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幼女ドラゴンは生きてみる  作者: やまね みぎたこ
金色編

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概念の龍

「なんすか…あれ…」


思わず漏れ出たといったくもたろうの言葉は二人を除いたその場の全員のそれを代弁した言葉だった。


くもたろうとネムはニョロが死縛獣に食われ、メアまでもがその後を追ったという異常事態だと言うのにもかかわらず、それでも今彼らの視線の先で起こった光景から目を話すことができなかった。


それは困惑と混乱からくるものだったが、ポリアデルスだけは違う。

彼だけが明確な諦めの感情を持って…。


「…あぁ、本当に…これで終わりだ」と…そう言った。


「ポリアデルス…お前…アレが何か知っているんだな…?なんなんだあれは…もう煙に巻くことは許さんぞ」


ストガラグが胸倉を掴み、決して軽くはないであろうポリアデルスの身体を持ち上げながら問い詰める。


「別に今までも煙に巻いていたつもりはないがね。ただ何を言うにも前提というものが──」


その言葉を遮るように肉の蓄えられた頬を、飛んできた鋭いナイフが掠めて傷をつけた。


「おう、そう言うのが煙に巻く言うんじゃ。長持った言い回しも、余計な枕詞も訳の分からん言い訳もいらん。目の前で起っちょることに対してだけ簡潔に言えや」


ナイフを投擲した張本人であるカルラは、いつもの調子を引っ込め、イラついたような声色を投げかける。

そしてその視線はポリアデルスではなく、空に向けられていた。

カルラだけではなく、その場の…いや、現時点で金神領にいるほぼすべての者が空を見上げているのだろう。


なぜならば「それ」は空にいるのだから。


「…龍は呪骸の影響を防ぐことができない。それが龍と言う種を定義する特徴という話はしただろう。その理由があれだ」


アレが何を指すのか…ポリアデルスは指を差したりはしなかったが、誰もが理解していた。


「アレが呪骸と関係があるというのか」

「呪骸は…【死想】を集める。死という概念を内包した物質故に、それに引き寄せられ死想が集うのだ。そして龍が呪骸の影響を防ぐことができないと言うのは厳密にはそこに付随する【死想】の影響を何よりも強く受けるためなのだ」


龍は概念を基にする半生命体。

それゆえに死という概念に対する思いから生まれる【死想】に影響されやすい。


「…混ざりやすいと言ったほうがいいだろう。我々肉体という完全な肉の器に捕らわれた生命より、概念と言う抽象的な物が存在の根幹にある龍は死想が簡単に混ざってしまう。だから龍は…その身に集る死想が許容量を超えた場合に【死縛獣】に変貌してしまう。それこそが龍と言う種の生態だ」


だが…と前置きしてポリアデルスも空を見上げた。


空にはいつの間にか暗雲が立ち込めており、それが渦を巻くようにして金神領の空を覆い尽くしている。


そしてその雲の渦の中心…そこに見たこともない化け物がいた。


ニョロとメアが喰われた後、死縛獣の身体が解けるようにして空に消え…そして現れたそれはあまりにも巨大だった。


その見た目は…死縛獣を巨大なトカゲの化け物だとするのなら、空にいるそれは巨大な蛇の化け物のように見える。

死縛獣から引き継がれた恐ろしい形相はそのままに、どこまで続いているのかもわからない、細長い身体が雲の隙間から覗いている。


そんなモノが空を支配するかのように陣取り、怒りに染まったかのような顔で地上を睨みつけているのだ。


「…死縛獣とは終わりではない。始まりなのだ。龍に混ざった死想はその肉体を死縛獣に作り替え…やがては肉体そのものを死想に変えていく。そうして龍は肉体を失い、完全な【概念】と【死想】だけの生命体となる。それが…アレというわけだ」

「…危険はないのか…?」


そんなはずはないと思いながらもストガラグは一縷の望みに賭けるかのようにそうポリアデルスに問いかけた。


呪骸なんて比ではない…それほどまでに感じる死の存在感。

そんなものを発する存在が無害なはずはない。

しかし空の怪物はただ雲の中の身体を時折蠢かせているだけで襲い掛かってくるような様子はない。


だからこそストガラグは希望に縋ってしまったのだ。


「いや…アレが現れた時点ですでに終わっているんだよストガラグ。襲う襲わないではない…もう、すべては終わっているんだ」

「何を言って…────っ!ぐはっ…!」


ストガラグが突如として口から大量の血を吐き零した。


何の前触れもなく…ただなんとなく喉が詰まったような感じがして、小さく咳をしたくなった。

ただそれだけだったというのに、喉の奥から夥しい量の血が流れてきて口からこぼれたのだ。


そして次の瞬間には視界に霞がかかったかのようになり、今自分が立っているのかどうかすらわからなくなった。


そのまま受け身も取れずに地面に倒れ、やがて目や耳からなにかが流れ出いるような感覚を覚える。

それが血だと気が付くのに…そう時間はかからなかった。


「始まったか…」

「ぐっ…なんじゃぁ…これぇ…ごほっ…!」


ストガラグと同じようにカルラも血を吐いて倒れる。


「なぁ…!?ちょっ…そっちの二人どうしたっすか!大丈夫なんすか!?」

「…他人の心配をしている場合ではないぞ。すぐにキミらもこうなる。生き残り避難していた市民たちも…既にこうなっているだろう」


「な、なんでそんなことに…」

「言っているだろう?アレが現れた時点で終わりなのだよ。死想と龍が持つ概念…それが混ざったのだ。あれこそ死の概念だよ。おそらく金龍が持っていた毒と言う概念が死想と共に広がっているのだろう…そう長い時間もかからずに周囲のすべての生命は毒と言う概念によって死に絶えることになる。当然…この私もね」


そう言うとポリアデルスは膝をつく。やがて顔中の穴から血が流れ始め、血を濡らしていく。


「おいおい、マジヤバじゃねぇっすか…!銀龍様!あの空のバケもんに何とか攻撃できねぇっすか!」

「…」

「無駄だよ…くもたろう…あれに既に肉体はない…。目に見えていはいるが、その身を構成しているのは概念と死想…触れることすら叶わないよ」


「だからって何もしないのなら死ぬしかないのではなくて?」

「そう…だから終わりなのだよ…ごほっ…!」


とうとうポリアデルスまでもがひざを折り、地に沈む。


もはやこれまでか…と諦めかけたところでふとした違和感を覚える。


なぜくもたろうたちは未だに無事なのだろうか…と。

死はどんな命に対しても平等だ。

例えそれが人でも魔物でも…動植物だとしてもそこに区別はない。

生きていれば等しく死ぬのだから。


それゆえに空の怪物は全てを殺し尽くすのだ。


しかしくもたろうたちは未だに健在で、血を吐く等の症状が出ている様子はない。


ポリアデルスはその類稀な観察眼によりくもたろうが普通の人間ではなく、魔物であることに気が付いている。

だから多少は人よりも耐性がある…と言い訳ができないこともない。

しかし普通の人間であるはずのネムも何の症状も出ていないと言うのは明らかにおかしい。


「な、なぜ…なぜ君たちは無事で…」

「皆さん!大変…大変なんです…!避難していた人たちが突然…!あ…ストガラグさん!カルラさん!そんな…大丈夫なんですか…!?」


息を切らせながら別行動していたはずのスレンが走ってやってきた。

そしてそのまま倒れた仲間を心配して慌てだす。


「馬鹿な…なぜ…彼も無事…なのだ…」


スレンにも毒の影響は出ていなかった。

その様子から、やはり避難していた市民にも被害が及んでいるのだろうと予想はできる。

だからこそスレンが無事だと言うのはやはりおかしいのだ。

あり得るはずがない。


その時、空の上で「ドンッ!」と大きな音が鳴った。


雷を雲の上で何者かが太鼓を鳴らしていると表現する者もいるが、それはまさに太鼓のようだった。

ただしそれはやはり雷のようなものではなく、あえて表現するのなら空そのものを拳で殴りつけたかのような…そんな音だ。


その音が何なのか…血を吐き出しながらも音を追って視線を動かし…そしてポリアデルスたちはとんでもないものを目撃することになるのだった。

大変申し訳ありません…!現実に忍び寄る魔物に忙殺され更新が滞っております…!

来週もしくは再来週はおそらくですが時間が取れると思われますので少々お待ちいただければと思います…!すみません!

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― 新着の感想 ―
穴掘りお兄さん、名目共に眷属に… メアたんさんも引きますねこれは…
くもたろうくん達眷属組が死毒に耐えてる理由は分かるけど、スレンも死毒の影響を受けてないってことは、スレンも広義の意味でメアさんの眷属化してるのかな? もしくは推定『生』の概念を司る龍?であるメアさんを…
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