8話:覚悟の先にあったものー前編ー
次の日。まだ日が昇るには、少しだけ早い時間。
私は目が覚めてしまった。隣のベッドには、カルレットが寝ている。
「寝てるだけでも、絵になる人だな」
寝相が悪いとか、丸まっているとか、そんなこともなく、スヤスヤと寝ている。
二度寝する気もないし、だからと、このままベッドに座っているのも、退屈だ。
下手に起こしてしまっても、申し訳ないと思ったので、外へ出ることにした。
宿屋の出入り口へ向かうと、店員が仕事を始めようと、準備をしているのが目に入る。
軽く挨拶をし、宿屋の外へ出る。
周りを見渡すと、昨日の活気が嘘のように、街は、静まり返っている。
「嬢ちゃん、早起きだな」
声がした方を見ると、オーランが立っていた。手には剣を持ち、額には汗が見える。
暗い時間から、身体を動かしていたようだ。
挨拶を交わすと、オーランは、周りを警戒していた。
「こういう暗い時間に、こそこそしてるやつらもいるからな」
そう言い、道の端、塀の向こうに、広がる街並みを見渡す。
見回りも兼ねていたのだろう。
「顔を把握されにくく、影に潜む、ってことですね」
「それもあるが、夜間は戸締りをしっかりして寝るのが当たり前だからな。その分、外のことは、目に入りにくくなる」
そう言いながら、オーランは、何かを見つけたのか、どこかを見つめている。
「あいつ……」
オーランは、低い声で言った。
その視線の先を、追ってみたけど、私には見つけられない。
何を見つけたのか、聞こうと思った時だった。
オーランが走り出す。
「オーランさん!?」
緊急事態なのだろうか、一瞬だけ読み取れた表情からは、焦りが見えた。
そんなオーランを追う。坂を下り、角を曲がる。
そして、裏路地に入り、ようやく足を止めたオーランが言う。
「見る覚悟があるなら、こっちに来な」
なんとなく、察してしまった自分がいた。
剣を取った日から、いつかは迎える光景だと、覚悟を決めて、前へと踏み出す。
そこに広がっていたのは、斬り伏せられ、血の中に沈む男だった。
一目でわかる。
「死んでる……」
そう理解した時だった。5年前のあの日、父の姿が重なる。
目を逸らす事ができない。脚の震えが止まらない。呼吸が整わない。私の覚悟はなんだったのだろうか。
心が折れる、そう思った時だった。
「嬢ちゃん!」
オーランの声が、響いた。
呼吸を少しずつ、整えていく。目の前の出来事から、目を背けるな、と自分に言い聞かせる。
「大丈夫です……」
とは言ったものの、この男を斬った本人が、まだ潜んでいる可能性がある。
それなのに、こんな状態で、何ができるんだ。
それに、私の剣は、宿屋に置いてきてしまった。
オーランも、そのことには気付いているようで、私の周りも警戒してくれている。
まだ陽は上り始めたばかり。考えを落ち着かせろ。
「目覚めの合図だ」
そう言って、オーランはしゃがむ。
腰辺りから円筒状の何かを手に取ると、蓋のようなものを取り外した。
次の瞬間、オーランはそれを勢いよく地面に叩きつける。
同時に、破裂音が裏路地に響いた。
パン、と乾いた音がしたと思うと、空に向かって、赤色の光が飛ぶ。
耳がキンとなる。呆気に取られていると、視界の隅で、何かが揺れる。
「え?……奥!人がいます!」
それは目撃者なのか、容疑者なのか、そんなことを考える暇はなかった。
どちらにしても、警戒する対象であることに違いない。
「敵か味方、どっちだ?」
オーランは、二発目を地面に叩きつける。
再び響く破裂音。それは、住人を起こすのに十分過ぎたのだろう。
「今の音はなんだ!?」
誰かの声が上がる。
どこからか聞こえてくる、人の声は増えていく。
そして、影が動く。追おうと構えた時だった。
「追うな!罠の可能性がある!今は合図を上げた。仲間が来るのを待て!」
冷静であれば、わかったはずだった。
ここまで、考えられなくなるなんて、思ってもいなかった。
自分の無力さが嫌になる。
私の判断が、間違っていたのが、悔しい。
少しして、駆けつけてきた騎士団に事情を聞かれ、現場は彼らに引き渡された。
対応はオーランがすることになり、私は宿屋へ戻ることになった。




