暴虐
身体が震える。バイブレーションドラゴンだ。
これは珍しく緊張しているのかもしれない。あるいは武者震いか。
本気で戦うなんていつ以来だろうか…それも今は絶好調ドラゴンでもあるので、それも含めて本当に久しぶりだ。
血が沸騰するような高揚感と…相手が母と同様に強いかもしれないという緊張感が合わさって身体を震わせる。
「あなたはどうかな?私を敵にして緊張してくれる?」
「────!」
マリちゃん…死縛獣が唸り声を上げながら私を睨みつけている。
向こうもこっちを敵としては見ているようだけど、その視線に母のような圧は感じない。
まだまだあちらは余裕なのか…それとも──。
「どちらにせよここまで来たらもう止められないよ。さぁ戦いませうか」
「────────────!!!」
動き出そうとした瞬間、死縛獣がその大きな口を開けて咆哮を上げた。
その咆哮は周囲の風を巻き込み、衝撃波と空を切り裂きながらこちらに向かってくる。
「いいね。でも大声を出すときはもっと身体の奥底から殴りつけるように出すんだよ。こんなふうにね!すぅ───わぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
私だって声で衝撃波くらいだせる。
そしてこの声量対決はどうやら私の勝ちらしく、向こうの衝撃波をかき消して死縛獣に先生アタックを決めることが出来た。
「────────────!!」
続いて死縛獣は口からビームを放ってきた。
いや…どうやらかなりの圧力で吐き出された液体がビームのように見えているだけみたい?
受け止めてみてもいいけど…この感じ、おそらくあれは毒の塊でしょう。
となると下手に受け止めて周囲に飛散させるのは避けたほうがいいかもしれない。
一流のドラゴンというものは周囲に気遣いもできるのですねぇ。
という訳で上に飛んで普通に回避。
そして高度を取ったのでついでに攻撃をしてみようと思います。
かつて母がこんなことを言っていた。
『相手の首筋をトンってやって気絶させるのってスマートでカッコいいよなぁ』と。
そんなことできるわけないだろと今なら言えるけど、当時の幼きピュアドラゴンだった私はそんなことができるのかと感心して即実行に移したものだ。もちろん母相手に。
というわけで行きます。
上空から勢いをつけて死縛獣の長い首に向かって手刀を振り下ろす。
その姿はまさに流星のごとし。シューティングスターブラックドラゴンである。
「はい、ずどーん!」
「────!!!!!?」
首を砕く勢いで行ったのが良かったのか、死縛獣の鱗がバラバラと砕けて宙に舞う。
ダメージが通っているのかはよく分からない。
そもそも名前が付いていないことからわかるように、この技は必殺技ですらないからそこまで期待はしてなかったのだけどね。
なぜ必殺技ではないかって?母に向かってやってみた時にダメージを与えられなかったところか「首のコリがとれた」とかぬかされたからだ。
ただその場から微動だにしなかった母とは違って死縛獣は首が地面にめり込んで鱗もはじけ飛んでるから、やはりあそこまでのでたらめ防御力はないようだ。
そこはまず安心だね。
「────!!!!!」
「おっと」
割と痛かったのか、それとも怒らせてしまったのか死縛獣さんがその場で大暴れを始めた。
衆をめちゃくちゃに薙ぎ倒しながら、首や体に翼、そして尻尾をバタバタ。
まだ近くにみんないるだろうし、地上でこれ以上遊ばせるのはよろしくないかもしれない。
そんなわけでレッツ空中戦。
こっちに向かってしなってきた尻尾を掴んで空に飛び、そのまま死縛獣を持ち上げて振り回す。
「うおぉぉおおおおおおおお遠心力ぅぅううううううううう!!!!」
空中でブンブンと回転しながら振り回し…。
「どっせぇえええええええええい!!」と投げ飛ばす。
目指せドラゴン遠投新記録。
すると死縛獣を投げ飛ばした方向から大勢に重なった悲鳴が聞こえてきた。
「ん?…あ」
しまった。
あっちは確かアンダーソンくんがいた方向だ。
つまりは一般ピーポーんちゅがいるという事。
それはまじゅい。
急いで投げ飛ばした死縛獣を飛んで追い、追い越して下に潜り込む。
これを地面に墜とすわけにはいかないのでさらに上に打ち上げるのだっ!
魔力を腕に練り込み、拳を握る。
コツは抉るようにではなく、穿つように…だ!
「ほわぁぁぁぁぁぁ…ドラゴンあっぱー!」
拳が落ちてくる死縛獣の胴体にめり込み…その身体を目論見通りに打ち上げる。
そしてすかさず追撃。
向こうも上に飛ばされながらもこちらを向き、何か攻撃をしようとしてきてるけど遅い。
「受けよ!すぅーぱードラゴンビィィィィィィィィム!超連打!」
魔力を展開して広範囲に向かって何の変哲もないビームを大連打する。ただそれだけの牽制技である。
そこまで威力はないけれど、爆発で視界を奪えるし、うっとおしいしでダメージは与えられずとも母との戦いで何かと便利だった小技ですん。
ひとまずジャブ的に一連の攻撃をしてみたけれど…はてさてこれでどれくらいのダメージを与えられたか。
少しは怪我くらいしてくれてるといいな。
────────────
「…圧倒的っすね。まさに「遊び」っす」
くもたろうたちは半ば放心して空の戦い…いや、遊びを観戦していた。
メアは牽制のつもりだが、傍から見ればあまりにも一方的で戦いと言うものが成立していない。
それほどまでに圧倒的だった。
「…凄まじいな。あれもキミたちの知り合いなのかね」
「なんすかアンタら。向こうに行ったはずじゃなかったっすか」
くもたろう達に合流するように現れたのは別れたはずのポリアデルス達三人だった。
ポリアデルスは苦笑いを浮かべ、首を振る。
「さすがにこんな光景を見せられてはね…放っておくことはできないさ。それに避難の方は想像以上に若者がうまくやっていて私達老人の役目はなかったのだよ。それよりもあの少女は…いや、少女の形をしたアレは何者だね」
「…ウチらの主っすよ。それ以上は何も言わねぇっす」
「そうか…長生きはしてみるものだ。人生はいつだって予想外を運んでくる。あれでは教皇様でさえも…」
その力は人の計れる領域を超えていた。
死縛獣が吠えたと思えば少女も大声を上げ、次の瞬間に周囲が消し飛んだ。
少女が勢いをつけて上から落ちたと思えば周囲が立っていられないほどに揺れて、地面が陥没した。
重いなんてものではない巨体を持ち上げ、振り回したどころか投げ飛ばし、さらには殴り飛ばす。その時の衝撃で地上には強風が吹き荒れたほどだ。
そして今は空の雲を吹き飛ばし、太陽の光すらも飲み込むほどの光の奔流が放たれ続けている。
強いのかどうかと議論することすら馬鹿らしい。異常という言葉でもなお足りない。
子供だってもう少し現実的な夢を見るだろう。
それが現実の光景だと脳が理解を拒む。
一個人が持っていい戦闘力ではない。
「あれでは死縛獣も…」
ポリアデルスの言葉を待つまでもなく、光の爆発の中から黒く焦げた死縛獣が地面に向かって逆さまに落ちていく。
今までの苦労は何だったのか…と馬鹿らしくすら思ってしまうほどに。
「…ポリアデルス」
背後から耳打ちするようにストガラグがポリアデルスの名を呼んだ。
そこに込められた意味は言葉にされずとも理解できる。
──ここでくもたろう達を人質にとり、あの少女と交渉するべきではないか。
それは当然ポリアデルスも真っ先に考えた。
だがすぐに却下した。
ストガラグも一応聞いてみているだけで本心からそれをするべきだとは思っていないだろう。
どう考えてもそれをするデメリットの方が大きい。
あの力を見せられたのなら心証を悪くする行為は避けることこそが賢明な判断だ。
「困ったね…本当に困った。だが何より…美しい」
ポリアデルスは空に浮かぶ少女を見て心の底からそう思った。
おそらくこの戦いを目撃した民たちもそう思っただろう。
「はん!枢機卿にも見る目があるやつがいるんっすね」
「ははは、我々とて一人間だからね。あぁそれとも嫉妬かね?安心したまえよ。それでもまだ私の興味と興奮はキミの物だよくもたろう」
「ひぃぃ…」
「まぁそんな私の本音はさておき、このまま静かに終わってくれるのならそれがベストだ。だが…」
ポリアデルスは一つだけとある懸念があった。
そちらはどうか杞憂であってくれと願いながら空に瞬く光を眺めていた。




