投げ届けてみる
「ほわぁーっふぅうう!」
迫りくる顔のないマリちゃんズの間を駆け抜けながら、行く当てもなく走り続けてはや10分。
どれだけ行っても景色は変わらず、またマリちゃんズを撒くこともできない。
なんかどこまで行っても近くから無数に湧き出てきてキリがない。
なんとなくだけどこのまま走っていても仕方がない気もするし…どうしませうかね。
一応脱出するだけならたぶんできる。
でもニョロちゃんはここで何かやりたいことがあるらしく、私の首に装備されたままきょろきょろと首を動かしている。
だからまだ出るわけにはいかない。
…仕方なし。少しだけやり方を変えてみますか。
「方針変更!勢いをつけてー…どーん!!」
180度ターンからの飛び蹴りでマリちゃんズを文字通り蹴散らす。
知り合いだからって最初以外は遠慮していたけれど、逃げて無理なら倒すしかない。
それでもだめならまた考えればいいさー。
「ほわちゃーーーーーー!」
マリちゃんズの一人を捕まえて振り回し、他を薙ぎ払う。
スライディングで数十人転ばせてからの踏みつけコンボを披露する。
投げて飛ばして殴って蹴ってたまに踊って張り倒して踏みつけて干し肉食べてニョロちゃんを撫でて一息つく。
「きりがないねぇ」
「────」
なんとなくそんな気はしていたけれど、どれだけ倒してもやっぱりずっとどこからともなく湧き出てくる。
なんてこったいマリちゃんハザード。
最初の方はビジュアルも相まってホラーで怖かったけれど、さすがに数が多すぎてもう慣れた。
しかも一体一体は別に強いわけでもなく、本当に作業のようになってしまい、閉塞感を感じ始めた。
これはもうほんとにどうにかしないといけない。
どうしようかなと頭を悩ませていたところであることに気が付いた。
マリちゃんズは基本的に跳びかかってくるとか手を伸ばしてくるみたいな攻撃をしてくるんだけど…どうも狙いは私ではないらしい。
「このマリちゃん達…ニョロちゃんを狙ってるよね?」
「────」
手は私の首に伸びてくる。
そして私の首にはニョロちゃんが装備されているわけで…。
むむむ…一度確かめてみるか。
「ニョロちゃんいい?」
「────(こくり)」
「よぅし、いっけーニョロちゃんカッター!」
ニョロちゃんを掴んで空目掛けて投げる。
するとマリちゃんズはやはり私になんて気にも留めず、空に投げられたニョロちゃんに穴の開いた顔を一斉に向けて手を伸ばし始める。
やっぱり狙いはニョロちゃんだ。
当然だけどニョロちゃんを渡すわけにはいかないのでドラゴンクローでニョロちゃんに気を取られているマリちゃんズを全員切り倒す。
そして空中ジャンプでニョロちゃんを回収しれ再び装備。最期に華麗な着地を披露して終了。
うーん…あまりにも無駄のない一連の動き…ブラックドラゴン評価で10点満点でしょう。
賞品はオレンジ1年分くらいほしい。
「…──!────!────!」
ぺしぺしとニョロちゃんに尻尾で頬を叩かれた。
「どうしたのん?あ、投げる時力入れすぎた?ごめんね」
「────!」
違うらしく、ぺしぺしと何度も頬を叩いてくる。そしてその後に尻尾の先を明後日の方向に向けた。
「もしかしてあっちに行きたいの?」
「────(こくこく)!」
ニョロちゃんは何かを感じ取っているみたいだけど、私は相変わらず何も感じない。
でもここはニョロちゃんの感覚が正解だろう。姉妹だからこそ感じるものがあるのかもだしね。
じゃあ行ってみよう!
「ふぉおおおおおおおおー!」
ニョロちゃんが指し示すほうに全力で走る。
途中やっぱり急に出てくるマリちゃんズに襲われるけど、それをドラゴンクローで排除しながら走り続ける。
すると今まで変化のなかった世界に異変が起こった。
「────」
「声がきこえるね」
たぶんだけど…マリちゃんの声が聞こえる。
ただそれは話しかけてきているというよりは独り言のようで…心の声が漏れてしまっているような感じだ。
マリちゃんが生まれてからの話…いや、独白?そんなものが聞こえている。
「…」
マリちゃんの話が進むにつれてニョロちゃんが何かを言いたげに口を開いては項垂れている。
「ニョロちゃん。言いたいことがあるのなら飲み込まずに言った方がいいよ。聞こえなくてもさ…言おうとすることに意味はあると思うんだ」
「…」
母が言っていた。「出来ないこと」と「やらないこと」は違うと。
たとえそれが不可能な事でも、どうせと諦めればそこで終わり。逆に何かをしようとすることで形にならずともそこに想いは生じるんだって。
「だからきっとニョロちゃんの言葉も届くよ」
もしかしたら私は残酷なことを言っているのかもしれない。
でも聞こえてくるマリちゃんの言葉からはニョロちゃんへの想いが痛いほどに伝わってくる。
二人とも誤解してすれ違っているんだ。
ニョロちゃんだってマリちゃんの事でヴィオさんに怒るほど想っているんだから。
もしかしたら伝わるかもしれない。
何もしないなら…「もしかしたら」という可能性すらないんだから。
「ニョロちゃん。どうする?」
「…。────!」
意を決したように顔を上げたニョロちゃんが口を大きく広げた。
私には伝わらないけれど、きっと大声で叫んでいるんだってことくらいは分かる。
「────!!!────!!!!────!!!!!」
届くといいな。
時間はかかったのかもしれないけど、マリちゃんはまだここにいてニョロちゃんは戻ってきた。
同じ場所にいるんだからきっと伝わるし伝えられるはずなんだ。
長い時間離れ離れになっていたのだとしても生きているのならきっと…。
私の声はもう会いたい人には届かない。
だってもう死んでいるから。
考えないようにしているけれど、ふと思う時がある。
もっと話をしておくべきだったとか…もっとあんなことを言っておけばよかったとか。
後悔してもどうしようもない後悔。
二人にはそうなってほしくないって思う。
届けられなくなってからでは遅いから。
その時ふと頭の中に一人の女の子の姿が浮かび上がってきた。
赤い髪の…私をお姉ちゃんと呼ぶ女の子。
あの子は…私に何かを伝えようとしているのだろうか。
それを私は受け取れていないのだろうか。
…やっぱりもう一度ちゃんとお話をしたいな。
「────────!!!!!!」
「あ」
何か…突き抜けたような感じがした。
薄い膜を破って通り過ぎたような…。
お魚の包み焼きの包み部分にナイフを入れたかのような…まぁ私は包みごといきますがね。
とにかく私たちは景色が変わったわけではないけれど、明らかに先ほどまでとは違う場所に辿り着いた。
そして…そこにマリちゃんがいた。
こちらに背を向けて膝を抱えて座っている。
「…うん、さっきも見た光景だけど…」
「────!」
ニョロちゃんが反応している。
私にもさすがにわかる。このマリちゃんからは…さっきまでのマリちゃんズとは違い、存在感を感じる。
今度こそ…本物だ。
「────!」
「マリちゃ…!」
ズドン!と私達とマリちゃんの間に邪魔をするかのように何かが勢い良く墜ちてきた。
それは死縛獣のように見えた。
でもマリちゃんじゃない。見た目が少し違う。
謎の死縛獣からは明確な怒りの感情が伝わってきていて…その視線はマリちゃんズのようにニョロちゃんに向けられている。
…なんとなくわかったかもしれない。
「────…」
ニョロちゃんもなんとなくそれの正体を…多分私よりも強く察しているんだろう。
謎の死縛獣から黒い液体のようなものが染み出し、それが座り込んでいるマリちゃんに纏わりついて黒く染めていく。
そこから感じるのは執着。
ただしそこから愛情のようなものは感じない。
愛を伴わない執着と憎しみ。
つまりこれは…話に聞いて、さきほどのマリちゃんの独白にも出てきた先代の金龍だ。
「んー…何がどうなってこうなってるのかサッパリだけど…まぁこればかりは考えなくてもよさそうだね」
「────…」
「おーけーおーけーみなまで言うでないよニョロちゃん。そうれいけぇー!ニョロちゃんカッターアゲイン!」
「────!」
ニョロちゃんをマリちゃんに向かって勢い良く投げる。
「行ってニョロちゃん!そっちはキミのやることだよ!」
「────!!」
きっと今のマリちゃんに一番必要なのはニョロちゃんだろう。
当然だけどそれはニョロちゃんにしかできないこと。
そして私は私のできることをしようじゃまいか。
マリちゃんに向かって飛んでいくニョロちゃんを死縛獣がその大きな腕で攻撃しようとする…のをドラゴンユビカラビームで迎撃。
「二人の邪魔はさせないよ。ニョロちゃんがお世話になったみたいだし、お礼にこの私がお相手しませう」
私は他人だから先代の金龍が何を思って行動していたのか…その真意は分からない。
だけど子供に酷いことをする親なんて許してはおけない。
龍は元来、家族というものに対してドライとは聞いたけれど…それにしたってと言う話だ。
これは完全に個人的な理不尽な感情だとは思うのだけど…なんとなく腹が立つのだ。
私と母の関係を馬鹿にされたような感じがしてさ。
「まぁほら…悪い事したら「めっ!」でことでね。ぶちのめしますね、はい。滅します。滅ということでね」
メアさんは「~しませう」を「せう」とそのまま発音しています。




