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繋がりの断片  作者: 寡猫
序章:試される旅路

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6話:試される旅路-前編-

 馬車が走り出し、私は寂しさを感じていた。

 楽しいことも、悲しいこともあったけれど、思い出の詰まった村が遠くなっていく。

 家に帰れるのは先のこと、だとわかっている。せっかく母と和解出来たのに……。


 そんな私を気遣ってか、一緒に馬車で揺られる騎士団の女性は言う。


「自己紹介がまだでしたね。私はカルレット・ルアンです。人事を担当しています」


 丁寧に頭を下げられたので、合わせて下げる。


「険しい表情をされていますが、あなたはまだ子供です。お気持ちの整理は難しいでしょう」


 これから戦いに身を置くのだから、そんな甘えた考えはダメだと思う。それなのに見守る姿勢を見せてくる。


「ごめんなさい。先日まで母と喧嘩してたので、つい」


 本来、騎士団への入隊は18歳からと言う制約がある。

 そして、認証されている剣術指南役、または道場からの推薦を必要とする。

 その2つの条件のもと、試験が行われ、合格して初めて一員になる資格を得るのだ。


 私は師匠からの推薦だけで試験へ向かうことを認められた。

 だから扱いに困るのだろう。


「今すぐ戦場に立て、なんて言うつもりはありません。まずは私たちステリファル騎士団に慣れてもらう方が大事ですから」


 そう優しく微笑んでくれる。


「目的地であるスフェリナまで、10日程かかります。道中、街など経由しますが、食べたいものなどありますか?」


 私の気を緩めようと、不安を取り除こうとしてくれているみたい。でも、それ以上に重大なことがある。


「すみません、ちょっと気持ち悪いです」


 その一言で、カルレットの表情が固まる。私の険しい表情の一番の理由はこれなんだ。


 女性騎士は急いで御者に停めるよう伝えたいのだろうけど、あたふたしている。

 お願いだから、馬車を揺らさないでほしい。


 馬車が停まり、私は急いで扉を開ける。我慢ができなかったので、木陰に向かって吐き出す。


「乗り物酔いするなんて思わなかった」


 自分は動いてないのに揺れているし、景色も変わっていく。

 森に入ってからが最悪だった。

 道はがたがたで、窓の外を流れ続ける木々は感覚をおかしくする。


「リズウェルさん、大丈夫ですか?」


 背中を擦ってくれる。吐ききった方が楽になるからだろうか。

 でも、それは今を解決するだけだ。あと何日も馬車なんて耐えられる気がしない。


「この水と飴をどうぞ」


 手渡された水筒を受け取り、口をゆすぐ。さっぱりしたので水を飲み、飴を口に入れる。少しくらい気分は楽になるのだろうか?


「御者さん、彼女を隣に座らせてもらってもいいですか?」


 御者が馬を撫でながらこちらの様子を伺っているのが見える。


「こっちに来な」


 と手招きをしてくる。近づくと、馬が私の顔を舐める。吐いた直後だからやめてほしい。


「こいつは少し人見知りな部分があるが、大丈夫だな」


 御者が私を持ち上げ、御者席の足場に乗せる。

 突然すぎて驚いてしまったけど、進む道の先を見た時、ずっと続くこの道の先には知らないことが待っているのだと感じる。


 それでも、馬車に乗らないといけない事には変わらない。

 気分が悪くなったらすぐ伝えられるという配慮なのだろうか。


「乗らないとダメですか?」


 すごく気が重たい。じっと動かないことも辛いから、歩いていいなら歩きたい。


「遠くを見るといいそうですよ。進行方向を見ていれば、大まかな動きを無意識に認識するので、錯覚が減るそうです」


 人事を担当するくらいだから、人を見ることには慣れているのだろうか。

 それとも、こういう旅にも慣れているのだろうか。

 気が進まないけど、泣く泣く移動を再開することにした。


 御者が手綱を握り、静かに動き出す馬車。また気持ち悪くなるんだ、そう恐れていたけれど、不思議と大丈夫だった。

 なので、私は礼を言おうと、背中にある小さな窓を開ける。

 小さな窓の先、室内には資料を真剣に読むカルレットが見える。


「ありがとうございます!大丈夫みたいです!」


 こちらを見て、それはよかった。と言い、再び資料に視線を送るカルレット。移動中も仕事熱心だ。

 だけど、私は今、ひとつの疑問を抱いている。


 この馬車には騎士団の物と表現するような物はなにもない。

 御者の隣に座る私は多分、彼か室内にいるだろう人物の娘に見えると思う。


 御者からすれば、騎士団の一員であるカルレットが言った事を受け入れただけの可能性はある。

 だからと、御者は襲撃されれば真っ先に狙われる立場で、私の安全は保障されず、せめて視界が開けるまでは我慢させるべきだったのではないだろうか。


 私の状況はあまりにも無防備すぎるのだ。

 剣術が使えるといっても、私を知らないカルレットが警戒している様子がない。


 つまり、御者も私のことをある程度知っている人物。

 そして、騎士団に関わる一人である可能性が高い。


 私の乗り物酔いは偶然だ。

 けれど、彼らはそれを利用して、2つのことを見ようとしているのかもしれない。


 1つ目は、私が状況を理解し、試されていることに気づけるか。

 2つ目は、この状況を囮にし、何かを誘っている可能性。


 正直、考えて悩むことを今はしたくない。

 せっかく母との悩みが解決したのだから。


 だから、私は流れに身を任せることにした。

 今、どうしようも出来ないことを悩んでも、結果は変わらない。

 考えすぎれば、余計な先入観を抱いてしまうだけかもしれない。


 もっとも、私の剣は室内にある。

 だから今は、諦めたようなものだけど。

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