回収してみる
さてさて、見える範囲の怪物をあらかた殲滅し、あとはアンダーソンくんと教会の人たちで何とかなるでしょう。
ならいよいよと気になるアレに向かっていきますか。
そこそこ距離があるのに存在感が凄い空のあれ。凍り付いている死縛獣。
空気にのってビリビリと伝わってくるのだけど、凍り付いて無力化されているように見えて、その実めちゃくちゃ元気そう。
次の瞬間にも氷を破って動き出しそうだ。
「というかこの氷と雪…もしかして銀龍さんの?」
以前に銀神領で感じた…いや、食べたことのある力の気配。
うん…間違いなく銀龍さんのそれだ。無事に見つかったのかな?そもそも何をしていたのだろうかあの人。
「…後で聞けばいいか。答えてくれない気しかしないけど!」
何はともあれ死縛獣にむかってレッツフライ。
…そう思った途中で無視できない気配を感じたので急ストップ。
「…なんでこのタイミングで見つかるかにゃぁ」
空を飛ぶ私の足の下。つまり地上に神父おじさんの姿を見つけてしまった。
向こうも気が付いたようで、私の事を見上げている。
まぁ厳密には私が見つけたのはおじさんではなく、そこから感じる呪骸の気配なんですけどね。
ちょっと前にカフェで出会ったときは呪骸の気配なんて感じてなかったのに、今は確実に感じる。
私が寝て起きるまでの間にどこかからか取ってきたのか…もしくは私が呪骸の気配を辿れないほどに不調だったか。
どちらにせよ今はおじさんが呪骸を持っていると言うのは事実だ。
だとすれば私がとるべき行動は一つ。
翼をたたんで地上に急降下。
おじさんの前に降り立ってみた。
そして数時間ぶりに再会したおじさんなんだけど…何かおかしい。
「…なんか小さい…?」
なんかおじさんがちっちゃい。
前まではその大きなおなかを見上げていたのに、今はお腹が私の視線の下にあってほぼまっすぐの位置でおじさんと目があっている。
なんでこんなことに?
「このような体系だと背が低く見える…という事は時折あるけどもね。しかし初対面の相手にそんなことを言われるとは思わなかったよ」
「初対面?何を言ってるの?」
「む?キミは私と会ったことがあるのかね?…自慢ではないが私は美しいものに目が無くてね。キミのような美しい人を目のあたりにすれば口説き落として我が教会に招待しようとしてしまうほどに。だが私にそんな記憶はないし…こう言っては何だが、キミのような美人で、しかも黒髪となれば忘れるはずはないと思うだよ。だが私の記憶にキミの姿はない。だから初対面だと思うのだがね?」
「んー?でもさっきも…」
そこで私はようやく気付いた。
あまりにも久しぶりすぎるけど、アレだ。
私…またもや何故か大きくなってしまっている。
おじさんが小さくなったんじゃなくて、私が大きくなってるんだっ!!
絶好調過ぎて成長してしまったらしい。
そんなこともあるんだのう。
絶好調って怖いね。
「さっき?はて…」
「あぁごめんごめん、勘違いだった」
説明するのもちょっと面倒というか、どういえばいいのか分からないというか、そもそも私自身なんでこうなるのかわかってないところがあるので勘違いだったということにしておきましょう。
ぺらぺらとおしゃべりしてる暇もないしね。
さっさとやることをやってしまおう。
「…何かね?その手は」
「呪骸くーださいっ!」
「…」
神父おじさんが探るような目を向けてきているのがわかる。
何か変なことを言っただろうか。
「キミは…何者だい?空を飛んでいたことを見るに普通の人間ではないことは分かっているが…まさか先ほどの黒い光の束もキミの仕業なのかな」
「さぁどうでしょう。それよりも呪骸をくださいな。そんなもの持ってても危ないだけだよ?」
「…それはできない。何を目的としているのか知らないが、この状況下で力を手放すわけにはいかないからね。それとも…取引をしたいという事ならやぶさかではないがね」
「とりひき?」
とりひき…鶏…ひき…鶏ひき肉。
なぜこのタイミングでお腹がすくようなことを。
まさか私の意識を逸らそうと?ぐぬぬ…どうやら中々に心理戦が強いおじさんだと見える。
こうも的確に私の動揺を誘うとは。
「そう、取引だよ。その美しさ…中々…いいや、かなりのものだ。私の興味と興奮は現在とある少年に向けられているのだが、それを差し引いても貴方は美しく、琴線に触れる。どうだね?無事にこの状況を生き残れたのなら、呪骸の事に関して交渉の席に座ることを対価に、この私に一晩付き合うと言うのは」
「んー…ご飯出る?」
「当然だとも。私ができる最上級のおもてなしをしよう」
「さいじょうきゅう!!」
このおじさんは神父…つまりはとっても偉い人だ。
そんなひとが最上級と言うご飯ならさぞ美味しいのではないでしょうか!
むむむ…これは魅力的すぎる提案だ。
くそう!くそう!なんて巧妙かつ狡猾なんだ…!こうも私の心を乱してくるなんて…!
このおじさん…やはりただ者ではない…!
あまりにうまい気の逸らし方過ぎて背後から迫ってきていた気配を一瞬だけ忘れてしまったよ。
「まぁだからといって別に何でもないのですが」
背後から迫て来た刃をひとまずつまんで止める。
なんだかずっと誰かいるなぁと思っていたけど、突然襲い掛かってきたのは派手な服装のお兄さん。
…この人もどこかで会ったことがあるような気がする。どこだっけな。
「まさか今のを止めるとはのう…しかも指でつままれるとは、こんな受け止め方をされたのは初めてじゃのう…しかもビクともせん!」
ぐっぐっと刃に力を込められてるけど、絶好調の私の指の力はそんなものでは動かぬわ!ふははははは!
なんて冗談は置いておいて、この派手なお兄さんからも呪骸の気配を感じる。
それも回収しないとにゃぁ。
「あなたも呪骸を持ってるよね。出してもらっていい?」
「欲しいなら奪ってみぃ」
「じゃあ遠慮なく」
許可を頂いたのでれっつ強硬手段。
気配を感じるあたりに向かって手を伸ばす。
するとさらに物陰にいた気配が動き出して私に向かって飛びだしてきた。
そして飛び蹴りをしてきたので咄嗟に掴んでいた刃ごと派手なお兄さんをそちらに投げ飛ばしてしまった。
お兄さんと飛び蹴りさんはもつれ込むようにして倒れたけど、すぐに置きあがって私と距離をとる。
中々に戦い慣れしていそうな人たちだ。
「…二人とも気を付けたまえ。どうやら狙いは呪骸らしい」
「死縛獣の件もあるというのになぜこうも厄介ごとが続く…なにものだこの女は」
「まぁ誰も心当たりがない言うなら考えるだけ無駄じゃろい。敵なら斬る…それだけじゃい!」
私向けられる三つの殺気。
呪骸が欲しいだけなのにどうしてこうなるのか。
でもこうなったら仕方がなし。
死縛獣のところに向かう前に一仕事しますかね。
荒らし、混乱の元系ドラゴン。




