プロローグ
「昔々、まだ国ができるよりも前のお話です」
「平穏な世界に突然、悪いわるい神様が現れました」
「その力はとても強く、その姿から邪神と呼ばれました」
「世界は暗闇に閉ざされ、脅威がそこにあるということだけがわかりました。」
「立ち上がった人達がいました。それは神々の迷宮を踏破した8人の英雄でした」
「彼らは邪神と戦います。ですが邪神の力は強大で、倒すことはできませんでした」
「そんな時、1人の女性は言いました。私が封印の礎となろう、と」
「邪神を封印したという偉業から、彼女はこう呼ばれます。聖女ニーナと」
話が幕を下ろすと同時に、本を閉じる。
現れた表紙には、金色の髪に青い瞳の女性が描かれている。
題名には聖女の伝説と記されている。
「聖女様は幸せになったのかな?」
娘は、この話に登場する聖女様が好きだ。
でも私は好きになれない。
書かれていない事実を知っているから。
「世界を救ったんだから、幸せだったんじゃないかな」
本を机の上に置く。
「もう寝る時間よ。聖女様に感謝してお布団に入りなさい」
「はーい」
素直にベッドへ向かうので付き添う。
横になった娘の笑顔を見ながら、布団を掛ける。
「おやすみ、リズウェル」
そっと頬を撫でる。
私の救いは、リズウェルの髪色も、瞳の色も、私たち夫婦と同じ黒色であること。
「元気に育ってね」
そう願い、窓の外を見る。
ここはステリファル領にある名もなき田舎の村。とても静かな場所。
「このままリズウェルと暮らしていられますように」
そう思っていたのに、悲劇は、数年後に、訪れた。
村中に、怒号と悲鳴が飛び交っていた。
騎士団から逃げ、追い込まれた盗賊が、この村を狙った。
少なくとも、その時の私たちは、そう聞かされていた。




