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ハレを望む  作者: 明深 昊
エピローグ
64/65

祝福の子守唄

 優しい声。なつかしくて、暖かくて。


 ふ、と体が戻ってきたような感覚がして目が開く。ノエルがアクトを膝枕して頭を撫でていて、アクトが起きたことに気づくと愛しげに目を細めて微笑んだ。


「おはよう、アクト」


「ぅ……」


 声がかすれる。鉛のように体は重く、起き上がるどころか手指も動かせない。


「まだ魂……魔力が体になじんでいないの。しばらくそのまま静かにしていてね」


 色々と聞きたいことがあるのにそれが叶わないのがもどかしくて。


「大丈夫、元通りにして帰してあげるから。でも、魔力の総量は……そうね、二層目までの封印が持っていたくらいにしましょうか」


 アクトが聞きたいことはそうではなく、ノエルはあえてその話題を避けているようにも見える。しかしそれでも沈黙の時間はどこか心地良く、アクトはまどろみと覚醒を繰り返していた。


 何度目かの目覚めで意識がはっきりしてきて、ようやく周りを見回す余裕ができる。周囲は真っ白のなにもない空間で、アクトとノエルだけがその場に存在していた。


「ここはまだ狭間の空間。壊されたあとの残滓と魔力を使って少しずつ修復されているわ。アクトが動けるようになるのも、人の世界に帰れる道ができあがるのももう少しだから待っててね」


 あくまでも優しく、試練を乗り越えるために行ったアクトの行為についてなんとも思っていないようで。その考えを見透かしたのか、ノエルは笑みを浮かべたまま一つため息をついた。


「お母さんがこうしてアクトのことを助けているのが不思議? あんな理不尽な試練を与えておいて、と考えているのね」


「……おかあさんは」


 ゆっくりと一つずつ発音するアクトに、ノエルはうん、とペースを合わせて聞いてくれる。


「俺のことを、きらいだと思ってた」


 その言葉に、ノエルは首を横に振った。


「そんなわけがないでしょう……言った通り、あなたも、ユウトも、お父さんも、みんな私は特別愛しているの。もちろん全ての人間たちも。それでも私がアクトのことを試練のための存在として産んでしまって、きっとたくさん嫌な思いをさせてしまったわね」


「だって、俺は……」


「あれは私があの世界から退場するための手段。アクトの暴走も元はと言えば全て私の責任なのよ。力を与えたのは私なんだから。でも……そのせいで本当に辛い思いをさせてしまった。ごめんなさい。準備ができるまでアクトの体を支えてくれたあの魔王には感謝しないとね」


 言っていることは理解できる。それでも、その後にアクト自身がノエルの望んでいた姿になれたとは到底思えず。


「怒ってない?」


 震えた声にノエルはまさか、とびきりの笑顔を見せた。


「沢山の苦労があったでしょうに、アクトは潰れず腐らず私――神が用意した試練を超えた。そんな愛しい子どもを祝福しない母がいると思って?」


「俺……戻っていいの?」


「アクトはあの世界に戻りたいのでしょう? 最後にわがままを聞いてあげるわ。ありがとう、生きたいと願ってくれて」


 全部、全部見てきたのだろう。アクトの心を見透かしたような言葉に、うん、と小さくうなずく。


「いい子ね」


 頭を撫で、逆の手であやす様にお腹を優しく叩かれる。優しいまどろみ。


「おかあ、さん……」


「うん」


「俺……俺ね。あの世界が、好き……」


 きっと、母に会えることはもうない。この時間だって奇跡のようなものなのだろう。


 ――最後伝えるべきことは、これだけ。


「えぇ、私も」


 優しく額にキスされて、目が閉じていく。


「次に目が覚めるときはきっとお家に帰っているわ。おやすみなさい。どうか、幸せな人生を歩めますように」

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