緑さんに挨拶してみる
「どうも~挨拶が遅れてすみませぬ。わたくし夜の闇のように黒いかと言われればそれは違うと言わざるを得なく、暗いと黒いは違うのだという事を語らせていただかねばならぬタイプのドラゴンにごぜーます」
何事も挨拶が大事。
金神領からわざとではないけれど無視していたみたいになっちゃってたので、いつもより丁寧に緑龍さんに挨拶。
「ああん?おいおい今更そんな畏まるなよチビ~。私達なかよく殴り合った仲だろ~?」
殴り合った…そんなことしたっけ?え?無意識に大乱闘しちゃった?いやいやさすがに私でもそんな事…。
あ、もしかして紫神領でのことかな?ヴィオさんに操られていた時に戦ったやつ?
「え?緑龍さん紫神領でのこと覚えてるのん?」
「覚えてるよ。まぁ当時は意識なんてなかったが、こうして自分を取り戻してみれば不思議と今まで何をしていたか…というよりも何をやらされてたかわかったって言うかなぁ?」
緑龍さんはにやぁ~とした笑みを浮かべながらヴィオさんを見た。
「くっ…だから何度も謝ってるでしょ!?しつこいのよ!アナタ!」
「だーっはっはっはっは!まぁまぁそう言うなよ。せっかくなんだし仲良くしようぜ。なぁ?チビ」
「うんうん、仲が良いことはいいことですん」
私は平和を愛するラブアンドピースドラゴンなのでね。みんな仲良しが一番。
「メアちゃん!他人事だからって適当なこと言わないで!」
「う?」
「くっくっく!いやでも敵だと思ってた紫がこんな愉快な奴だったと知れたのは収穫よな。遊びがいがありそうだ。あぁそれとチビ。アタシの事は緑龍じゃなくて「アヤメ」と呼びな。緑の肩書はウチのチビに譲ったからな」
「アヤメさん?」
「もっと砕けていいぜ?堅苦しいのは嫌いだからな」
「アヤメちゃん?」
「ちゃんって柄でもないが…まぁいいだろう」
というわけでアヤメちゃんに決定。
「でもあれだね」
「ん?」
「アヤメちゃんってりょーちゃんのお母さんなんだよね?」
「りょー?…あぁリョウセラフのことか?ウチのチビの」
「そうそう。ただ名前の感じが随分違うなって」
アヤメとリョウセラフ。
なんとなくだけど響きが違う気がするよね。うまく言えないけど。
「あぁそりゃあアレだ。あいつに名前を付けたのは私じゃないからな」
「そうなんだ?」
「おう」
もしかして母に対するせーさんみたいに片割れがいてその人が名付けたとかだろうか。
「…雑談もほどほどに、いいかげんこちらの質問に答えてはくれませんか緑…アヤメ」
そこでぐったりとしていたせーさんが疲れたような声でそう言った。
うん…せーさんやっぱり忙しかったんだ。あとでごめんなさいをしておこう。
「質問たってよ~「どうやって生き返ったのか?」なんて聞かれても知らねぇんだよ。まだそっちの紫に聞いたほうがわかんだろ」
「私だってわからないわよ…。金神領で色々あって疲れたから緑に…緑の死骸に雑用させてたら急にものすごい力の奔流が駆け抜けて行って…そんで気が付いたらなんか生き返ってたのよ!」
えぇ…そんなことあるんだ…すごいなぁ。
「…生き返ったと言うのは確かなのですか?」
「んだぁ?こんなに血色がいい私を見てそこを疑うのか?」
「…少なくとも私の力の支配下からは完全に抜け出しているわ」
ヴィオさんは死骸を操る。
その能力の支配下から抜けているという事は…確かに生き返っていると言えるのかもしれない。
びっくり体験でどひゃーっ!である。
「…アヤメは確かに死んでいた。でも生き返った…死者の復活…死因は呪槍…まさか…」
せーさんが顔を上げて私を見る。
何故私を見るのせーさん。
いや、せーさんは意味のないことはしない!だから私を見る意味があるはずなのだ。
考えろ私!これからは自分で考えて動くと決めたのだから。
むむむむ~!………。
────はっ!?
わかった。完全に理解した。
いまのせーさんがわざわざ私を見る理由なんて一つしかない。
確かまだストックがあったはず…。ごそごそ…お、あったあった。
「はい、せーさん。どうぞ」
「…なんですかこれは」
「非常食のお菓子。お腹が空いてたんでしょ?」
「…ありがとう。ですが大丈夫です」
クッキーを渡したけどジャーキーのほうが良かったのかもしれない。
今持ち合わせがないので後で渡しておこう。
「んだ?大将。もしかして何か心当たりがあるのか?」
「…あると言えばありますが…推測の域を出ません。つきましては金神領で何があったのか詳しく話してもらってもいいですか?メアに紫。それとエクリプス。あなたはあなたでなぜ金神領に?」
「えっとぉ~それにはふかぁい事情がありましてぇ~…」
エクリプスちゃんとせーさんが何やら話し込み始めたので私はクッキーを手にアヤメちゃんとお話をしてみることにした。
「これお近づきのしるしですん」
「あん?いいって。菓子をチビから貰えるかよ。自分で食いな」
「むむ…」
「なにか話でもしたいのか?別に手土産なんかなくても話くらいできらぁ」
「ですかぁ~。じゃあ聞いてもいい?」
「おう。何でも聞きな」
とのことなのでちょっと気になっていることを聞いてみることにした。
「アヤメちゃんってリョーちゃんのお母さんなんでしょ?」
「おう。まぁちゃんと母親やれてたかは微妙だけどな」
「んー…会いに行かないの?」
「チビにか?…そのつもりはねぇよ」
「ないの?お母さんなのに」
「聖から少し聞いたが…あいつはもうこの国でうまくやってるんだろ?もう私の死に折り合いをつけて今を生きてんだ。そこに私がまたのこのこ出て行ったらそれをぶち壊すだけだろ。それに生き返ったと言っても理由がわからねぇんだぞ?つまりは次の瞬間にはまた死ぬかもしれん。そんなことになったら無駄にチビに親の死をまた見せるだけだ。だから私たちはもう会わないほうがいいんだよ。わかるか?」
むぅ…確かに言わんとせんことは分からないでもない…かもしれない。
でも…私と言う子供の視点で言わせてもらうのなら…。
「だとしても私はもう一度…会いたいよ」
おっと。
ついついまた私らしくないヘンテコで恥ずかしいことを言ってしまった。
お口チャックだ。
「だとしても…私は会わないよ。龍だって生きている以上はいつか死ぬんだ。出会って楽しく過ごして別れて…悲しみに折り合いをつけて…そうやって生きていくんだ。そこに死人がねじ込まれたら何かが狂う。ま、私がそう考えてるだけだからそれが全てとは言わんが、私がそう考えている以上は私の意見は変わらんってな」
「そっか」
人はそれぞれ、家庭もそれぞれ。
それがこの人とりょーちゃんの関係なのだとしたら…これ以上は口を出さないほうがいいのかもしれない。
でも…りょーちゃんはどう思っているんだろうか。
少なくとも私はりょーちゃんから母親の話を聞いたことはない。
金神領ではおおよそ家族とは言えない家族関係を見た。
ならりょーちゃんたちは?…気になるけれど、それこそりょーちゃんがなんとか折り合いをつけているという状態なら、それを無神経に聞き返すことで辛いことを思い出させることになるかもしれない。
そうだとすると気軽には聞けないよねぇ…。
まぁそれはそれだ。
もしこの話が私に縁のある話なのだとすれば…いつかきっと聞くことができるだろう。
だから今は考えないようにしよっと。
そうやって一人で納得していると、突然せーさんが机を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。
その手には…数枚のお手紙が握られている。
どうやらエクリプスちゃんが渡したものらしい。
「せーさんどうしたの?」
「少々用事が出来ました。数日ほど留守にするのでアザレアに伝えておいてください。エクリプスはソードと白神教会のほうにお願いします」
「はぁい」
「どこにいくの?」
「金神領へ。どうやら私と「お話」をしたい者がいるようなので」
そうしてせーさんはそのまま出て行ってしまった。
相変わらず行動力の化身だなぁ。




