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幼女ドラゴンは生きてみる  作者: やまね みぎたこ
金色編

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310/321

長い夜

 くもたろうは金神教会の一室で薄着に身を包み、座っていた。

周囲には同じような格好をした女が複数人同じように座っており、くもたろうは気が気ではなかった。


彼がなぜそんなことになっているかと言うと、簡単に言えばポリアデルスに口説き落とされたためだ。


(あのオヤジ…こっちが真面目な話をしようとしても全部遠巻きにウチの態度次第みたいな空気にしやがるっす…シカトしてもいいんでしょうけど…くっ…!)


────いいかいくもたろう。一晩だ。一晩だけこの私に付き合えばキミの望むものを全て与えよう。金も、情報も、なんでもだ。


────たった一晩。キミが失うものは時間のみ。そしてそれに見合った体験をキミはするだろう。なぁに最初は退屈かもしれないが、最後にはキミも気に入ってくれるはずさ。自信があるんだ私には。


ねばついた…それでいて少年のような純粋な輝きを秘めたポリアデルスの視線を思い出すたびにゾワゾワとしたものがくもたろうの背筋を駆け巡る。


くもたろうはただ女装が好きというだけで性的趣向自体は至って普通だ。

故にポリアデルスの欲望を受け入れることなどあってはならない。ならないが…。


(あのオヤジは明らかにいろんなことを知りすぎている側の人間っす…現にそこそこ長生きしてるウチや聖龍様でさえ知らないような死縛獣の事を知っていた。そんな枢機卿の情報をウチが一晩我慢するだけで手に入れることが出来るのなら…ぐっ…お嬢様…申し訳ねぇっす…!!)


人知れず一世一代の覚悟を決めるくもたろう。するとその握りしめた手に、誰かが優しく触れた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、お嬢ちゃん」

「えっ」


それはくもたろうと同じようにこの場所に連れてこられたであろう女性の一人だった。


「ここに来たのは初めて?」

「え、えぇはいっす…」


「そう。あなたもきっと税が払えずに連れてこられたのでしょう?そんなに震えちゃって…でもね怖がらなくても大丈夫よ。そんな大したことなんてないんだから」

「えーと…お姉さんは何度か…?」


「ええ。ウチの村…この首都から少し離れた場所にあるのだけど今年は不作でね…払えない税の代わりに私が宛がわれてきたってわけ。でもここも酷いことになってしまったでしょう?どうなる事かと思ったけれど、神父様のため込んだ私財で何とかなるんですって。太っ腹よね」


あ、見た目の話じゃなくてね?と女性は笑う。

語られた悲惨な経歴とは裏腹に、女性自身には陰りのようなものは見受けられず、この状況を受けれているようであった。


いや、その女だけではなく、周りにいる他の者達もみんな同じような経歴らしいが、緊張や絶望を浮かべるどころか楽しげに雑談すらしている。


(か、覚悟決まりすぎっでっしょ…!それともこれが女性の強さってやつなんすか…!?うぐぐぐぐぐ…!!う、ウチだって男っス!やってやる…やってやるっすよ…!!お嬢様…!)


くもたろうがここまで躍起になっているのには事情があった。

それは関係者全員にセラフィムから伝えられていることだが、現在起こっている不可解な事件、現象はメアに起因もしくは関係している可能性が非常に高い。

だからどんな些細な情報でもあれば収集してほしいと秘かにセラフィムから頼まれていたのだ。


本当ならば情報なんかいらねぇ!とすべてを蹴飛ばして帰りたい。

だが、もしここで手に入れた情報が巡り巡ってメアの助けになる可能性があるのなら…くもたろうには覚悟を決める以外の選択肢はなかった。


なによりくもたろうは感じていた。

最近のメアは何かおかしい。…ふとした拍子に消えてしまいそうに思ってしまう時があると。


何故そんなことを思うのか分からない。

だがどうしても感じてしまう。

だからこそくもたろうはメアの言い分を無視してまで金神領についてきたのだ。


彼とて目の前でイルメアの死を見届けてしまった者の一人…あの時のような後悔はもうしたくない。


「すぅ~…ふぅ…いつでもこいっす…」


そしてとうとうその時がやって来た。


その場にいたもの全員がポリアデルスの私室に呼ばれ…入室させられる。

当たり前と言えば当たり前だが、中には神父の服を脱ぎ捨てラフな格好となったポリアデルスが待ち構えており、勧められるがままにくもたろうと女たちは大きなソファーの上に座らされた。


(ええ!?一気に全員ででっすか…!?ヤバすぎだろっす!この好色じじぃ…!!)


「ふむ!よく来てくれたね皆。特にくもたろう!口説き落とすのに時間がかかっただけに、この胸の興奮を抑えきれないよ。ふひひひっ!」

「ひぃぃぃぃいい!!」

「あら神父様。それでは私たちがおまけみたいではないですか」


「いや!それはすまなかったね。つい誤解を与えるようなことを言ってしまった。もちろんキミたち全員平等に私は扱うつもりだよ。なにせ我が国から集めた美しい者たちだからねぇ…ふふふ…」


(やべぇ…!ほんとにやべぇっす…!!絵にかいたような悪徳変態ゴミ貴族っす…!なんで他の皆はむしろ受け入れているような感じなっすか!?金!?やっぱり金なんっすか…!?)


冷汗が止まらないとはまさにこの事。

全身の汗がにじむことが可能な部位から無限に汗を流しつつ、くもたろうは人生最大の修羅場を迎えようとしていた。


そして…。


「さて…では始めよう。ぶひひひぃひひ!」


気色の悪い笑い声をあげ、ポリアデルスは立ち上がり!


おおきなキャンバスを取り出した。


「…ん!?」

「む、どうしたね?くもたろう」


「いや予想だにしないもんが出てきたんで…なんすかそれ」

「なに?どう見てもキャンバスではないか」


「…それでなにをするつもりなんっすか?」

「キャンバスの使い道など一つしかないと思うが?」


ポリアデルスの手にはすでに筆が握られており、これから何をするかなど一目瞭然である。


「…は!?まさか絵にして残そうと…!?」

「んん?それはそうだろう?何を驚いているんだい?」


どこか噛み合っていないようで、お互いに頭上に「?」を浮かべて首をひねりあう二人。

そこでくもたろうの隣にいた女性が手をあげて間に入った。


「あの神父様…もしかしてですけどこの子に何をするのか伝えていないのでは…?」

「むむ?いや伝えたはず…む…?」

「ウチも聞いたはず…ん?」


────そう言えば直接は言っていない気がする。

────そう言えば直接は聞いていない気がする。


ほぼ同時にそう思い至った時、部屋にもう一人のゲストが入ってきた。


「あぁ~遅れてすみませんねぇ~どうもどうもぉ~はぁぃどうもぉ~」


ぺこぺこと頭を下げながら慌ただしく入ってきた特徴的な喋り方をするその人物は…。


「エクリプスさん!?」

「おやぁ~、くもちゃんさんではないですかぁ~ここにいるということわ~やはりぃたどり着いたという事ですねぇ~さすがですぅ~。いやぁ~いろいろと落ち着いたらぁ~むしろくもちゃんさんにはこっちからぁ声を掛けようと思っていたんですょぉ~ぉ~ぉ~」


「え?え?え?どどどういうことですか…?あなたにはソード様っていうパートナーがいるはずっすのに…」

「いやぁ~ソードはこーいーうのにぃ~微妙に~理解が無いですからねぇ~声をかけてないんですよぉ~ぅ」


「え?へ?そりゃ声なんてかけられないでっしょ…え?なに…?」

「んん~?どうしたんですぅ?くもちゃんさんもぉ~この人…ポリちゃんが有名服ブランドを取り扱っている【ポーズ商会】のオーナー兼デザイナーであることを知ってぇ~コンタクトを取ったんでしょぉ~う?」


「え…えぇえええええええええええええええええ!?!?1?!?!!!!!!???!?」


────────────


「わーはっはっはっははははは!そうかそうか!なにやら妙な誤解をさせてしまっていたようだね。申し訳ない」

「いや…マジでビビったっすよ…今もビビってるっすけど…ポーズ商会のブランド服って…え?マジで言ってるんっすか…?ウチもめちゃくちゃ買ってるんでっすけど…可愛い服多くて」


「うむ。美しい女性をさらに美しく着飾らせるのが昔からの趣味でねぇ…それに金にもなる。実際に得た金銭と言う話をするのなら神父業よりも遥かに多いからね。ただ国のトップがそう言う事業に手を出していると大々的に言うのもね。利権や、便宜を図ってもらっているなどと思われては癪だろう?ということで回りくどく伝えることにしているのだが…いやはや、それが癖になって妙な伝え方になってしまっていたよ。申し訳ない」


「なるほど…じゃあ今からやろうとしてるのは…」

「神父としての業務が終わった後にモデルたちを見てインスピレーションを得るのが至福の時でね。周りにいる彼女たちには税の免除や借金の肩代わりを守秘義務と共に報酬を私が支払う事で付き合ってもらっているという訳だよ」


「は…はぁ~…え?じゃあエクリプスさんは…?」

「私わぁ~実は~ポーズ商会さんは昔から利用させてもらっていてぇ~んでぇ~ソードのサイズに合う服ってぇ~中々ないじゃないですかぁ~あっても可愛くないのとかぁ~えっちじゃないのばかりでぇ~だからぁお手紙を送って~こーいうー服作れないですかぁ~ってぇ~。そーしーたーらーこのポリちゃんがそのデザインを気に入ってくれましてぇ~」

「それからはエスちゃんとは服のデザインについて色々と文通をしあう仲になったわけさ」


マジすか…とくもたろうは絶句する。

そしてとあることに気が付いた。


「え?待ってっす。つまりエクリプスさんって…昔からこの神父と関りがあったって事っすか!?いいんすかそれ!!」

「いやぁ~絶対ダメと思うんだけどぉ~それを知ったの~実はついさっきでぇ~」


「そうなんすか…?」

「はいぃ~」

「まぁ私の方は実は既に彼女の身分を知っていてね。あんな素敵なデザインセンスを持つ女性など興味を持たないほうが嘘だろう?だから調べてしまってね。その結果こちらは身分を明かさないほうがいいだろうと隠していたんだ」


「私もぉ~正体を隠してるデザイナーさんの~正体を暴こうとは思わなかったですからねぇ~。やんごとない理由があるかもしれませんしぃ~。だからびっくりですぅ」

「それじゃあなんで今になって正体を明かしたんっす?」

「それは追々ね。キミもそう遠くないうちに知ることになるさ。それよりも今は…この夜を楽しもうではないか!」


そうしてポリアデルスはくもたろう達をモデルに新たなデザインの施策に取り掛かり、その作業を興味深そうに眺めつつ時折口を出すエクリプスも含め長い夜を過ごした。


最終的にくもたろうもキャンバスの上に出来上がっていく服のデザインにテンションをあげ、またくもたろうという新たな扉を開いたポリアデルスが既存の服の組み合わせによるファッションショーを開催したため、お祭り騒ぎになったという。

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― 新着の感想 ―
駄目だこの女装看破おじさんこいつ負けてギャグ堕ちするタイプの民だ! あんな悪役オブ悪役してたのにどうしてこんなことに…
まぁなんかボタンの掛け違えがあるような気はしてたけど…想像してた以上に健全度が高かった… なんかもうメアさんサイドとの温度差で風邪ひきそうだぁ…w
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