掴んでみる
なんか落ちた。ううん、落ちて行った。
皆さんこんにちわんだほー。
穏やかな食欲を持ちながら、激しい空腹によって誕生したスーパーブラックドラゴンです。
聞いてください。
強大な敵の登場にこりゃあこちらも気合を入れないとと思い、とりあえずは力を計ってみようと牽制攻撃をしてみたところ、その相手が黒焦げになって墜落していくではありませんか。
まさか倒してしまった…?いやいや、さすがに私も母と同じような見た目をしているからって、あんな馬鹿げた強さをしているとまでは思っていなかったけれど、これで倒せるとも思っていなかった。
確かに母でも全てまともに受ければ多少痛がりはするかも?程度の力は込めていたけれど…それにしたってだ。
「むむむ…あ、まさか…」
気が付いてしまった。完全に気が付いた。
間違いない。あの死縛獣とやら…やられたふりをしてこちらの様子を伺っているんだ…!
私も母相手によくやったからわかる。
油断して近づいたところを…かかったな馬鹿が!!!っとなるやつだ。
危ない危ない…あやうく騙されるところだったぜぃ。
だけど私は見破った。ならば次は対処だ。
一番簡単なのはここからさらに遠距離火力を叩き込むことだけど、死縛獣くんが落ちるふりをしているのでここから撃つと地上まで巻き込んでしまう。
「ならばゼロ距離からぱぅわーを抉りこむのみ!」
先ほどまで攻撃に使っていた魔力を手のひらに集中し、圧縮。
そうして出来上がりましたこちらのエネルギーボールを握りこみ…いざ突撃!!
これは母と殴り合う時に多用していた技だ。
器用にもパンチができた母だけど、普通にやると当然のように押し負けるので私もこれを使う事で対等に拳を交わすことができたのよね。
その名も【鱗貫き】。
当たれば母の鱗を貫けたことからくもたろうくんが名付けてくれた。
ちなみに私風に言うのなら【ドラゴン・スケイルブロークン・フィンガー】である。
個人的には技名なんて高らかに叫んでこそだと思うので私の案を採用したいところだけど、先にくもたろうくんが名付けてしまったのだから仕方ない。
でも「鱗貫き!!」って叫んでもテンション上がらないじゃん?なんとなくだけど…ねぇ?センスがないよセンスがー。
あの蜘蛛はそういうところがある。ロマンを理解していないのだ。
けしからんよ全く。
まぁとにかくそう言う技で一点の破壊力ではかなりのものだと自負しておりますん。
なのでそのまま死んだふりを続けると言うのなら受けてもらおうではないですか。
そして「かかったな馬鹿が!!」してきても真正面から叩き潰す…!
「うおぉりゃぁああああああああああ!!」
死縛獣が落ちていくのより私の方が速い。
あと10メートル…からの数メートル。
もう手が届く距離まで差し掛かった。
「────!!」
「え!?」
私と死縛獣の間に急にニョロちゃんが割り込んできた。
それも私に向かって身体を投げ出すような形で。
まるで死縛獣を庇っているよう。
いや、そんなことより止まらないと!
「ぬぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」
「────」
ドラゴンは急には止まらない。
しかし絶好調ブラックドラゴンは違う!
私くらいになれば気合で急ブレーキをかけることだってできるのだ。
「危ないよニョロちゃん!当たったらどうするの!」
「…────」
「あれ?そう言えばニョロちゃんどうやって飛んで…」
そこで突然、ぎゅっとニョロちゃんにハグされた。
蛇の時のニョロちゃんを抱いて眠ったことは多々あるけれど、人の姿でぎゅっとされるとまた違うわけで…なんだか新鮮な気持ちだ。
でもいきなりどうしたのだろうか。
「メア様!!」
ネムの声が聞こえた。
そして死縛獣がその大きな口を開けて迫ってくるのが見えた。
まずい、逃げないと。
ニョロちゃんを抱えたまま離脱を…。
「────」
とん。
軽く身体を押された。
「な…」
「────」
ニョロちゃんは私を突き飛ばして…にこっと笑っていた。
そして…。
「ニョロちゃん!!」
何とかニョロちゃんの手を掴んだ。
でも…掴んだのは腕だけで、その先は…死縛獣の口の中に消えた。
「ニョローーーー!」
くもたろうくんの叫び声が聞こえる。
食べられた。
私が掴んだ腕だけを残して…ニョロちゃんが食べられてしまった。
「そんな…ニョロちゃん…うそ…」
ネムの泣きそうな声も聞こえる。
くもたろうくんはずっと叫んでいた。
そして私もようやく…呆然としていて固まっていた頭が動き出す。
私の目の前でニョロちゃんが食べられた。
ううん、私には…ニョロちゃんが自らそうなるように仕向けたように見えた。
なんで…?どうして…?
わからない…何も…。
どうしてニョロちゃんは笑っていたのだろうか。分からないけど…でも…確かなことは私は間に合わなかったという事だ。
「いいや!まだ間に合うね!」
ブラックドラゴンは諦めない。
という事で勢いをつけて大特攻。
死縛獣の牙を蹴り砕きながら口の中、その奥にダイナミックエントリーを敢行した。
「お嬢様ぁあああああああああ!!!?!?」
突入する瞬間、くもたろうくんの声が聞こえたけれど…喉が痛くなったりしないのだろうか。いくら何でも叫びすぎである。
「大丈夫だよ。だってなんとかするもん」
やればなんとかなる。
それが数々の母適当語録の中で、私が割と大切にしている言葉だから。




