黄金を侵す毒
メアに投げ飛ばされたニョロはブーメランのように回転しながら死縛獣の横を通り過ぎ、勢いのままにマリーすらも通り越す。
「────!?…────!!」
ニョロは身体を気合で「く」の字に曲げ、ブーメランの要領で軌道を修正し、結果としてマリーの元まで辿り着いてその身体にぶつかって自然に落ちた。
「────」
いくらニョロの姿が小さな蛇とはいえ、かなりの勢いでぶつかったというのにマリーは膝を抱えたまま身動ぎの一つすら見せない。
「────…────!」
頭で身体をつついてみても反応を見せず、それでも何とかしようとニョロはその脚に噛みついた。
だがやはり反応はなく…そして次の瞬間、ニョロの身体を何かが掴んだ。
「──!?」
それは黒い手のように見えた。
いや、見えるだけでその実態は黒い泥のような何かだ。それが手の形をしてニョロを掴んでマリーから引き剥がそうとしていた。
それだけではなく泥はマリー飲み込むように徐々にその身体を侵食しており、マリーはそれにすらも抵抗を見せない。
「…!!」
意を決してニョロは静かに目を閉じ、全身に力を入れる。
そうして次に目を開いた時には視点が上がっており、再びニョロは人型に戻っていた。
普通はできないが、何故かこの世界ではある程度自身の姿をコントロールできるようであった。
人型に戻ったニョロは両手を振ってなんとか自身とマリーに取り付く泥を払おうとするも思うようにいかず苦戦を強いられる。
泥はマリーを飲み込もうとするが、逆にニョロを排斥しようとする。
見た目も触った感触も泥なのに、想像できないほどに力が強く、ニョロの力では押し切ることができない。
だからといって諦めることはできず、ニョロはありったけの力を振り絞って泥に抗っていく。
しかし…抗いきれない。
どれだけ力を振り絞っても、どれだけ想いを込めても…ただただ届かない。
「───…」
泥を通して伝わってくるのは黒く歪んだ声。
『我が子(黄金)に触れるな!!』
『穢らわしい汚色の黒めが!!』
『我は荘厳なる金の龍!何物も汚されず、すべてがひれ伏すべき輝きを持つ龍なのだ!』
『お前のような汚点は消し去らねばならない!』
『この娘を利用し、我が黄金に嫉妬し、排斥した愚かなる龍共に制裁を加えるのだ!』
『そして我こそが世の頂点に君臨するにふさわしい輝きを持つのだと知らしめてくれよう!!』
泥に渦巻くのは先代の金龍の怨嗟の声。
怒り恨み妬み。
自信を排斥した龍たちへの怨み。
自分と言う黄金に対して肥大化しすぎた自尊心。
そこから生まれてしまったニョロという黒色への焦りと怒り。
ありとあらゆるドス黒い感情が金が混ざりこんだ泥となっている。
「…────」
ニョロは知っていた。
自分の事はともかく、龍たちの世界から追い出されたことに対しては逆恨みだと。
ニョロの正体が発覚したのち、金神領に旅立つ前にセラフィムは先代の金について語っていた。
『あなたがどう思っているかは分かりませんが…先代の金はほんとうにどうしようもない龍でした。ただ世界を乱しうる毒と言う能力を持っているというだけではなく、それを振るうことに何のためらいも持っていなかった。他者を等しく見下し、自信を常に上位に置いてそれ以外の何もかもに何をしても許されると思い込んでいた。まさに愚かな龍でした。だからこそ我々は何か問題を起こせば総力を挙げてあなたを潰すと宣言したのちに彼女を追放したのです。殺さなかったのは改心を期待したから。ですが結果は…』
そしてヴィオレートも金龍を指して救えない龍と言い切った。
力が無いのにプライドばかり膨れ上がった愚かな龍だったと。
諸々を鑑みるにおそらく先代の金は最終的にマリーを使って龍たちに復讐をするつもりだったのだろう。
そんな事させるものかとニョロは半身に手を伸ばす。
だが…届かない。
ニョロとマリーの前に泥の大波が現れた。
もうだめかもしれない…あと数秒後に二人は泥に呑まれてしまうだろう。
それでも…とニョロは手を伸ばし続けた。
「────!!!」
「…」
力は足りない。想い届かない。何もかもが足りなかった。
だとしても最後までニョロは諦めなかった。
そしてその想いは…。
「ねぇ…ね…」
「────!!」
やがて泥の波は二人を飲み込────
「どーーーーん!!!」
────む寸前で落ちてきた巨大な何かに弾き飛ばされて霧散した。
「────!?────!!?」
並の上に置いてきたのは…鱗に覆われた巨大な腕だった。
それは死縛獣の腕のように見えた。
「────…」
そう、この場所にはいたのだ。
「ほわっはははほほほっほー!」
謎の奇声を上げながら死縛獣の腕を切り落としたのはニョロの最強無敵の主だった。
最近ちょっと自身もシリアスをやっているのに他人のシリアスは空気を読まずに潰していくゴーイングマイウェイ系主人公。




