表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハレを望む  作者: 明深 昊
10章『帰る場所』
60/65

2話 英雄

 ようやく魔力もある程度回復して体も動くようになってくる。熱がある程度下がって帰っていいよとミルナから許しが出たのは目覚めてから四日後だった。


「国王陛下から招請を受けてるんだっけ。お忙しいだろうから日程の調整だけ先にハルに頼んでおきな」


「はい、お世話になりました」


「うん。ユリたち、本当に心配してたから早めに顔見せてあげてね。昨日から学校も始まってるみたいだから」


 その言葉に、え、と体が固まる。


「どこまで知って」


「軍にいることしか伝えてないよ。でも一度ユリに治してもらってるでしょ。その時点でぼろぼろだったって言ってたから、こってり怒られてきなさい。私が言うより効くんじゃない?」


 いたずらっぽく笑うミルナに、この数日魔力消費の症状について改めて耳にたこができそうなほど言い聞かせられたことを思い返して目をそらした。


「そんな言わなくても……」


 その言葉にふふと吹き出す様子はユリとそっくりで、ため息をつく。


「冗談だよ。昨日魔法使ってみたとき問題なかったから大丈夫だろうけど、少しでも辛いなと思ったらまた来て。学校も出席していいけど、しばらく寝通しで体力落ちてるから無理はしないようにね。魔力でごまかすのは絶対だめだよ、魔力量も回路もまだ万全じゃないから」


「わかりました」


 改めてお礼を言って医務室を後にする。ハルマがいる場所はわかるが、急に訪ねるのはよくないだろうか。


『ハル、今話せる?』


『え、アクト?』


 念話すると、少し慌てたような返事とともに念話の主導権を奪われる。


『お母さんからお許しでた? 謁見のことだったらこっちで調整してまた日程伝えるね』


『うん、もう念話くらいならなんともない』


『そうかもしれないけどね、寝込んでた子に無理はさせられないよ』


 よいしょ、とアクトのそばに転移してきて、ぽんぽんと頭を撫でられる。


「どうしたの」


「どうしたのじゃないよ、学校に帰る?」


 送ってくれようとしていると気づいて、ありがとうと苦笑いする。


「学校で大丈夫。忙しいでしょ、区間転移陣使うから別によかったのに」


「数分抜けるくらいならどうってことない。帝たちも久しぶりにゆっくり話せてうれしかったみたいだからまたいつでもおいで」


「こちらこそ、お世話になりましたって伝えてほしい」


 毎日のようにお見舞いと称して帝やハルマ、ラルクたちが誰かしら姿を見せていてアクトも退屈しなかった。任せてとハルマが微笑んで、学校に転移させてくれる。


 今は時間的に午前の最後のコマの授業がまもなく終わるころ。昼休みに教室に行くのがいいだろうかと考えて一度寮のほうに戻って制服に着替える。


『アクト! 戻ってきたのか?』


『イルガ先生。よく気づきましたね……授業は?』


『戻ってきたらわかるようにしてたんだよ。今ワーク中だから気にするな。ハルマさんから軍で療養中って聞いてたけど、もういいのか』


 そう言われて、室内に魔法陣でも展開されているのかなとため息をつく。音に反応するように組まれているのだろうか。相変わらず意味がわからない魔法だ。


『大丈夫です。午後の授業から教室に行こうかと思ったんですけど……』


 すると、イルガはそれならと別の案を提示してきた。


『今から来てみんなにサプライズしよう』


『今からですか?』


 思わず聞き返してしまう。そう、と言って一枚の紙が転移してくる。


『……転移陣』


『魔力無闇に使わせないようにミルナさんから言伝預かってるんだ。準備できたらおいで』


 ずいぶんと根回しされているようで、申し訳なくなってしまう。


『そこまで気を遣わなくても大丈夫です。今行きますね』


 なぜか少し緊張してしまって一つ深呼吸してから転移する。


 突然教卓の隣に転移してきたアクトにクラスの全員が呆然とする様子を見て、気まずくえっと……、と言いよどむ。


「アクト……!」


 キリトたちが弾かれたように立ち上がって駆け寄ってくる。


「おかえり」


「ただいま」


 わかっていても戻ってきたことを受け入れてくれたのがうれしくて、自然と笑顔がもれた。


「あの……双風、なんだよね」


 誰かの言葉で、そばに居た三人から教室全体へと目が移る。大丈夫とアズサが背中をぽんと叩いて、それにつられるようにうなずいた。


「……うん。黙っててごめん」


 その肯定を皮切りに教室中がざわめき立つ。


「あの魔力どうなってるの?」


「また見せてよ」


 さまざまな声が飛び交う中そんな言葉が聞こえてきて、それはと口ごもってしまう。


「ごめん、魔力のことはあんまり話せないし見せられない」


 何か月も一緒に授業を受けていれば積極的に話そうとしなくても名前やだいたいの性格もわかる。それでもこの大勢で封印しているのだなどと話せるほど思い切ることはできない。


「それでいいよ。ありがとう、私たちを助けてくれて」


 これ以上深掘りされないうちにユリが話を切り替えてくれる。


「俺からもありがとう。あの日、真っ先にアクトが動いたからこそスムーズに避難を完了できた。みんなの前で勇気必要だっただろうに」


 もちろん抵抗はあった。ただ見ているだけでは被害が広がってしまうだけで、そのほうが許せなかったのだろう。考えるよりも先に体が動いていて、気づいたときにはもう戻れないところまで来てしまっていて。


「大丈夫です。ああいうときのために力を使えなかったら、それこそ俺の存在意義がなくなってしまうから」


 きっと、あの日の自分はこれに集約されていく。


 何も知らないクラスメイトたちが怪訝にして少し変な空気が流れる。それを断ち切るように授業終了の鐘が鳴って、イルガがそれじゃ、と明るく全員に呼びかけた。


「色々聞きたいことあるかもしれないが、あまり無理強いはさせるなよ。次の授業からは普通にやるからな。アクト、俺いなくなるけど収集つかなくなったら呼べ」


 イルガが教室を離れ、教室内がざわめきに包まれる。みんな遠慮しているのかあの日やアクトの会話はしているもののアクト本人に話しかけてくる人はおらず、少し安心した。


「とりあえず座ろうぜ。アクトは飯食った?」


「あ、うん。大丈夫」


「食堂は行かないほうがいいか。私が三人ぶん購買でなにか買ってくるよ」


 アズサを待っていると、おずおずと一人近づいてきてその姿にアクトがあ、と声を上げる。魔物に襲われそうになっていた男子生徒。


「あのときはありがとう。ちゃんとお礼が言えなかったから……よかった。休んでたからもう来ないのかと」


「いや、本当なら再開した日から来たかったんだけど、ごめん」


 そう言うと、いやと首を横に振る。


「責めてるわけじゃないさ。僕は本当に感謝してるし尊敬してるんだ」


「そこまで言われるほどじゃ……」


「ほどだよ!」


 購買から帰ってきたアズサに大声で否定されて思わず身震いする。


「アクトはみんなの英雄なんだよ。自分を否定しないでって言ったよね。ユリから聞いたよ、こんなに回復するのに時間かかるほど頑張ったんだよね。無理したんだよね。そうまでしても、まだ自分が嫌い?」


 畳みかけるような言葉。きっと倒れたことを一番心配してくれていたのはアズサだろうと予想ができていた。まさかこの一言だけでここまで怒られるとは思っていなかったが、休んでしまっていたことで余計に逆撫でしてしまったんだろう。


「自分を卑下したいわけじゃないけど……やっぱり、尊敬とか、憧れとかそういう気持ちは、受け取るのが怖い」


 だから、と改めて不安そうにしている男子生徒に目を向ける。


「これからも普通に接してほしい。その、うまく言えないんだけど」


 これ以上なにか説明することは難しい。ただやっぱりここではアクトでいたくて、どうにか言葉にして紡ぐ。


「そっか……そうだよね、わかった。でもお礼はちゃんと言わせて、本当にありがとう」


 それだけ言って話を切り上げてくれて、ほっと息を吐いた。


「アズサもごめん……」


「ごめんじゃないよ、一週間経ってるのに学校に来れないなんてどれだけ心配かけたと思ってるの?」


「魔力切れって聞いたけどそんなにかかるもん?」


 キリトの言葉にうなずく。


「回復しないといけない量が多いのと……その、少し無理しすぎたみたいで魔力回路が弱って回復速度も落ちてて」


「夜十時くらいまで戦ってたって本当なの?」


「魔力切れに気づかなくて……」


 肩身が狭い。魔力回路が傷ついたのは封印解放後の暴走のせいだが、そのタイミングである程度ユリに治してもらっている。それでもこうなってしまったのは長時間戦ってその傷が開いてしまったからだろう。


「やっぱりあのとき寝てもらえばよかった」


 不服そうにつぶやくユリにごめんと繰り返して、でもとアズサに目を向ける。


「自分の力が人の役に立てたのは、よかったなって……思ってる」


 さっきの言葉への返答になっているだろうか。意図を汲んでくれたのか、アズサはそっかとうなずいた。


「少しは自分のこと認められた?」


 これからも本当の意味で自分を許せる日なんて来ないけれど。


「……あの日の俺は、がんばったなって」


 控えめなアクトの言葉に三人が吹き出す。


「それだけ? 一番の立役者だよ、アクト」


「まあいいんじゃねぇの、それだけでも」


「少しづつ、そう思える日が増えるといいね」


 こうして寄り添ってくれているのが暖かくて、うん、と笑顔がこぼれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「大丈夫です。ああいうときのために力を使えなかったら、それこそ俺の存在意義がなくなってしまうから」 そんな事はないけど、そう思うことが出来たのは良かった……のかしら
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ