元気になってみる
私はとにかく元気だった。
目が覚めてオハヨウゴザイマス!してからというもの、とにかく絶好調。
少し前までのぼんやりとした体調の悪さは何だったのかと思うほどに、とにかく具合がいい。
身体が軽いし、頭もいつもよりすっきりとしている。
体調が悪い時は飯食って薬飲んで寝ろと母が言っていたけど、マリちゃんとお菓子をいっぱい食べてぐっすりと寝たのが良かったのかもしれない。
なんならあの時何故か混入していた毒が薬になってくれたのかもしれない。
なにはともあれとにかく私は過去最高レベルに体調が良かった。
身体が健康なら気力まで漲ってくる。
テンション爆上がりの絶好調。最高にパイナップル…というやつだ。
そんなこんなで絶好調の私はテンションに身を任せて黒い謎のなにかを倒してまわっていた。
そして一際黒いのが集まっている場所に突撃して遊んででいると…その中心に人間さんがいた。
人間の若い男の人。
その人はボロボロになりながらも戦っていたようで…なかなかガッツがある人のようだ。
ただしその手に握られているつるはしが気になった。
まさかそれを振り回して戦っていたのだろうか?
確かに威力はありそうだけど、もう少し武器っぽいものを使ったほうがいいのではないかと私は思うんだよね。
いや…重量はあるし、尖ってるし、硬いしで意外と武器なのかもしれない。
「人間さん大丈夫?安全なところまで連れて行ってあげようか?」
そんな場所が果たしてあるのか分かんないけどもね!
「神様…」
人間さんは呆然としているような、放心しているような…とにかくなんだか呆けたように私に向かってそんなことを言ってきた。
神様?私が?あいあむごっど?我こそ神?
…なにゆえ?
あれか。極限の状況に置かれたせいでちょっとおかしくなるというアレですか。
あるよねそういうの。
私もお腹が空いてる時にご飯貰ったらその人がゴッドに見えるだろうし。
ならばそこを否定せずに生暖かく見守るのがいいのかもね。
「そう…我こそが…神」
「穴掘りの神様…!俺を…いや、この国を助けに来てくれたんですか!?」
…穴掘り…?なぜそんな限定的な神様だと思われているのか謎すぎる。
掘ってないよ!穴なんて!こわいよ!
あんまり関わらないほうがいいのかもしれない。
いや…ちょっと待って?そう言えばこの子どっかで見たような気が…。
「ねぇキミ…どっかで会ったことある?」
「え…あ、えっと…俺です!あの…そうだこれ!」
ずいっとつるはしを見せてくる謎の青年。
そんなものを見せられても困るのですが?むむむ…。
最近はずっと体調が悪かったから、記憶力もなんか落ちてるのかなぁ…。
今の絶好調状態を見るに、かなり前からどうも私は不調だったようだし…あー…この思い出せそうで出せない感覚…もやもやですん。
「あ!神様危ない!」
青年が急につるはしを持って立ち上がった。急に切れる若者過ぎて怖いでござる。
しかし何が危ないのだろうか。あたりを見渡しても特に危険はなさそうに見える。
まぁ怪物が押し寄せてきたので、尻尾を生やして薙ぎ払っておいたけど…それは別に危なくないしにゃぁ。
「…なにかあったの?」
「いえ…それよりも神様…本当に俺の事覚えてない…?」
「ううん覚えてるよ?覚えてるけどほら…私にも事情があるというか」
記憶のどこかには引っかかっているんだよ。
それはつまり忘れていないという事ですよ。つまり覚えているのです。
私の記憶力は完璧であるはずなんだよ。
むむむむむむむむむむ…急に切れる若者…つるはし…あー!なにかきそう!思い出しそう!なんだっけ!!もうちょっとなんだけどなー!記憶の扉が開くまで!
うーーーーーーーーーーん!
────あ。
思い出した。
この子あれだ。白神領にいた子だ。呪骸を腕に埋め込んでたおじさんの隣にいた子。
そう言えば確かにあの時、つるはしを渡した気がする。
移動するのに邪魔だったんだよねアレ。
うん、完全に思い出した!名前は確か…。
「アンダーソンくん!」
「え!?いや、俺は…」
その時、少しだけ遠くの方からたくさん重なった悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「あ!あっちは…!」
「なにかあるのん?」
「避難してきた市民の皆さんがいるんです!まさかあの怪物が…」
「んーどれどれ」
建物を踏み台に大ジャンプ。
飛べばいいじゃんと思う方もいらっしゃるかもしれませんんが、あれって疲れるしいい的になるしで戦闘ちうはあまり推奨いたしませぬですよ。
勉強になりましたね。
そして見える見える。
確かに大勢の人間さんに向かって黒い化け物がゆらゆらと近づいて行ってる。
どうも私がやってきたのとは別方向の襲撃っぽい。
白い服を着たたぶん教会関係者の人たちが応戦しようとして入るっぽいけど苦しそうだ。
着地してそれをアンダーソンくんに伝える。
「大変だ…すみません神様、俺行かないと!助けてくださりありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げてつるはしを片手に走り出すアンダーソンくん。
うむ、礼儀正しい若者だ。
正義感もある。
うんうん、よきかなよきかな。
前に出会ったときは結構嫌な感じだったけど、今はそんな感じもないし怪我も厭わず向かっていく姿は中々に好感である。
どれどれ少しだけ手助けをしてあげようではないか。
今日の私はとても絶好調のハイパーメアさんだからねっ!
再び大ジャンプからの翼を生やして空中静止。
結局飛ぶんかい!と思ったそこのあなた。
そうです!結局飛びます!なぜなら絶好調だから!
「敵が多いから一体ずつ潰しても仕方がない。ならば範囲技でと思いきや一般ぴーぽーが多くて難しいと」
倒すだけなら簡単だけど、あの人間さんたちに被害を出さないようにとなると難しい。
おそらくここにいるのが普通のブラックドラゴンなら頭を抱えることでせう。
しかし私は違う。
絶好調の上り坂ストップ高のアルティメットブラックドラゴンだ。
当然こんな時に使える技もありますとも。
「魔力展開っ!まるちろっくおん!」
高く跳びあがっているから敵が良く見える。
狙いをつけるのは私の目視。これが腕の見せ所…視力の振るいどころだ。
私はかつて母と戦っているときにふと思ったことがある。
さすがのやつも目は弱点なのではないかと。
身体は硬い鱗に覆われていて生半可な攻撃どころか死力を尽くした一撃でもダメージがほぼ通らない。
でも目や口の中ならどうだ?そう考えた。
当然だけど剥き出しの粘膜部位に鱗なんてものは存在しない。
瞼も構造的に硬いなんてことはないだろう。
だからこそを集中的に狙えばダメージになるのでは!?と。
そして編み出したのがこの技。
私が目視で狙いをつけた場所を執拗に追跡して貫く…いわゆるホーミングレーザー(母の記憶より)だ。
命中精度に振り切っているせいで威力は高くない。
でも回転を加え、貫通力を高めることである程度は補っている。
そしてこの技のいいところはそこまで魔力を消費しないので乱射が出来ることだ。
という訳で受けよ!絶好調なる私の一撃(連射)を!
「私の2京ある必殺技の一つ…ドラゴン・マルチプル・スパイラルビームぅう!!!!」
空に展開した魔力の塊からビームが発射され敵に向かって飛んでいく。
ちなみに母に対して有効だったのかどうかは…超必ではなく必殺技である時点で察してほしい。
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目を焼くほどの閃光が奔り、スレンは上を見上げた。
そこにあったのは黒い流星群…青い空すら埋め尽くす漆黒の光の束だった。
その光を辿った先にいるのは…穴掘りの神様だ。
「綺麗だ…でも…まさか神様…市民ごと…!?」
慌てて走り、スレンは避難場所まで急いだ。
間に合うはずはない…それでも走りださずにはいられなかった。
そして見た。
それはまさに神の御業と言うしかない光景だった。
飛来した黒い流星群は人々を避けて正確に黒い怪物だけを撃ち貫いていく。
「すごい…」
思わず漏れたその一言は…その光を見た市民全ての言葉の代弁だ。
教会の執行官でさえも思わず見とれた。
黒と言う忌むべき色を纏った光なのに…人々を守り、怪物にだけ降り注ぐそれが神々しく、美しく見えた。
「神の救いだ…」
誰かがぼそりと口にした。
それは人々の中ですぐに広がっていき、大きな歓声が上がる。
そして誰かが流星群の発生先に小さな影を見つけた。
距離が離れすぎていて全容は見えないが、確かに人の形をして翼を生やした何かが空に浮かんでいる。
そして人々の元まで辿り着いたスレンは空を見上げて呟くのだ。
「やっぱり…神様なんだ…」
このつぶやきは人々の中にゆっくりと、そして確実に浸透していき…金神領の歴史に神が降臨したという一文が刻まれたのだった。




