が求めていたものがあるのかもしれない。けれど、僕はうつ病を抱えたまま未来に向かってやり直さなければならない。前向きに捉えようと必死に自分に言い聞かせても、どうしても未来に希望を見出すことができなくて、視界が真っ暗に思えてしまうんです」


「タイムペッパー? それは一体何のことだい? 詳しく教えてくれるかな?」


「あ……まあ、信じてもらえないと思いますけど、この紙切れのことです」僕はパーカーのポケットから、まだ四十センチほど残っているタイムペッパーを取り出した。


「見てください、ここに『中華民国中央印刷廠印刷』って印字されているでしょう。これを使えば未来から過去へ戻ることができるんです。僕は元々この世界線の人間じゃないんです。僕がいた世界線の台北市長は郝龍斌(ハオ・ロンビン)氏だったし、第二外国語で英語かそれ以外の言語を選ぶなんて制度もありませんでした。英語一筋だったんです」


心理カウンセラーは僕のタイムペッパーを受け取り、じっくりと観察しながら、酷く不可解そうな表情を浮かべた。


「……なんて精巧な印刷なんだ。それにこの偽造防止技術は、現在の紙幣よりもはるかに高度だね。……君の言っていることを信じるよ」彼は愛おしそうにタイムペッパーを僕に返してくれた。


「ありがとうございます。本来のこの年齢の僕は、学校のカウンセリングを受けているだけで、薬も飲んでいなかったし、定期通院もしていませんでした。だから今回の受診で、未来で飲んでいた薬を手に入れたかったんです。……あ、僕が未来から戻ってきたからといって、これから起きる出来事がすべて同じになるとは限りませんよ。宝くじの当選番号や株価を聞かれても、お答えできませんからね」


ああーっ! 言うつもりなんて全くなかったのに、結局うまく誘導されて喋らされてしまった! これで精神病棟に三十日間ぶち込まれるフラグが立ってしまったんじゃないか!?


「ふむ、では未来でどんなお薬を服用していたのか教えてくれるかい? 僕がメモを取って、後で医師に伝えてあげるから。もちろん、君が未来から戻ってきたということは、僕たち二人だけの秘密にしておくよ」


「ありがとうございます! 感謝します! 僕が飲んでいたのは、ラツーダ半錠、リボトリール一錠、レメロン三錠、マイスリー一錠、ランドセン二錠、トリンテリックス二錠、それに手の震えを抑えるインデラル一錠です。……あ、インデラルは今はいらないかもしれません、まだ手はそんなに震えていないので」


「こんなにたくさんの薬を暗記しているなんてすごいね。よければ僕の紙に直接書き込んでくれないかい? 薬の正式名称には詳しくなくてね」


「あ、はい! この時代にもそれらの薬が存在しているといいのですが……」


「君のために祈っておくよ」


「ありがとうございます」


最終的に、僕は無事に薬を手に入れることができた。ただ一種類だけ、まだこの時代には未発売の薬があったけれど、あの二錠のトリンテリックスが無いくらいなら大きな支障はないだろう。


薬局で薬を受け取った父さんは、呆然とした表情で僕の手にある大量の薬袋を見つめていた。


「お前……なんでこんなに大量の薬を飲むんだ?」


「あ……医師と話し合った結果だよ」やばい、ここが最大の難関だ。


「俺が直接医者と話してくる! こんなに薬を飲むくらいなら、漢方薬(中藥)で体調を整えた方がいい。西洋薬は身体を壊すぞ」


「あ、う……うん、分かった。父さん、医者と話してきてよ」


……頼むから、お医者さん、僕の処方を死守してくれ!

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