2話:親友の想い
どれくらいの時間、泣いていただろうか。
少しだけ落ち着きが戻ってくる。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
少しだけ、気持ちを入れ替えて、荷物を持ちなおす。
一歩、歩き出そうとした時だった。
「遅い!なにしてたの?」
そう言って、駆け寄ってきたのは、幼馴染のナテアだった。
「ごめん……」
今、顔を見られるのは、少し恥ずかしい、そう思って、目線を逸らす。
でも、ナテアは、すぐに気付いたようで、回り込んできた。
「ちゃんと話し合うって言ってたのに、できなかったんだね?」
何も言い返せない。悔しいけど、一歩を踏み出せない自分が不甲斐ない。
父を失ったことを理由に、剣を取ることはできた。
でも、母と向き合うことはできなかった。
私が選んだ道を、黙って受け入れてほしい。
そう言っているのと、同じだったのかもしれない。
「最後なんだからね」
そう言い、私の頬に手を置き、しっかりと目を合わせてきたナテア。
その目の中の光は、かすかに揺れていた。
「早く行きましょ」
そう言って、腕を掴まれる。それは、ナテアなりの強がりなんだと、感じた。
向かうのは、村を一望できる丘の上。そこは小さい頃、よく遊んでいた場所だった。
雑に組まれた木枠の階段は、古びて崩れかけていたり、真新しかったりしている。
しばらく見られないと思うと、少し意識して見てしまう。
「なんか、少しだけ変わって感じるね」
そう言うナテアは、ただ前だけを見つめて歩き続けている。
小さい頃は、走って登ったり、勢いよく転んだりしていたのを覚えている。
でも、今日は一歩一歩を踏みしめる。この時間が終わりに近づくのを拒むように。
「小さい頃は、何も考えずに走り回ってたもんね」
こんな時くらいしか、小さい頃の話をする機会はないかもしれないと、思いながら歩き続ける。
そして、到着した丘の上。
村を見渡せる場所。そして1つの石碑。それは、父が村を守った証だ。
石碑の前で、ナテアは空を見上げる。
「リズのお父さんが死んで、誰かとのお別れは、いつか来るものだとわかったよ。だから、今日もそうなんだと思ってる」
肩を震わせながら、頬を伝う涙。
「もしもだよ。リズが村を出た後、私は病気で死んじゃうかもしれないし、お母さんもそうかもしれない。リズが死んじゃうかもしれない」
真っ直ぐに、こちらを見てきたナテアの目は、決意と言うよりは、睨んでいるように見えた。
「だから、私は今のまま村を出て行ってほしくない。リズの悩みが、私にとっても苦しいの。このままだと、私にも後悔が残る!」
今まで、悩みが解決できたらいいね、と応援してくれていたナテアが、初めて本音を言ってくれた瞬間だった。
自分の悩みを理由に、ナテアにも苦しさを押しつけていた。
そう気づいて、胸が痛んだ。
差し出された手に甘えてばかりで、誰かを守るなんて、よく言えたものだと思った。
「ナテア……ごめん」
「謝るなら!明日の朝、旅立つ前に答えを見せて!」
ナテアは、その場で泣き崩れた。
申し訳なくて、触れることもできない。
ただ、謝ることしかできなかった。
「ごめん。ごめんね」
そのまま、少しの間、時間が過ぎていく。
「リズ、ごめんね。私まで困らせちゃったね」
そう言って、ナテアは涙を拭った。
このまま旅立てば、ナテアにも後悔を残してしまう。
分かっているのに動けない自分が、情けなかった。
「怖がってちゃダメだもんね。母さんの気持ちも聞いちゃったから」
それでも、作ってしまった壁は大きく感じる。
そんな私を見て、ナテアは言った。
「リズのお父さんが死んで、必死に剣を学んで、ただ前を向いていたのはわかるよ」
ナテアは、私の手を握ったまま続ける。
「その道は、剣みたいに、まっすぐ鋭いものかもしれない。
でも、鋭くなるほど、近づけなくなる人もいるんだよ。
守るべき人を忘れちゃダメだから」
ナテアは、私の目を見つめる。
「私たちを守ってね!」
きっと、それがナテアなりの答えだった。
だから、今日帰ったら、どんな形だろうと母さんと話そう。
そう心に決めた。




