死を招く2
頭がぼーっとしている。
さっきまで自分が何をしていたのかいまいち思い出せない。
寝ぼけているというかなんというか…とにかくぼんやりとしていて自分というものがうまく掴めない。
目が覚めたのに…まだ眠っている…そんなうまく説明できない状態だ。
「あ、お姉ちゃん起きた?おはよう!お姉ちゃん」
「あぇ…?」
視界に【赤】が広がった。
仰向けに寝かされている私に覆いかぶさるように、血のように真っ赤な髪をした女の子が私を覗き込むようにしていた。
「おねえ…ちゃん…?わたしが…?」
「ん?どうしたの?お姉ちゃん」
私をお姉ちゃんと赤髪の女の子が呼ぶ。
お姉ちゃん…誰が…?わたし…?でも私には妹なんて…いや…でも…。
頭の中で小さな火花がチリチリと燃えては消える。
何かが掴めそうで掴めない。
私の頭の中にあるのに、私の物じゃないから掴めない…そんなもどかしさに頭が痛む。
「うっ…いたぃ…」
「お姉ちゃん?あ、もしかして…」
女の子がただでさえ近かった顔をさらに近づけてきて…私の唇に唇を重ねてきた。
さらに口の中にぬるりとした物が入ってきて…。
「うう!?」
「あははっ!ごめんごめん。でもやっぱりちょっと「混ざってた」みたい。応急処置とはいえ私の力を分けちゃったせいかも。ごめんね?でももう大丈夫でしょ?」
驚いたし、女の子が何を言っているのかは理解できないけれど、確かに頭の痛みは消えていて…今度は逆に妙にすっきりとしている。
「たぶんもう少しすれば落ち着くはずだから、もう少し休むといいよ。私はもう行かなくちゃなんだけど、お姉ちゃんも次に起きたら早くここから出たほうがいいよ」
「行くって…どこに…?」
「んー…別に行く当てはないけれど、この国からは出るかな。この場所はね…死への想いがいっぱいだから。あんまり長居するとよくないの。それはお姉ちゃんにとっても同じだよ?だから今はばいばい。また遊ぼうね」
そう言って女の子は幻のように私の前から消えてしまった。
追いかけようと思ったけれど、強烈な眠気が襲ってきて…私はそれに抗えず眠りの中に落ちて行った。
夢は…見なかった。
────────────
「喋った…」
ヴィオが銀龍を見てぼそりと零すように呟いた。
他の面々も声こそ出さなかったが、一様に驚いた表情で銀龍を見ており、それだけ彼女が言葉を発することが珍しく、めったに見れない光景であることを表していた。
しかしそれ以上は喋るつもりがないのか…もしくは力を使い果たしたのか、銀龍は周囲の視線をものともせず、食事に戻ってしまった。
そんな銀龍にポリアデルスが小さく拍手を送る。
「…まさか正解が出るとは思わなかったな。そう、彼女が言う通り死が通り過ぎた後に残るのは死への想いだ。…【死想】とでも呼ぼうか」
「死想…なんだそれは…?」
「なにってそのままの意味だよ。理不尽な死に晒されたとき、人は死に際に思うだろう?「なぜ自分が」「死にたくない」と。そしてまさに死が迫りつつある人間は「死にたくない」と強く思い、無事に生き残った者は後に死者に対して哀悼を残す。死への想い…これが死想だ」
「くだらない。死ねばただの死骸になるだけなのに、それが何だって言うのよ?」
「君のような龍が下らないと切り捨てるそれこそが厄介なものでね…昔から言うだろう?人の想いと言うのは時に奇跡を起こすと。そして奇跡が起こるのなら…その逆もありうるという事だよ」
「…話が見えないぞポリアデルス。お前は何を言っている…?」
「そうなるだろうから最初に前置きをしていたのだがね」
さてどうしたものかとポリアデルスは毒の入った小瓶を弄びながら天を仰ぐ。
これからする話をどうすればうまく伝えることができるのか…それを頭で考え…ふと手元の小瓶に視線を落とす。
中の毒が溶けださないように、特別に作られた透明の瓶…中身が確認できるようにと透明に透き通ったその小瓶が光を反射して周囲の景色を写し取る。
そこに金髪の女が映り込んでいた。
「っ!!そこの魔族を隠せ!早く!」
椅子を蹴飛ばすような勢いでポリアデルスは立ち上がり、ニョロを指差して叫ぶ。
「もたもたするな!急げと私は言っているんだ!!」
先ほどまで丁寧に、そして飄々と話していた男の突然の変貌に誰もが動けなかった中、ストガラグがいち早く動いてニョロにフードをかぶせた。
理由は分からないがよく知るポリアデルスの初めて見るらしくなさに、何かを感じ取ったのだ。
そしてその直後、カフェに新たな客人が訪れる。
金を纏いし毒龍だ。
それは偶然だった。
昨夜の襲撃事件の折、ネムと相対した襲撃者の一人が近くの排水路に落ちて一命をとりとめ、そのことに誰も気が付かなかったこと。
ポリアデルスがニョロの捜索のために教会内のほぼすべての人員を捜索に割いてしまっていたこと。そして市街から金龍を遠ざけるために金龍に教会に戻るように言い含めたこと。
命からがら教会に帰還した襲撃者の生き残りが事情の分かる誰かを探し求めて教会内を徘徊してしまった事。
そしてその襲撃者と金龍が出会ってしまった事。
その襲撃者が金龍の正体を知らず、ただの教会関係者だと誤解し、全てを話してしまった事…それらはすべて偶然であり、不幸の積み重ねだ。
しかしそれが…まさにこうなる運命だったとして金龍をこの場に導いてしまったのだ。
「金龍様…なぜ…このような場所に…」
「あんた…アタシに隠れてこそこそ何をやってるの?」
「隠れてなど…ただこれは金龍様に関係のない些事で────」
「黒蛇って何のことよ」
「はて…私には何のことだか…」
「あんた…」
「ポリアデルス!!」
叫ぶようなストガラグの声と共に、ポリアデルスの横を通り抜けてニョロが前に出た。
ニョロは人型になっても蛇だ。
その滑るような身のこなしでストガラグをやり過ごし、金龍の元にその身を晒してしまった。
「────」
「ねぇ…ね…?」
そしてこの再会は…金神領の地に死を招いた。




