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第十五章 過去の僕、未来の僕

若くて元気な体というものは、これほど素晴らしいものだったのだろうか。体育館でバドミントンに興じる心地よさは格別だった。


元の世界線での僕は、体育の授業が大嫌いだった。体育はグループ単位での活動ばかりで、ペアやペア相手が見つからなければ、一人体育館の隅に座り込んでぼんやりとクラスメイトたちのプレーを眺めるしかなかったからだ。


そして、今のクラスにも自分と同じように浮いている人物がいることに僕は気づいていた。温嘉鴻(ウェン・ジアホン)——影が薄すぎて綽名すらない男だ。授業中はいつも寝ていて、班ごとの発表ではスライドをただ棒読みするだけの担当。テストの成績も散々だった。


正直に言えば、彼はまさに過去の僕の縮図そのものだった。なんとか助けてやりたいと思い、一学期の間ずっと彼に話しかけたり歩み寄ろうとしたが、投げかけた言葉のボールが返ってくることは一度もなかった。あらゆる方法を試し、担任の先生にも相談したけれど、結局のところ、本人が自分から一歩を踏み出さない限りどうにもならないのだ。


福祉・ソーシャルワークのカウンセリング理論(諮商理論)と同じだ。すべての支援は「クライエント(個案)本人が援助を受け入れる意思がある」という前提の上に成り立っている。本人が拒絶している以上、周りがどれほど手を差し伸べようと徒労に終わってしまう。しかし、学んだ理論のどこにも「どうすればクライエントに受容の意思を持たせられるか」の答えは書いていなかった。大学時代、教授に手を挙げて質問したこともあったが、返ってきたのは曖昧な回答だけだった。今まさにその現場に直面し、できる限りの手を差し伸べたいのに、どこから手を付ければいいのか分からない。触れるたびに刺されるウニを相手にしているような感覚だった。


彼は今も一人、体育館の隅にある椅子に腰掛け、僕たちがバドミントンをする様子を眺めていた。ハンサム(帥哥)やア哲(阿哲)に協力してもらったものの、効果は全くなかった。


「二人で先に打ってて。僕ちょっと疲れた。未来人の体力じゃこの運動量は持ちそうにないや。あいつのところに行ってくる」


「おう、わかった。がんばれよ」


ア哲が親指を立ててグッドサインを作ったので、僕は苦笑いを返した。


僕は温嘉鴻の座っている場所へと歩み寄った。


「温嘉鴻、一緒にバドミントンやらないか? 僕とペアを組もうよ」


「……いいよ」


「一人でここに座ってても退屈だろ? 僕もいま相手がいないからさ、僕のペアになってくれないか?」


「気にしないで、みんなと打ってくればいいじゃん」


……うーん、本当に手強いクライエントだ。ソーシャルワーカーの実務経験がないどころか、大学の授業すらまともに受けていなかった僕に、他人の人生をどうこう言う資格なんてないのかもしれない。


いや、ダメだダメだ。また劣等感に満ちた人格が顔を出しかけている。こんなクライエントを前に僕が先に諦めてしまったら、それこそ本当の敗北だ。


それに、陳逸樺の前以外の学校生活では、僕は「微笑みの仮面」を被り続けなければならない。安易に弱音を吐くわけにはいかないのだ。


高校時代、僕が少しずつ心を開くきっかけになった出来事をかすかに思い出していた。あの時、帥哥の陳德儀(チェン・ダーイー)が、先生が質問するために生徒の名札を入れるくじ引き箱の中に、僕のくじを何枚もこっそり仕込んだのだ。おかげで先生に当てられる頻度が跳ね上がった。一時は「いじめ」ではないかと先生に心配されたが、僕自身が「みんなが僕をクラスに馴染ませようとしてやってくれたことです」と説明した。何度も当てられるおかげで授業中に寝ることもできなくなり、同時にクラスメイトとの会話のきっかけが増えていったのだ。


だが、その手もこの世界線の彼には通用しないようだった。彼は頑なに心を閉ざしており、僕たちを大いに悩ませていた。


一学期の頃、担任の先生は僕と帥哥、ア哲、そして大魔道士(大法師)……巫錦俊(ウー・ジンジュン/以前僕の前の席に座っていたやつだ)を集め、この男子グループでどうすべきかを話し合った。温嘉鴻が当時、僕たちのすぐ近くの席にいたからだ。


だが、僕たちがどんな提案を出しても効果はなく、しまいには担任から「君は本当に未来人なのか? こんなことすら解決できないのか」と怪しまれる始末だった。


おいおい、僕はただの高二の生徒だぞ。あんたは教師なんだから、あんた自身が方法を考えろよ!


と思わず喉まで出かかったが、なんとか飲み込んだのだった。


いまの僕の精神状態なら、この状況に耐えることはできる。だが、バドミントンの軌道をじっと追い続けるのは実に神経をすり減らす作業だった。昔はただ「体が疲れる」と感じるだけだったが、今では脳みそまで疲弊してしまう。しかし、こうした成熟した(老けた)精神があるからこそ、粘り強く根気強く彼に付き合ってあげられるのだ。


「高校の三年間をずっとそんな風に過ごしてたら、君だってつまらないだろ。僕も昔はそうだったから、君の気持ちはよく分かるよ」


僕は彼の隣に腰を下ろした。


「お前、本当に未来から戻ってきたのか? だったらなんでクラスメイトの名前をみんな忘れてたんだよ」


「君と同じだったからさ。クラスに馴染めなくて、一人でぽつんと隅っこにいた。あの頃の僕は痛々しい中二病でさ、パーカーのフードを深々とかぶって、自分の内面が外に漏れ出さないように閉じこもってたんだ。『おとなしくクラスの隅で、日陰者(邊緣人)として過ごせばいい』って自分に言い聞かせてた。だから高二の時なんて、クラスメイトの名前を一人だって覚えていなかったんだよ」


当時の僕を救ってくれたのは、陳逸樺だった。彼女は嫌な顔一つせず、何度も六組から僕に会いに行き、転科してきてからもずっと僕に構い続けてくれた。僕はついに彼女の情熱に屈し、心を開いて他人の手をとる決意をしたのだ。そしてその時、彼女に恋をした。


……ただし、この話だけは口が滑っても言えない。温嘉鴻に「見せつけ」だと誤解されて逆効果になったら大変だ。


「もういいよ、ほっといてくれよ。バドミントンしに行けよ、ウザいな」


「ねえ、知ってる? 正直言えばさ、未来人である僕が今こうして君と喋ってるのは、君をクラスに引っ張り込みたいからじゃないんだ。ただ僕が疲れちゃって、ここで休憩してるだけなんだよ」


「……お前、俺と同じ高二じゃないのかよ?」


「他のやつらにはまだ言っていないんだけどさ、君にだけ内緒で教えてあげるよ。僕の中身はただの肥満オタク(肥宅)なんだ。長年運動なんてしてこなかった、三十五歳のオタク。しかも今回は、重度のうつ病まで引き連れて過去に戻ってきたんだ。またあの苦しい十八年間をもう一度やり直さないと、元の年齢には戻れない。だけど、うつ病なんて一生治らない病気だ。だから僕が死ぬまで、ずっと、ずっと、ずっと僕に付きまとってくるんだよ」


自分の秘密を明かすことは、相手の心を開く手法の一つだ。


「……でも、お前を見てても、うつ病になんて見えないけど。ウソついてるんじゃないのか?」


僕は顔にかぶせいた透明な仮面を脱ぎ捨てる仕草をし、一瞬で顔を暗く沈み込ませた。


「どう? これでそれっぽく見えた? 正直言うとね、僕は誰とも口なんてききたくないんだよ。ただ『微笑みの仮面』を被っているだけ。そうしないと昔の過ちを繰り返すことになるからさ。僕は自分の青春と学校生活をやり直すために戻ってきたんであって、君と無駄話をするために戻ってきたんじゃない。君がクラスに馴染もうが馴染むまいが、僕には知ったこっちゃないし、できるなら君とこんなに喋りたくもないよ。僕にとって何の得にもならないんだからさ。そうだろ?」


僕は心底嫌そうな表情を浮かべてみせた。


「……じゃあなんで俺にかまうんだよ。ほっといてくれよ。お前が未来人だって信じるからさ、もういいだろ、どっか行けよ」


「えー、なんで僕がここに座って君と喋っちゃいけないんだよ? 一学期の初日、苛ついて立ち上がり、先生にタメ口で口答えしたのが誰だったか覚えてるか?」


「お前だろ。……で、それがどうしたんだよ。俺はあんまり喋りたくないんだ、口が乾くから」


「君がこうして相手をしてくれるからだろ。そうじゃなきゃ、僕はただ一人でブツブツ独り言を呟いてる怪しいやつじゃないか。体育館の授業のたび、僕がここで息を切らせて座ってるのを見てただろ? 僕は一人で孤独になりたくないんだよ。だから君のところに来て喋ってるんだ」


「だったら他のやつのところに行けば……」


彼は「他のやつと喋ればいいだろ」と言おうとしたようだが、周囲を見渡しても休憩している生徒なんて一人もおらず、全員が夢中でバドミントンを楽しんでいた。


「ほらね、僕の言った通りだろ? 君と喋らなきゃ、僕はただの独り言野郎になっちゃうんだ」


僕は再び仮面を顔にかぶせる仕草をした。


「というわけだからさ。君が一日も早くこのクラスに溶け込んでくれることを願ってるよ。僕みたいに、過ぎ去ってしまった大切なものを二度と取り戻せなくなる前にね」


「……ああ」


これだけ捲し立てて、彼の心にどれくらい届いただろうか。一割でも届いていれば上出来だ。


「……なぁ、お前がどうやって未来から現在に戻ってきたのか、教えてくれないか?」


「うーん、君に教えるべきかどうか分からないな。でもそんな難しいことじゃないよ。未来へ進むことはできなくて、ひたすら後ろへ退がる(過去へ戻る)だけ。もし君がタイムラインの理論を知っているなら、僕の言っている意味が分かるはずだ。もしかしたら未来へ進める世界線もあるのかもしれないけれど、少なくとも僕たちが今いるこの世界線には、そんな技術はない。それに未来なんてどうなるか分からないんだから、過去に戻れるかどうかを気にするより、一度きりの人生をしっかり生きた方がいい。後悔しないことこそが一番大切なんだから」


「お前のいた未来では、みんな過去に戻りたがるのか? たとえば宝くじを当てるとかさ」


「まさか。過去に戻るようなやつはみんな『バカ』扱いだよ。だって過去に戻ることには不確定な突発要素(ランダム性)が付きまとうし、自分の知っている過去と完全に同じになるとは限らない。せっかく苦労して長生きしたのに、病気や痛みを抱えたまま過去に戻って人生をやり直すなんて、すごくバカげてると思わないか?」


「……うん、確かにあんまり賢い選択とは言えないな……」


「僕が言えるのはここまでだよ。未来の自分が後悔しないと胸を張れるなら、今のままでも構わないさ。じゃ、僕は運動に戻るよ」


言い終えると、僕は彼にニッコリと微笑みを向け、その場を離れた。そして一人でバドミントンを打ち始め、集中力を鍛え直すのだった。

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