表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
繋がりの断片  作者: 寡猫
序章:試される旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

1話:私の決意、母の決意

 時が経ち、16歳を迎えた少女の物語。

 

 年が明け、少し経った頃。この地域に雪が降ることはないけれど、それでも寒い。

 

「布団から出たくない……」


 寒いから、というのはもちろんあるけれど、それ以上の理由があるからだ。

 でも、そんなんじゃ駄目だ、と思い布団から出る。


 自分で選んだ道なのだから、逃げてはいけない。

 そう言い聞かせて、私は部屋を出る。


「リズウェル、誕生日おめでとう」


 今日は私の16歳の誕生日だ。

 でも、嬉しくないことは、自分でも分かっていた。


「母さん、ありがとう」


 母、メルザの方を見ると、案の定目線は合わせてくれない。

 それもそうだ。私は明日、この家を出る。

 

 それでも、テーブルの上には朝食が用意されている。


 喧嘩別れなんて、したくなかった。

 明日、家を出る前に、ちゃんと伝えなければならない。

 育ててくれてありがとう、と。


 朝食を食べる前に、タンスの上に飾られた写真を見る。

 

「父さん。母さんを泣かせてごめんなさい」


 父、アルディスは5年前に亡くなった。

 村が襲われたあの日、私たちを守ってくれたまま、帰ってこなかった。


 憧れの聖女様のように、誰かを守れる人になりたかった。

 でも、現実は非情で、私はあまりにも無力だった。

 だからこそ、守るための力が欲しかった。


 自分の死が、娘が戦いの場に踏み出す決心となったことを、父は嫌がるのだろうか。

 私にはわからない。だから悩み続けてきた。

 それでも、私は母の反対を押し切って剣を握った。


「天国から見守っていてください」


 そう深く願い、謝り、朝食に手を伸ばす。

 いつもと変わらない母の味は、安心感と同時に、心苦しさも感じる。

 その間、母は無言で、たまに肩を震わせていた。


「親不孝でごめんなさい」


 朝食を済まし、片付けをしようと食器を持ち上げた時だった。

 母は私を避けるように、部屋から出て行ってしまう。


 明日の朝、顔を合わせてくれたら、ちゃんと感謝を伝えよう。そして謝ろう。

 家を出てしまったら、もう二度と会ってくれないかもしれないから。

 

 村で過ごす最後の一日。

 出かける準備をする為に、部屋へ戻る。

 少し前までは、まだ物があったけど、今や殺風景な部屋は私の胸を何度でも締め付ける。


「自分で決めたことなのに」


 少しだけ泣きたいけど、そんなんじゃダメだと堪える。


 5年前のあの日。父が死んだ日を思い出す。

 私の心はきっと壊れてしまっていた。

 憧れと現実の違いを、11歳の時に知ってしまったから。


 母が、自分の感情を押し殺していたことには、すぐに気づいた。

 夜、私が寝た後にだけ、泣いていたから。

 

 私の前だけは強くあろうと、誰にも頼れずにいた母さんを助けたい。

 力があれば、きっと父も助かったかもしれないと。


 手にした形見の剣がとても重く感じたことを覚えている。

 そして、私が剣を振った分だけ、母はどんどん離れていったことも。


「強くならないと、誰も守れないのに……」


 その日から、母との会話は少しずつ減っていったんだ。


――


 心が落ち着くまでに、少しだけ時間がかかっただろうか。


「早く、約束の場所に行かないと……」


 私は剣と荷物を手に、静かに部屋を出る。

 母とすれ違う前に家を出ようと、少しだけ急いで玄関へ向かう。


「あの子が無事で帰って来られるように、守ってあげて」


 ちょうど、母の部屋の前を通った時に聞こえてきた。


「あの子まで、失いたくない……」


 その声は泣いていて、せっかく我慢できたのに、私は涙を堪えることができなくなっていた。


 今泣いてはダメだ。泣いたら、きっと甘えてしまう。

 だから、せめて母に気付かれないようにと、急ぎ足で家を出る。

 

 私は、母の気持ちを何も分かっていなかった。


 話さなくなっても、今日まで私を育ててくれた。

 冷たくしていたんじゃなかった。

 私を止めたい気持ちを、必死に押し殺していただけだった。


「ずるいよ。わざと冷たくしてたなんて」


 堪えきれず、声が漏れた。

 でも、母に聞かれるわけにはいかない。

 私は家から離れるように、足を速める。


「ありがとう。ごめんなさい」


 声にした途端、もう堪えられなかった。


 母の覚悟に気づいてしまったら、私の決意は簡単に揺らいだ。


 家を出るのをやめれば、昔のように戻れるのだろうか。

 でも、それでは母が押し殺してきたものを、なかったことにしてしまう。


 それでも、伝えられずに旅立つのは嫌だった。


「どうしたらいいの……」


 私はしばらく、その場で泣くことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ