7話:試される旅路-後編-
このまま馬車に揺られて数時間が経っただろうか。最初の休憩として、村へ立ち寄る。
「30分程休憩しましょう」
カルレットは懐中時計を見ながら言う。その姿は、すごく様になっていて、見惚れてしまう。
大人の女性と言うのだろうか、村にはなかった雰囲気を纏っている。
「どうかしましたか?」
少し見過ぎてしまったのか、気づかれてしまう。
馬車から降りた今なら、2人きりになれると思ったので、少し離れた木陰へと誘ってみる。
「正直に聞いていいですか?」
私の言葉で、カルレットの口元が少しだけ緩んだ気がした。
「答え合わせですね?」
少し嬉しそうな口調になるカルレット。やはり私は試されていたんだと感じる。
「御者の彼も騎士団の一員です。あなたは座席から降りる時、彼を観察していましたね?」
気づかれているとは思っていなかった。
いや、この場合は見つかってしまったと思う方がいいのだろうか。
それでも、私が疑問に思った原因はカルレット自身だ。
そう思った時、自分の間違いに気づく。
「それと、盗賊を誘き寄せる囮なのは正解です。ですが、私が窓の外を警戒してしまっては気づかれる可能性があります」
私が状況を理解したまではよかった。
それでも先入観から、囮としての役割を果たしているという考えまで至れなかった。
「乗り物に酔い、本調子ではなかったでしょう。それでも状況を把握し、答えを見つけようとしました」
そう言い、カルレットは私の肩を叩く。
「そこまでなら合格です。ですが、本当の目的には気づかなかったようですね?」
気づいてしまった。盗賊が襲撃してくれば、戦闘になる。
つまりカルレットが言いたいことは……。
「あなたは人を斬れますか?」
その目はとても冷たく、先ほどまでの口調とは違い、鋭く私に向けられた一言。
避けては通れない、絶対的な現実。単純な二択なんかじゃない。
正義のために斬る。誰かを守るために斬る。
どんなに言葉を飾っても、それは奪う側になるということ。
その重責を背負い、生きる覚悟があるのか、という真実。
それでも、理不尽を許す訳にはいかないんだ。
肩に置かれた手を掴み、真っ直ぐにカルレットを見つめる。
「私は守られるべき人の為に剣を持ちました。それだけです」
少しくらい悩んでから答えた方がよかっただろうか。
そう思ってしまったけど、私が剣を握った時から、それは変わらない。
だから真っ直ぐに答えただけなのだけど、カルレットの表情は和らいでいた。
「意地悪してごめんなさいね。子供だと思っていたけど、たくさん悩んだのね」
優しく頬を撫でてくる。でも、きっとこの手も血で染まっているのだろう。そう思うと少し怖く思えた。
「でもさすがですね。あなたの推薦状に書かれてたんですよ、疑うなら試してみろ、と」
騎士団の試験に向かうことは、もう決まっている。
だからこそ、少し引っかかっていた。
私はまだ、騎士団の一員ではない。
それなのに、なぜここまで試されるのか。
そう考えれば、師匠の推薦状に何が書かれていたのか、少しだけ分かった気がした。
「師匠からの信頼だと受け取っておきます」
再び馬車での移動。隣に座る御者役の騎士から自己紹介される。
「俺はオーラン・グレンツだ。よろしくな」
「リズウェル・ハークロンドです。よろしくお願いします」
握手をする。
オーランは私とカルレットのやり取りを見ていただけだったけど、何か質問とかないのだろうか?
「オーランさんは、私を試したりしないんですか?」
少し難しそうな表情を浮かべてから、こそっと話しかけてくる。
「カルレットは優しそうに見えるだろ?」
栗色の髪に薄碧の瞳。
仕草も上品で、綺麗な女性と感じる。
それでいて気遣いができるので、人気がありそうに見える。
それなのに、彼の言ったことが疑問形であることに違和感を感じる。
「意地悪というか、そういうことをしてくるから気をつけろよ」
どういう意味だったのか、その時の私は理解できなかった。でも、それはすぐわかることになる。
2時間程の移動を経て、次の村で休憩を取る時だった。
「今回の移動は大丈夫でしたね」
確かに、御者席に座っている間は、乗り物酔いしなかった。
多少はしているとは思うけども、きっと許容できる範囲だと思う。
「旅の楽しみは、その場所の食べ物です!」
そう言い、見せてきたのは肉串だった。
私が住んでいた村では、狩猟が行われていた。
でも、毎日食べられるものではなく、豪華なものだ。
「この村では畜産が行われているので、お肉が食べられるんですよ!それが、この村の大きな目玉です!」
さっきまでとは違い、すごくはしゃいでいるように見える。きっと旅の楽しみ方を知っているのだろう。
食べてみると、おいしい。
村では味わえなかった物だ。
だから、好奇心が勝ってしまった。
――
「気持ち悪い……」
昼食を食べたのが間違いだった。
「自己管理も大切ですからね」
釘を刺されてしまう。誘ってきた本人に言われるなんて思ってもいなかった。
「カルレットさんは本当に意地悪だ……」
何度か途中で停めてもらうことになってしまったけど、なんとか辿り着いた街には初めて見るものばかりで、気分が高まる。
見て回りたい。
見て回りたかった。
見て回りたかったけど……。
「本来は道中で済ませたかったのですが、無理でしたので」
宿屋に着いて早々に言われ、目の前に出される書類の束。
「こちらの書類を読んでもらいます」
読み終わる頃には夜で、見て回る時間なんてなく……。
私の初めての旅の1日は、こうして終わりを迎えた。




